sins.6 【暴食】の大罪―Gula sins―『Beelzebub』
消える訳じゃないから。だから、また―――
『―――魔王ルミナス。たった今、この一瞬だけでもいいので私に力を貸してください。この世界を、守りたいのでしたら』
それは。それは、俺にとって悪魔のような言葉だった。
一瞬にして俺の思考はぐちゃぐちゃになってしまう。だって、考えられるかよ……そんな事。
何だよ。力を貸してください、って。
自分が何を言っているのか、コイツは分かっているのか?
俺は、震える声で応えた。
「何を……言っている?」
『言葉の通りですよ。この世界を守りたいのなら、共に戦いませんかと提案しているのですが』
何のジョークだ。
そう思っても、やっぱり聞き間違いではなさそうで。
「……仲間なんじゃないのかよ」
『―――仲間? そんな訳無いじゃないですか。ふざけた事を言うのもそれくらいにした方が良いですよ?』
「……は……?」
言葉が出なかった。
今のアダムの口調だと、まるで他人みたいな……そんな言い方のような気がして。
そしてそれが、俺の理性という名の鎖を壊してしまうのを感じた。
「協力なんて出来る訳が無い。それが、俺の―――俺たちの答えだ」
『本当にそれでも良いんですか?』
「何と言われようが、俺たちはお前に協力なんてしないしするつもりも一切無い。これは絶対に揺るがない事実だ」
『そう、ですか』
「第一お前の目的は何なんだよ……! 俺はずっと、お前たちが何をしたくて行動しているのかが分からないんだよ……ッ!」
俺は思うがまま叫んだ。
イヴの詠唱はまだ、続いていた。
『私の目的―――目的、ですか』
「ああ」
『私の目的は―――世界を自分が思った通りに“創造”する事、ですかね』
「創造する……だと?」
『ええ。だからこの世界を破壊しようとしているイヴも、操作しようとしたニルマトリアも、そして支配しようとしている貴方も本当は気に食わないのですよ。何なら全部私が存在ごと抹消してしまっていいのですが。聞いているでしょう? この世界がこの世界である為には、魔王と勇者と巫女―――そして、我々のような世界の管理者たる神が必要だと言う事を』
「だから自分は耐えているとでも言いたいのか?」
『当然その通りです。ですが今のこの状況―――イヴはとんでもない事をしようとしています』
アダムはイヴを見ながら言った。
イヴはずっと詠唱を続けたままだ。何度も何度も、同じ言葉を繰り返し吐き続けていた。
『―――世界の破壊。それはつまり、全ての存在の抹消を意味します。自分も、世界も、何もかもをです』
「……何だよ、それ」
『彼の目的は、全てを壊すこと。ただそれだけなのです。自分の価値なんて、これっぽっちも気にした事なんてない。ただ、己の欲望を満たす為だけに生まれてきて、その為だけに活動しているのです』
「じゃあ、なんでお前はそんな奴と一緒に……」
『少し考えれば分かることですよ。彼の目的は、世界を壊すこと。そして私の目的は―――』
「……思い通りの世界を、創ること」
『そういう事です』
何だよ、それ。それじゃあまるで、コイツらは―――
(この世界を、まるで自由帳のような物だと思っているっていう事かよ……ッ!)
