case.13 アスモフィVSムル(3)
傍点ルビの振り方を教えて下さい……(涙目
職業『僧侶』。
この職業の基本的な動きは、味方を回復すること。そして、職業固有スキルである、『加護』を使って味方をあらゆる攻撃から守る役割を持つ。
また、風属性魔法や、水属性魔法が得意な者が多い。
本来であれば、これが『僧侶』なのだ。
しかし私は違った。
固有スキル『加護』を持たずに生まれてきた。
代わりに持っていたのは『逆転』。そのまま“ぎゃくてん”と読んでもいいし、その意味合いから“逆転”と呼ぶこともある。
『加護』の効果は“味方をあらゆる状態異常から防ぎ”つつ、“即死系攻撃を完全防御”してくれるという物である。
そして私の持つ『逆転』は、“対象と対象の能力・効力・威力等を完全に逆転させる”という物だ。そしてこのスキルは同じスキルを持つ者でなければ抵抗出来ない。
私は、そんな『逆転』というスキルを生まれながらに持っていた。
さらには僧侶が最も欲しいとされている2大スキルの内の1つ、『守護』も持っていた。
このスキルのお陰で私は僧侶で居られた。
周りの人は皆『加護』を使う中、私1人だけがそれを使えず、バカにされ、当たり前かのように虐められてきた。
私の故郷、聖皇国ラーゼは聖族が支配する一種の宗教国家で、“打倒魔王”や“神族万歳”などと言うダサいスローガンも掲げていた。
ある日、ラーゼに魔族が攻め込んで来た。
私の周りに居た、同じ学院に通う同級生たち。……私を虐めていた同級生たちや、街の人、国を守る国家聖騎士たちは次々と魔族によって屠られていった。
私は『守護』で、ずっと自分だけ安全なまま、人が殺されていくのを見ていた。
普通の人ならこの状況は、とても辛いだろうし、見ていて吐き気がするレベルだろう。ましてやそれが十数歳という子供ならさらにだ。
だが、それは普通の人なら、の話だ。
私は、その光景を見ていて、とてつもない愉悦感を覚えていた。
人が死ぬのを見て、とても悲しみを覚えれなかったのだ。
それは、私を邪魔者扱いしてきたやつらだったから?それは、私が異常だから?
理由は分からない。でも、見ていてとても気持ちが良かった。
でも、そんな快楽を感じていた時だった。
『君は、人が死んでも悲しくないのかい?』
それは、私の中でもう既に答えが出ている質問だった。
だから、この質問をしてきた若い男に私は言った。
「ええ。私は、あの人たちが死のうが別に悲しくないの」
『そうか。じゃあ別の質問をしよう。君は人を殺すことに躊躇いはあるかい?』
この人は、何を言っているんだろう。
そう思った。だけど、何か答えなきゃ。そうも思った。
「……無い、と思うわ。殺れと言われたら殺る。私は絶対に死にたくないの」
『それは、どうしてだい?』
理由……?理由なんてない。ずっと生きていたい。そう、直感が告げているから。
でも、それをどう言葉にしたらいいのか分からなくて、そのまま沈黙を貫いた。
『……そうかい。じゃあ、僕と一緒に来るかい?』
「貴方と?」
『ああ。僕は魔族の王。いわゆる魔王って奴なんだよ』
魔王……。
その時、私は運命のような物を感じた。
私はこの人についていくべきだ。
そう思った。
「行く。私を連れて行って」
『……分かった。では行こうか』
そうして私は、魔王―――ニルマトリアによって魔界へと連れて行かれた。
そこからは、まるで駆け足のようだった。
ニルマトリアに鍛えられた魔法は、魔界随一の物となり、さらに彼には戦いにおける色々な技術や知識を教わった。
『いいかい? アスモフィ。戦いの中では、常に冷静でありなさい』
「れいせい?」
『ああそうだ。冷静に、落ち着いて物を見るんだ。そしてよく考える。この状況を突破する方法は……ってね』
私は、教えられた通りにやってきた。
冷静に、冷静に……。
時には、冷静さを欠くこともあったけど。
そんなこんなで、ニルマトリアと過ごして200年。聖族である私の寿命は、とてつもない長いものらしく、200年経った今でも私の見た目は若く、歳にして大体20代前半くらいの見た目だった。
私は彼の選んだ魔帝八皇となった。
さらに、私の身体を、魔力を調べた結果、私は【色欲】を司る七つの大罪、大悪魔アスモデウスの子孫であることもわかった。
だからそのまま、流れるように魔帝八皇へと選ばれたのだ。
私が彼の代で選ばれた“最後”の魔帝八皇だった。
当然、私は嬉しかった。ニルマトリアに泣いて喜びを伝えた。
私にとって、ニルマトリアは優しいおじいちゃんのような感じだった。
でも、ある日突然、ニルマトリアは死んでしまった。
私は悲しくなかった。家族同然に育ってきたニルマトリアが死んだのに、だ。
魔帝八皇の皆は、誰一人として悲しんでいなかった。ニルマトリアが若い頃は、殺戮・殲滅なんでもござれだったが、年老いてからは、戦争は駄目だ、だの争いは好まん、だの言って、戦闘好きな魔帝八皇の……特に【強欲】のマノンと【憤怒】のサタールからはかなりの反感を買っていた。
しかし、私のように優しく接してもらっていた、魔族の皆はやはり悲しんでいた。
でも私は悲しめなかった。
それから魔帝八皇の皆はバラバラになった。
私を含めた“7人”は皆思うことがあったのか、それぞれ世界各国へと足を運んだ。
誰も居なくなった魔界と、唯一空席の【傲慢】。それが気がかりだったが、皆気にせず旅に出た。
私といえば、聖皇国に帰っていた。
ニルマトリアから言われた、『魔族を虐める奴らは全員敵だ』という言葉を受け継ぐ為に。
そして、そこで出会ったのがあの人。
私の、運命の人。
1人の魔族の少女の為に、命がけで戦う姿に、私は……
■
彼が死ぬのは、不思議と嫌だ。
それに、彼が私以外の女と居るのも嫌だ。
特に、こんな海王になんかは絶対に嫌だ。
下は火の海。横には氷の格子。開放された上部からは巨大な隕石が。
着弾するまで、残り僅か10秒と言った所か。
(さて、今こそ逆転の時よ。)
「さぁ、突破してみせなさい。魔帝八皇の僧侶さん」
必要なのは、極微小な魔力弾。
狙いは、隕石。
「これで……終わりよ―――」
小さく、放つ。
目視できるレベルの大きさで、本当にごく僅かな魔力で放った小さな魔力弾。
「あら……もうその程度の攻撃しか出来ませんの?」
ふふ……見ていなさい。
これが、私の隠し技。アスモフィの七不思議と呼ばれた内の1つよ!
「『逆転』……」
対象は……隕石の“威力”と魔力弾の“威力”。
「そんな攻撃だと、死にますわ……よ……!?」
ムルは驚いた表情になる。
それもそのはずだ。
―――ドガーンッッ!!!
「そんな……嘘ですわ……!」
何故なら、私の放った小さな魔力弾は、大きな隕石を粉々に砕いていたのだから。
―――形勢逆転……?




