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case.29 急章『開幕』

箱庭の中。

その世界を見つめるのは、一人の青年。






 ずっと。ずっと我慢してたんだ。

 何をするにも、“創造”の力は便利だったから。


 ずっと、ずっと背中を見てきた。

 俺はただ壊すことしか出来なかったから。



 でも、もうそれもおしまいにしよう。

 今日で、全てを断ち切るんだ。



「なァ、アダム―――俺は、お前との生活も案外楽しかったんだぜ?」







『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』


『消えろ……全て全て全て全て全てッ!!!』



 イヴはアダムを、自身の魔法によって捕らえていた。

 捕らわれたアダムは弱っているせいか、そこから抜け出せずにいた。


 いや、そもそも抜け出す気が無かったのかもしれない。

 だって彼女が望んでいたのは、そもそも―――



『全部お前が悪いんだッ!! お前があの時ニルマトリアを殺さなければッ!! お前があの時異世界から三雲翔一アイツを召喚しなければッ!! 魔王アイツに都合のいい力を何でもかんでも与えなければッ!!』


『わ……た……しは―――』


『どうせ楽しみたいとかそういうくだらない理由なんだろうがよ……俺はただ、世界が壊せればいいと思ってたッ!! でも違ったんだよ―――俺は、俺は―――』


『い……ゔ……?』


『ただ、お前みたいになりたかっただけなんだよ……何でもかんでも自分の好きなように出来る……お前みたいになぁ……』


『な……ら……共に―――』


『だから、俺は気づいちまったんだ。“あの力”の本当の使い道になァ―――?』



 彼女が全てを理解するのに、彼のその一言は十分過ぎた。

 それが分かった瞬間、アダムは必死にその場から逃げ出そうと抵抗する。何度も何度も、鎖を引き剥がそうと。



『本来のアレは、互いの足りない部分を補うような力だろ? でも……俺に足りないのは“お前の力の全て”だ。だったら、もう何が言いたいか―――分かるよなァ?』


『……め……て』


『恨むんならよ。全部自分で作り出した罪のくせに、俺にも責任を負わせようとした自分自身を恨むんだなァ?』



 イヴはそう言うと、悪魔のように口を裂いて笑って。

 そうして、その力を解き放ったのだ。



『―――“表裏一体なる我らは認めよう”』


『……ゔ』


『“我に足りないのは破壊の祖たる創造の力なり”』


『い……ゔ』


『“我が求めるのは創造の全てなり”』


『われは……もとめな―――』


『“我はあらゆる神に誓おう。この世界を思いのままに描き直す事を”』


『だ……め! だめ……よ!』


『“力求めし我が名はイヴ=クルシャリア。我は汝の全てを求めよう”!』



 どこか不自然に切り取られたような詠唱をしたイヴは、その詠唱を終えると光のようなモノに包まれていった。

 そしてそれと同時に、アダムも光に包まれていく。



「あれは……」


「―――体が動いた……っ!?」


「嘘! それは本当なのか!?」


「ええ!」



 そこに奇跡は重なった。

 アスモフィが癒やしていた魔王ルミナスの体が、一瞬だけだがピクッと動いたのだ。


 それに驚いたアスモフィが声を上げると、双神の様子を見ていたメタリアも急いで戻ってくる。



「お願い……早く戻ってきて……! ―――ルミナス様……っ!」





「―――はい。これでもう大丈夫だと思うよ」


「ありがとう。それじゃあ俺はまた戦線に戻ることにするよ」



 ルミナスは、アスモデウスに礼を告げながらその場を後にしようとする。

 大切な仲間たちがまだ目覚めていない現状に、少しだけ焦っていたから。


 でも、そんな彼を悪魔たちは引き止める。



「―――ちょっと待ってくれよ」


「……どうかしたか?」


「俺らからも話がある。最後に、少しだけ聞いてくれないか?」


「ど、どうしたんだよそんな突然改まって……」



 サタンが、ルミナスの肩を掴んでそう言った。

 すると、ベリアルを除いた大罪メンバーが―――あのベルフェゴールまでもが全員並んでルミナスの事を見ていたのだ。



「……?」


「悪いな、魔王。せっかく力を託して、あとは高みの見物決めこもうって思ってたんだけどよ。かわいい子孫たちがあんな状態じゃ、見るに見れねェって言うかさ」


「フン……誠に不本意ではあるが―――なんてのは言わないほうがいいんだろうな。正直に言うと我もサタンと同じ気持ちだ」


「うんうん。ベルちゃんは素直で丸くなったねぇ。でも……ま、そうだね。ボクの子孫ちゃんは全然無事だけど、皆が行くってんなら行くしかないかな〜って」


「……行くって、なんだよ……? どこに行くってんだ……?」



 ルミナスは首を傾げる。

 しかし大罪たちの言葉は止まらない。



「いっぺんお前とは酒飲んで駄弁ってみたかったけどよ。ま、しゃーねーわな。ここは俺らに任せておきな?」


「あはは! 我が美貌が失われることなど無いのだッ! それを象徴しているのは他でもない我が子孫。そんな子孫を守るのは、祖たる美貌の神が努めなり!」


「うん……確かに僕の子孫もかなり優秀な子みたいだしね。それに、ちょっとキャラ被りしてたし……丁度いいかなって」


「私は……まあ言わずもがな迷惑をたくさんかけてしまいましたからね。自分の身が世界を救う事に繋がるのなら、喜んでこの身を差し出しましょう」


「な、何を言って―――」



 戸惑うルミナス。

 だが、そんな彼を無慈悲にも天使たちは送り出そうとしていた。



「―――魔王」


「お、お前ら! ま、待ってくれ……まだ頭が整理できてな―――」


「大丈夫。私たちは消えませんから」


「で、でも……!」


「それに……早く行かないとマズイことになりそうな気配がしてるので。申し訳ないですが、無理矢理にでも送り出させていただきますね」



 そう言って、天使たちはルミナスを浮かして送り出さんと力を放っていた。

 それに抵抗する間もなく光に包まれていくルミナス。



「ま……待ってくれよ!」


「……別れは辛いですが、それも一瞬の事。貴方は、貴方の為すべき事を為してください。それが、この場にいる者の願いなのですから―――」



「そんな……! 待っ―――」







 物語は今、真の終焉へと向けて動き出す。

 その引き金となったのは、とある一人の少女の悲鳴だ。



「主……さま……? いやああああああああああああっ!!!」

『操作』された運命―――或いは宿命。

悪性たる力と、純然たる力。

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