『巫女』が望んだ未来と、変えられる運命の行く末
巫女の選んだ未来とは―――
『魔王が危ない―――』
それは、脳内にうかんだメッセージだった。
多分、『未来予知』の力のからの言葉だったんだと思う。
「お兄ちゃんが……?」
でも、その言葉をすぐに信じることは私には出来なかった。
たくさんの神様を従えた、あのお兄ちゃんが負けるなんてこと有り得ない。
それに、すぐに戻ってくるって言ってたんだもん。
大丈夫なはず。そう、信じてるから。
『なら、視るのです。貴方の力は、その為にあるのですから』
「視る―――?」
今までこの力は、大事な時だけに使おうと思って温存しておいたけど。これを使う時は、確かに今なのかもしれないな。
「分かった……視るよ」
「月夜……お前さっきから一人でブツブツ言ってるけど……どうかしたのか? 見るって……何を見るんだ……?」
一人で喋ってることに違和感を感じたのか、白夜にぃが私にそう問いかけてきた。
「あ、ごめんね……にぃ。私……力を使おうと思うんだ。やっと、この時が来たのかなって……」
「……力って、もしかして未来予知の……?」
「うん。未来予知で……私たちの結末を“視”てみようと思う」
「みるって……ああ。視るか……なるほどな。確かに、その力を使うなら戦闘が始まっていない今しかない……か。分かった。周囲は俺が警戒しておくよ。だから今のうちに視てきてくれ……!」
そう言って、白夜にぃは私の周囲に気を配りながら武器を構えてくれていた。
白夜にぃも協力してくれてるし、今のうちに視てしまおう。
私たちの、未来を―――
「行くよ―――『未来予知』!」
刹那。視界は光に包まれて消えていく―――
◆
「“弐壊槍・破壊”ッ!!!」
俺の分身は球体のイヴを取り囲んだまま、一斉に二本の槍を投げつけた。
周囲を取り囲んだこの攻撃によって、イヴの姿はまるでハリセンボンのように刺々しく変化するが、当然攻撃はこれだけじゃ終わらない。
ただ槍をぶん投げてそれでお終い、なんて生易しいはずがないだろう?
「内側から砕けろ……ッ!!」
槍の先端が赤く光り、突き刺さった部分からシヴァの“破壊”の力とポセイドンの“破壊”の力が一気に爆発して、イヴの硬い装甲をバキバキと破壊していった。
が、もちろん倒し切ることはできず、ただ装甲を破壊するのみに終わってしまった。
だけど……
「(これはなかなか上出来なんじゃないか……?)」
球体イヴの装甲がボロボロと剥がれていく。
もしかすると、あと少しでこのまま倒しきってしまうことも可能かもしれないな。
▶いや……待て―――何だ……あれはッ……!?
(どうかしたのか? ゼウス―――)
▶あれ……は……まさかッ……!! ―――前を見ろ! 魔王!
(前―――?)
ゼウスにそう言われて、俺は視線を球体イヴの方に向けた。
先程まで装甲が剥がれていたが……何か変わったとでも言うのか―――
「何だよ……あれ―――」
それを見たとき。
俺は強い恐怖を感じていた。
球体状態だったのに意味は無いと思っていたが、それは大きな間違いだったのだ。
破壊された球体の中から現れたのは、一つの球体。
正確に言えば、球体の中が透明で透けて見えるような状態の物だ。
そして、そんな透明な球体の中に居たのは―――
▶アレが目覚めたら……本当に世界は終わってしまうかもしれない……ッ!
―――一体の、巨大な赤ちゃんだったのだ。
◆
「―――ヒッ……!」
「月夜、ど、どうかしたのか!?」
それを“視”終わった時、私の心には強い恐怖心しか無かった。
「何が……視えたんだ?」
「……何が……?」
私は今、何をみてきたの……。
―――世界の終わり? それとも白夜にぃやお兄ちゃんたちが目の前で殺されるところ?
大きな巨人が、私たちを蹂躙している様子―――?
ああ……そうだ。
その巨人が―――お兄ちゃんを一瞬で殺すところ……だ。
「もし……私が視てきたことが全部現実になるんだったら……」
「だったら……?」
「今すぐに、お兄ちゃんのところに行こう。世界が、終わっちゃうから……!」
◆
▶アレを目覚めさせてはならないぞ……! 絶対にだ!
