case.8 時空間を操りし者
楽しくなってきた
「時空神……クロノス?」
『―――さあ、来るがいい。魔王の手先共よ』
目の前で浮かびながらとてつもない威圧感を放つその神は、挑発しながらそう言う。
先程までは本当に農家の人ような姿だったと言うのに、一瞬にしてその姿を、上裸で、その肌にはひび割れたような痕や青白い焼け跡のような物が多く見られた。
腰には二振りの小さな斧を携えていて、そして何よりも特徴的なのは上半身を斜めに囲むように回るそのいくつかの小さな玉だった。
そう、あれはエターナル・マザーの時にみたような物だが、今回のはクロノス自身がコアのような立ち位置で、それを取り囲むようにぐるぐると玉は回っている。
『……どうした? こないのか?』
「―――皆さん、あちらは最初から本気のようですから。我々も最初から本気で参りましょう」
私は後ろにいる仲間たちにそう告げる。
すると皆は頷いて、こう答えた。
「当然だぜェ? なァ、お前ら?」
「ああ。もちろん私も本気で行かせてもらうぞ?」
「もちろん、オレもだぜ?」
そう言って私の前に立つのはサタール、ベルゼリオ、マノンの3人だ。さらに規格外な仲間であるガブリエラ、アスモデウス、ミカエルの3人も、
「まかせておいて〜」
「うん。ボクたちも頑張るよ?」
「と、言うかここは私と貴方が先導切って戦う場面な気がしますけどね……」
となんとも頼もしい返事をしてくれた。
一緒に戦ってくれる仲間がいる。それだけでやる気が出てくる。
今までの……過去の弱かった自分とはもう違うんだ。
今は、主様の従者として恥ずかしくない戦いをしなければ。
(何としても、勝つのです……!)
『ふむ……? 貴様らには戦闘意欲が無いと見えた。それならば早く死ね?』
「ハッ! 死ぬのはテメェの方だぜッ!!」
『生意気だ。―――まずは貴様からだ。“断罪”』
素早い動作で斧を右手側から取り出し、そのまま斧をサタール様の方へと振り下ろしたクロノス。
しかし当然、そんな攻撃を素直に喰らうほどサタール様も弱くはない。
「―――『鬼神化』」
瞬時に『鬼神化』をし、刀で斧を受け流したのだ。
さらにそれに合わせる形でベルゼリオ様とマノン様も、
「『獣神化』ッ!」「『龍神化』ッ!」
一気に神化の力を使い、戦闘態勢に入る。
「―――ねぇ、アスモデウス。このオーラ、まさかとは思うけど……」
「んー? 何のことかな?」
「いえ……分からないなら気にしなくてもいいのですが……」
後ろでミカエル様たちが何かを話している。
が、今はそっちに気を取られて入る場合では無い!
『ほう。雑魚でもある程度は足掻けると言う訳か。それならば、私も多少は力を使うとしよう』
「ごちゃごちゃ煩えなジジイッ! ―――“鬼龍流剣術・牙突”ッ!!」
余裕ぶるクロノスの態度に怒ったサタール様は、一直線に刀を構えて突撃していく。
『―――“時間逆行”』
だが、しかし。次の瞬間だった。
何が起きたか……攻撃したはずのサタール様が、攻撃する前の元の位置に戻っていたのだ。
「……ァ? お前、今何をした……?」
『雑魚に教える価値も無い。いいから早く死ね? そうでなければ私を楽しませてみろ!』
「やっぱごちゃごちゃと煩え神サマだなッ!!」
「今度はオレが行くッ!!」
クロノスの煽りに乗っかったマノン様は、その身に相応しい獣のような速さでクロノスへと詰め寄っていく。
そして、一気に飛び上がり近距離になったところで―――
「喰らえッ!―――“爆発炎魔・獣神式”ッ!」
いつもの。―――いや、いつものよりも遥かに爆発威力の高い魔法が至近距離から放たれた。
『―――“時空逆転”』
そして次の瞬間だ。
「うあぁァァァァァァァァァァアアアッ!!!」
「マノン様ッ!?」
「ボクに任せてっ!」
何故か、攻撃をしたはずのマノン様が見事なまでの爆散をして―――
(って、ホントに何でマノン様が……?)