怒りが、どうしようもなく込み上げてきた。
ぶつける場所を知らない怒りは、俺の中で少しずつ蓄積されていく。
『創っては壊し、また創っては壊し―――そういう事を繰り返している内に、私たちは“双神”と呼ばれるようになりました。二人で一つ。けれど対となる存在。そんな、矛盾した存在になったのです』
「……なら。それなら、今回も同じようにすればいいだけの事じゃないか。何故、俺たちに協力を求めた」
『だから。さっき言ったでしょう? 今彼がしようとしているのは世界の破壊だと。全ての存在の抹消だと』
「何か、違うのか……?」
『それは―――』
アダムがそこまで言いかけた時。
その続きの言葉を紡いだのはアダムでは無かった。
「―――単純な事だ、魔王。全ての存在の抹消、それはつまり自分自身も含めた全てのモノの事を言っているのだろうよ。恐らくな」
「我が主よ。ここは一時的とはいえ、そこの神との一時休戦をのんだほうが得策かと思いますが」
「お前たちは……」
それは、呼んでもいない俺の仲間たちだった。
「ベルゼブブ、ベルゼリオ! どうしてここに……!」
「次は我らの番。そう思ったから来ただけだ」
「そ、そうか……?」
どんな直感だよ。
とか思ってると、当然のように“そいつら”も現れた。
「おっすおっす〜今どんな感じ〜?」
「気配を感じたので来てみました〜! タイミングここであってたでしょうかね?」
「あー……お前たちは…………」
それはガブリエルとガブリエラの二人だった。
二人は空から華麗に舞い降りると、そのまま俺に向けて言った。
「よく分かんないけど、自分の直感を信じればいいと思うよ?」
「ですね。それに私はどうせ貴方の中に行くことになるのでしょうから、全く関係ないですし」
「フン。それを言うなら我も同じだろうがな」
「我が主よ。決断は全て貴方に委ねます。思うように行動してくださいませ」
多分俺を信じてくれた上での発言なんだろう。
だが、俺の中では色んな考えがぐるぐると巡っていた。
正直アダムに手を貸すのは駄目な気がするが、皆の言う通りそうしないと俺たちがヤバそうなのも事実だ。
「ベルゼブブ。さっきのって、どういう意味だったんだ?」
「ん? ああ。そのままの意味だが。どういう流れでそうなったのかは知らないが、あの様子。イヴは本気で自分ごと世界を消そうとしているらしいな」
「何でそんな事が分かるんだ?」
「そんなのは簡単な話だ。話を聞く限り、長い間共に行動していたアダムでも対処に困る事態で、しかもイヴが詠唱しているのが終焉魔法や最終奇跡とは比にならないくらいの長い詠唱だからだな。自分自身まで消えるかどうかは分からんが、確実に世界を消す気はあるだろうさ」
そういう物なのだろうか。
俺にはよく分からないが、確かにあの詠唱がヤバいのは直感で分かる。あとは勘、みたいな物もあるのだろう。
『それで―――どうするのですか? 私に協力する気は起きましたか?』
「それは……」
ベルゼブブやベルゼリオ達がここまで言ってくれてるんだ。
それなら、仲間たちを信じるのも俺の仕事なんじゃないのか……?
例えそれが間違っていようとも、だ。
もし間違っているのなら、俺が仲間たちを傷つけさせないように守ってみせればいいんだ。
その為の力を、ルシファーやミカエルたちは託してくれたんだから。
(そうだ。だったら俺が取るべき最善の選択は―――)
「―――分かった。今この時だけはお前に協力してやろう。だが、あくまでもお前は敵だ。俺にとっては諸悪の根源なんだ。だから……」
『ええ。それで良いですよ。今は―――イヴを何とかしましょうか』
そう言って、不敵に笑ったアダムの顔がずっと頭から離れなかった。
あの笑みは、何かを含んだ……そんな笑みだった。
■
「魔王ルミナス。準備は出来ましたか?」
「な、何のだ……?」
「フン。決まっているだろう?」
まさか。
コイツらも、そんな早くに俺の中へ―――?
「何。安心しろ。我はお前の中に帰るだけだ。それに、お前は我の罪を背負ってくれた……いわば一心同体の存在なのだ。今更心配する事も何もないだろう?」
「でも……」
「もう5人も受け入れてるのであろう? なら我が帰ることだって今更だろうが。気にしたら負けだぞ?」
「……そうは言ってもな。慣れないモンは慣れないんだよ」
「フン。時間があまりない中で言うのも酷だと思うがな。今は素直に、我と、そしてそこの天使を受け入れてくれ」
「そうですね」
「後は任せたぞ―――」
「後は任せましたよ―――」
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18(土)→転生魔王お休み




