case.C37 『支配』の王
『支配』操りし王は、冥界へと至りて最狂と成る―――
「―――“虚空斬”ッ!!!」
そんな言葉と共に、空間は歪み、切り裂かれ、目の前に一つの切れ目を作った。
そこから顔を覗かせたのは―――
「ヘッ。大将……こんなところに逃げて―――」
「―――『神威』」
―――俺だ。
「何……だッ!」
俺が、誰よりも早く顔を覗かせた。
いや、空間の切れ目からいち早く抜け出たのだ。
「サタール様、主様は!?」
「チッ、見当たらねェ……! ってこたァ、まさか今のが……!?」
サタールが空間の切れ目から中を覗くが、すぐに戻ってこちらへ振り返ってきた。
しかし。
(すごいもんだな。こんなにスローモーションみたいに見えるなんて)
その一挙動一挙動が、スローモーション映像を見ているかのように遅いのだ。
お陰で全員の動きが、正確に読み取れる。
「そこか……ッ!」
サタールよりも近くにいたルシファルナが俺に気づき、攻撃を仕掛けようとする。
しかし、やはり遅い。
そんなに遅ければ、こちらだって強化する余裕くらいある。
「―――『天魔』」
まずは『天魔』を発動して、いつでも飛翔出来るように天使と悪魔の翼をそれぞれ一枚ずつ展開した。
そして俺は、持っていた“双滅鎌トワイライト”をしまい、代わりに腰には短剣を差しておいた。
もちろん手持ちにはしない。
今回は、《神帝武流》を使って戦おうと思うから。
▶フハハ! 神の力を存分に使うといいッ!
(ああ、インドラ。遠慮なく使わせてもらうぜっ!)
「サタールッ! 同時に仕掛けるぜェッ!?」
「おうッ!」
ルシファルナが弓を構え、その後ろでマノンとサタールが連携の準備をしている。
ルインの姿が見えなくなったが、恐らくアイツは影に隠れたのだろう。
ベルゼリオは俺とは対極の位置にいるから今はそこまで問題視しなくても大丈夫だろう。
(さて……まずは厄介な奴から潰しとくか……)
そう思って狙いを定めたのは、ルシファルナだ。
味方からの信頼を欠いているとは言え、一応は司令塔の役割を持っているルシファルナだ。
ちゃんと共闘し始めたら一番厄介になるのは間違いなくアイツだろう。
「“魔蟲召―――”」
(させるか)
「―――“神帝武流・神速”」
▶神速……だと!? オメェマジかよ……ッ!
インドラが何やら驚いているが、俺はそう言うと態勢を取り、拳に神気を込める。
その状態で俺は勢いよく飛び出し、刹那にルシファルナの前へと現れる。
「……は?」
そしてそのまま、俺はルシファルナに殺さない程度に連撃を入れた。
格ゲーのキャラの如き高速のパンチをルシファルナに与える俺。
気づけば一瞬にしてルシファルナはダウンしていた。
▶よし、『支配』の準備をしろ!
(っと……そうか!)
「なっ……! ルシファルナが一瞬で……!?」
ベルゼリオが遠くで驚いている。
が、俺はそんな事気にせずルシファルナに向けて手をかざした。
そのまま『支配』を発動する。
「おいマノン……生半可な力じゃヤベェかもだぞ……! 大将のヤツ、本気で来やがった……!」
「ああ、分かってるッ! こうなったら、もう“神化”の力を使うしか―――」
(っと……“神化”の力って言ったか……? それは面倒だな……)
『神威』を発動したお陰か、身体能力は全てが著しく向上している。
だからこそ、小さな呟き一つすら聞き逃すことがないのだ。
神化の力は割と面倒だ。
それならば、早い内に処理しておくのがいいだろう。
ルシファルナに『支配』をかけた俺は、そのまま流れるように構えをとった。
「“神帝武流―――”」
「……ッ!」
「“―――連撃”ッ!!」
そう叫んで飛び出す俺。
狙ったのは当然マノンとサタールだ。だが、そんな俺の前に一つの遮蔽物が現れた。
「ここは我がッ!!」
「ベルゼリオッ!?」
「―――“絶盾”よッ!!」
俺は仕方なく、ベルゼリオに向けて連撃を放つことにした。
しかしその攻撃は、ベルゼリオの持つ盾に阻まれてしまう。
(あの盾は……俺があげた―――)
「今だ……ッ! 今のうちに強化を!」
「お、おう!!」
と、ベルゼリオに気を取られていると、どうやら時間稼ぎだったらしく、マノンとサタールが身体強化フェイズに入ってしまった。
まずは速攻でコイツを退けないとマズイかもな。
「主様は……私が……ッ!」
「すまないな、ベルゼリオ。そこを退いてくれ―――“神帝武流・激撃”ッ!!!」
防御の態勢を続けるベルゼリオに、俺は今までよりゆっくりな、だけど威力は限界まで込めた一撃一撃を盾に与えていった。
一歩ずつ、着実にベルゼリオは後退していっている。
「これで、最後だッ!」
「アガッ……!」
そう呟いた俺は、一発。
ド派手なのを盾に打ち込む。
するとベルゼリオは、その反動で遥か後方まで吹っ飛んでいき、壁に打ち付けられて倒れ込んでしまった。
「―――『鬼神化』ッ!」
「―――『獣神化』ッ!」
しかし、ベルゼリオの時間稼ぎはどうやら成功したようで。
サタールとマノンの二人は、自身の強化を丁度終えたようだった。
「大将、こっからは本気の俺らとも……」
「戦ってもらうぜ……ッ?!」
(本気の二人か……まあ、戦ってみたいのは山々だが、あいにくと今はそんな事している余裕は無いんだよ……ッ!)
正々堂々、とは行かない。
今はとにかくこの状況を終わらせて、落ち着いたところでみんなとは戦いたいしな。
▶フン、面白い。ならば我の力を使うといい。
(……ハーデスの?)
▶ああ、お前なら……分かるであろう?
(……なるほど、アレか)
「お前たちも、すまないな」
「ァ……?」
「俺も、本気で行かせてもらう。今は、正々堂々なんて言っていられないからな」
一つ、二人に詫びを入れた俺はそのまま力を解き放つ。
『―――我は、一人に非ず』
『―――無限の、肉体と』
『―――無限の魔力を有する』
「その、詠唱は……ッ!?」
俺は、詠唱する。
詠唱を重ねるごとに、俺の身体は無数に分かれていく。
自分の分身が、何体も何体も生まれていく。
『―――我は、一人に非ず』
『―――無限の、肉体と』
『―――無限の魔力を有する』
▶さあ、行こうか。冥府へと誘う、恐怖の時間の始まりだ。
「―――我は、一人に非ずッ!」
「―――無限の、肉体とッ!」
「―――無限の魔力を有するッ!」
「―――裁きの使徒なりッ!!!」
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