何かがおかしい。だが、爆発したマノン様はアスモデウス様がそのままキャッチしてくれた。
「グッ……ぁっ!」
「落ち着いて。ボクが傷を癒やすから、皆は奴の相手をお願い!」
「りょ、了解しました!」
私はアスモデウス様にお礼をすると、まだ余裕そうな様子で浮いているクロノスを見ながら、ベルゼリオ様とサタール様が話をしていた。
「おい……アイツ、何かがおかしいぞ……?」
「ああ。私もそう思う。が……その理由はあらかた予想がついている」
「おい、本当かよ!」
「うむ。―――奴は、自らを“時空神”と名乗ったのだ。となれば、時空間を操れる力を持っていてもなんら不思議ではない。むしろそれが奴の当たり前なのだから」
ベルゼリオ様がそう言った。
確かに、言われてみればその通りだ。しかし、時空間を操作できる力となると……そんなのもう勝ち目が無いようにしか見えない。
「そんなの、勝てっこ無いですよ……」
「ううん。まだ諦めるのは早いわよ?」
「み、ミカエル様……?」
私の呟きに反応し、私の頭にそっと手を乗せてくれたのはミカエル様だった。
彼女はそのまま優しい声で言葉を続ける。
「……もう少し。もう少しだけ試してみましょう。そうしたらきっと、何か策が思いつくはずですから」
「わ、分かりました……!」
そう言って支えてくれるミカエル様。やはりこの人は天使なのだ……悪魔である自分とは相容れない存在なのは分かっているが、何故か包容されるような感覚になって―――
(って、今は戦いに集中しないと……!)
「じゃあそろそろ私も本気出さないとねー?」
「はい、ガブリエラ様! 頑張りましょう!」
「ういー」
ガブリエラ様もそう言うと、短剣を二本構えて戦闘態勢に入った。この人は、言うなればスロースタートな人なのだろう。
と言う事はこれからが本領発揮……してくれるはず。
そんな期待を胸に、私も二本の短剣を構える。
(主様……私、やってみせます!!)
『―――もう良いのか? ならば行くぞッ!!』
時空神クロノス。
まだ、何もかもが謎の神が相手だけど。
それでも私は。私たちは勝ってみせる。
「ここからは私が指揮を取ります。さあ、第2陣……行きますよっ!!」
「「了解ッ!!」」
ミカエル様のその言葉が、再び戦いの火蓋を切って落としたのだった。
◆
『―――目覚めの時はもう間もなくだな』
『―――ああ、待ちくたびれたぞ』
『―――ですね』
その神々は、来る時を今か今かと待ち侘びていた。
『ゼウスの偽物が出た時に蒔いておいた種が、ようやく花を咲かせるまでに至ったんだ。それはもう、楽しみでしょうがないだろう? なあ、同士よ』
『ああ。誰も気が付かなかったであろうがな。だが同士の言う通り、楽しみな物は楽しみでしかない』
『ふふ。貴方たちはやはり面白い。―――それにしても、私たちが種となって彼らに入った時……彼らは一瞬とは言え、私たちの力を使いましたよね? あれは一体……』
『彼らの体が、我らと相性が良かったという事だろう?』
『うむ。だからこそ、彼らは我々の力を一瞬だけとはいえ使えたのだ。違うか?』
『……ふふ。多分、それだけじゃないと思いますがね。まあ、そういう事でいいでしょう』
『―――ああ、それにしても楽しみだ』
『だな』
『ですね』
3人の神は微笑む。
その時が、来るのを。
『オレが破壊し―――』
『俺が新たに創造をする―――』
『そして私がそれを守護する―――』
『『『我ら三神一体となり、世界を調律しよう』』』
彼らは、待つ。
宿主が、覚醒するその時を。
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