「いや……もう、遅いみたいだ……ッ!」
ゼウスの忠告も虚しく。
透明な球体の中にいる巨大な赤子は、ピクリと動き出し、そして右手、左手……さらに右足、左足と順番に球体から抜け出してきたのだ。
と、俺がその様子をただ眺めていると後ろの方からタッタッタッと走る音が聞こえきた。
「―――お兄ちゃんっ!!」
「つ、月夜!? どうしてここに―――って白夜、お前まで!!」
声がして、振り返るとそこには月夜と白夜が立っていたのだ。
すると俺の問いかけに、白夜は答えた。
「月夜が……アニキが危ないって言うから。だから俺たちは助けに来たんですけど……これって一体―――」
「―――これ、さっき視てきた奴だよ……」
「って、それじゃあまさか……ッ!」
「うん……アイツが、私たちを全員―――」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! さっきからお前たちは一体何を言って―――」
話についていけず、つい割り込んでツッコんでしまったが……この流れからするともしかして―――
「―――“視”たの。未来を」
「って事は……」
「うん。アイツが大きくなって……私たちを全員―――殺したの」
―――まあ、そうなるよな。
未来を視てきてそうなる事が分かったから、助けに来てくれた……か。
「アニキ……ッ! アイツが動き出しましたよ……!」
白夜がそう言うと、いつの間にか球体から全身を抜け出していた赤子は、空中でうずくまっていた。
「あれ……は……」
『ウゥ……ウウウアアア』
泣き声―――いや、うめき声のような物を発する赤子。
そしてその直後、それは起こった。
『ウアアアアアン!!!!!』
「……ッ! 地鳴りが……ッ!」
グラグラと地面が揺れ始めて、赤子の声と重なり―――いや、どちらかと言えば共鳴しているような感じだ。
赤子の声が大きくなるにつれて、地鳴りも段々と大きくなっていった。
「なんかアイツ……大きくなっていってないか……?」
さらには赤子の身体は、徐々に大きくなり始めていた。
これは見間違いなんかじゃなく、何度も目をこすって確認したが変化はない。―――紛れもない事実だったのだ。
「このままじゃ―――世界が―――!」
「一体、お前は何を見たんだ……教えてくれ、月夜!」
その光景を眺めていた月夜の表情が、段々と歪んでいくのが分かって、俺はすぐに月夜にそう尋ねた。すると月夜はこう言ったのだ―――
「アイツが大きくなりきった瞬間に……世界がボロボロに崩れ始めたの……それで、私たちはそれに巻き込まれて―――」
▶ああ……それはまさしく、アダムとイヴがよく言っていた“世界の終焉”そのものじゃないか……!
偶然の一致、なんて訳じゃなさそうだな。
多分、双神は―――アダムはこうなる事が分かっていたからこの力を使わないようにしていたんだ。
しかし、だとすればこのまま無抵抗で世界を終わらせる、なんてことにはさせちゃいけない訳だ。
「どうにかして世界が終わるのを回避しないといけないわけか……だいぶ終わりっぽい無理難題だな……ッ!」
「アニキ……どうしますか……?」
「どうするって言われても……」
「―――ここは、私に任せてください!」
月夜が、意を決した様子で一歩前に歩み出た。
「月夜……! お前に何ができるってんだよ! ここは俺たちに任せて―――」
「……いや、白夜。ちょっとだけ待ってくれ。もしかするとこれは、月夜にしか出来ない事かもしれないぞ―――?」
「え……アニキ、それって一体どういう……」
そうだ。
出会ってすぐに獲得した、月夜の謎のスキル―――あれを使うときが、ようやく来たんだ。
「うん。スキル―――『改変』。このスキルで、私が近い未来を操作してくるよ」
「改変―――って、あの効果も分からなかったあのスキルか……!」
確定した未来を変えることのできる、このスキルなら。
近い未来に起こる出来事を操作できるのならば、或いは―――
「頼めるか? 月夜―――」
「うん! 任せてっ!」
「お前一人にこんな大役を押し付ける形になっちゃって……本当に申し訳ないけど……。ここさえ何とかしてくれれば、あとは俺と白夜に任せくれればいいから……だからっ……!」
「―――大丈夫だよ。私に全部任せておいて!」
両手を胸の前に合わせて、祈るような……願うようなポーズで言う月夜。彼女は言葉を続けた。
「やっと、私がこの世界に来た意味が理解出来た気がするの。“巫女”として召喚されて……訳もわからないまま戦わされて。だけど……その全てが運命だったのなら。
私が、皆を導くよ。にぃたちを、アイツに勝てる未来に、導いてみせるよ。
―――私、頑張るからさ。だから……あとは二人に任せるね?」
「ああ……任せておいてくれ」
「月夜は安心して、お前の全力を発揮してくれれば大丈夫だよ。―――未来を、頼むぞ」
「うんっ!! それじゃあ……行ってくるね!」
スキル『改変』は、未来に直接干渉する力だ。
だから、意識を完全に手放して、肉体は無防備な状態になる代わりに、神視点で未来を操作する事ができるらしい。
俺の中の神たちがそう教えてくれた。
だから今だけは、月夜を守ろう。
未来が変わって、彼女の意識が戻ってくるまでは。
「白夜―――あとは、俺たちの番だ。やれるな?」
「当然ですよ。アニキこそ、遅れを取らないでくださいね?」
「言うようになったな。それじゃあ……全力で月夜を守るぞ!」
「はいッ!」
『ウオアアアアアアアア!!!』
目の前には、赤い空の光に照らされた一体の赤子が、その肉体を徐々に大きくし始めていた。
あれが完全に巨大化したら、その時こそは世界の終わりが訪れるのだろう。
それまでに……月夜には未来を変えてきてもらわなくちゃいけない。
「(頼むぞ……月夜ッ……!!)」
俺たちは願う。
最後の、一縷の望みが叶う事を。




