case.16 ルインVSマノン(2)
「『我、強欲の王なり。我が魔法は天を穿ち大地を轟かせる。力求めし太古の獣に、今百鬼を討たせる覇の力を宿し給え。―――限界突破……殲滅、開始……』」
そう、マノン様の詠唱が終わった直後の事だった。
辺りを包んでいた緊張感は一気に増し、さらにはマノン様本人まで、その容姿が変わっていった。
「ウォォ…ォォォ………!」
バキッ!ビキビキッ!……そう、激しい破裂音と共に、マノン様の肉体は大きくなっていく。
やがて……巨大化は終わった。
しかし、その変わり果てたマノン様の姿を見て、私は驚愕した。
大きな、獅子。
そう言うのが、適切だろう。
―――怖い。
怖くて戦えない。
正直、今すぐここから逃げ出したい。
でも、そんな事をしてしまえば……マノン様はともかく、あの海王様に……あの人を盗られる可能性を作ってしまうということになる。
それだけは、絶対にさせない。
―――絶対ニ。
「グァァ……あ……あ……クッハッハッハッァ! 獣化……成功だぜェェ!」
あ……いつも通りのマノン様の声がする。
すごい……こんな大きな獅子の見た目で、いつも通りの声なんて、違和感マックスです。
「なァルイン。テメェはさっき、俺に魔法を使ったよなァ? 何故だ……」
私が……魔法を使った理由?
そんなの……ある訳無い。ただ、目くらましとして使っただけ。
でも……あの雰囲気、あの声のトーン……そんな事を言えば、私の命は無いだろう。
「……」
私の出した答えは沈黙。
あえて、何も答えない。
「ほう? 答えないか。まあいい。俺に牙を剥くとどうなるか、テメェのその身体に刻み込んでやるよッ!」
マノン様が構えた……。
来る……ッ!
「“電光石火・獣式”ッ!」
刹那、地を駆ける音と雷が落ちる音がしたと思えば、マノン様のその巨体は見えなくなっていた。
「―――“影陰”」
私は、前より速く技を使う。
イメージしたのは、マノン様より速く、海より深い場所に隠れること。
「だから遅えって……んなっ!」
「今度は、私の勝ち……です!」
出来た……出来た!
マノン様より速く……成功した!
今の私のポジションはマノン様の足元の影。
そこからどう動くかは、私次第だけど……
「おい……! 何処へ隠れやがった!」
暴れ散らすマノン様。
私はそれを見て、作戦を決めた。
私は主様の隣に……“暗殺者”になると決めたんだ。
だから、どんなに姑息でも、どんなに汚い手を使ってでも勝つ!その位の意気じゃないと、魔帝八皇の……しかもこんな大きな姿になったマノン様に勝つことなんて、絶対に出来ないから!
私の立てた作戦はこうだ。
①影から出る。
②マノン様の脚を急所突きで攻撃する。
③もう一度影に隠れる。
これの繰り返しをして、脚を潰す。
主様の為だったら……こんな事、容易に出来る……!
「何処だ!何処だ! 出てきやがれ!」
「ここですよ……!」
タイミングを見計らい、影から出る。
出たのはマノン様の腹の下の所。もちろん、マノン様の死角になる場所だ。
私はすぐさま、視界に映った脚……マノン様の右脚を手に持つ短剣で突く……!
「“急所突き”ッ!」
グサリ―――しっかり、マノン様の右脚……その下の方を二箇所、両手の短剣で刺した。
「グァァァァァァァァァァッ!」
私はすぐさま隠れる。
マノン様は……痛みで暴れているようだ。
「クソッ! クソガッ! そうか……影に隠れてんのかッ! なら……! “百獣咆哮・光”! ウルァァァァァァァァァァァァア!」
何……?!
身体が、外に引っ張られ……ッ!
しかし、それに気づいたときにはもう遅かった。
もう、私の半身は外に出ていたのだ。
「見つけたぞ……ッ! “光刃”ッ!」
そして、その声を聞いて私は振り返る……だが、またも遅かった。
「ウ"ァァッ!!」
目の前には刃があって、それが私の右腕と、左脚を切り裂いていった。
幸い、切断はされていない……が、ダメージは相当なものだ。
「“雷光”ッ!」
……攻撃が止まらない……!速い……速すぎる!
マノン様だって、右脚が動かないから、移動が出来ないはずなのに……はず……なの……に!?
「ウァァァァァッ! な、何で……マノン様……歩けているんですか……?!」
雷が直撃する。
咄嗟に、魔力の膜を全身に張ってダメージを少しでも軽減した。
いや、それよりも、だ。
歩いていたのだ……。
私は、確かに刺した。
しかも急所を。二箇所も。
それに、その時使った短剣……刃に毒を塗っていたのに。
「驚いたか? そりゃ驚くよなァ! いいか、特別に俺のスキルを教えてやるよ……!」
そう言いながら、マノン様は口から何かを吐き出した。
「俺のスキルは、『身代わり』。文字通り、自分へのダメージを、誰か別の奴に身代わってもらうスキルだ。アハハハハハハハ! なァルイン、そいつの姿をよく見てみなァ?」
身代わり……?
誰かが、マノン様の身代わりになった、って事だよね……?
私は、こちらに背を向けて倒れているその人物に恐る恐る近づく。
『駄目よルインちゃん! ……ち、近付いたら……ッ!』
アスモフィ様……?
何で……そんな悲しそうな声をして、いるの……?
嫌な予感はしていた。
見た目と気配……それは……
―――主様?
そこに倒れていたのは、紛れもない、自らの主だったのだ。
「主……様? いやっ……いや……イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」
「アハ……アハハ……アハハハハハハハハハハハハハハハ!」
会場は、ルインの叫びと、マノンの高笑いで満たされたのだった。
何故か巻き込まれた魔王様。
果たして本当に死んでしまったのでしょうか―――




