case.B3 決闘準備
「決闘……ですか?」
「ええそうよ」
《天帝八聖》間では全く珍しくない出来事。
何なら日常茶飯事に起きていたこの“決闘”を私は彼女たちに持ちかけた。
「ルールはいつも通り。どちらかの陣営が全員戦闘不能になるか、指定された範囲より場外に出てしまったら負け。それで大丈夫かしら?」
「ちょ、ちょっと待ってよ! どうしてウチらがそんな決闘なんかしなくちゃいけないワケ?」
恐らく決闘などした事が無いであろうダルフィーネが、「何故」と理由を問うてきた。
当然、私の答えは決まっている。
これは賭けでしかないが、現状最速で事を収め、目的を達成出来るのはこの“決闘”ぐらいしか無いだろう。
だから私は仕掛けたのだから。
「どうして……か。ハッキリ言うけど、面倒くさいのよ」
「え……?」
「私たちは今まで、何か面倒くさい事があったらこうやって“決闘”をして解決してきたの。だから今回もそうやって解決するまでよ」
そう私が言うと、メタリアとガブリエラが一歩前に出てきた。
「良いわ。受けて立つ!」
「私も、それなら分かりやすくて助かるわ」
「ちょ……ちょっと待ってよ!」
二人が決闘に合意する中、やはりまだダルフィーネだけはどうしても状況が飲み込めてないみたいだった。
そんなダルフィーネに今度はウリエナが声をかける。
「あのね。貴女、《天帝八聖》では“階位”が全て物を言うの。ミカエラ姉さまは腐っても現一位。姉さまに勝たないと、私たちは一位になれないのよ」
「嘘……戦いなんて……いや……」
「諦めなさい。私たちが全力でフォローするわ。だから、戦うわよ」
ウリエナはダルフィーネに優しく寄り添い、やがて全員が決闘に同意した。
しかしそれよりも、だ。
私は今回の決闘、何としても負ける訳にはいかなかった。
仕掛けた側のプライドとして。
連続一位防衛の記録保持として。
あの人への恩返しとして。
そして何よりも、あの神共の機嫌取りの為に。
彼らを口止めできるのは、私しかいない。
いや、私だけでいい。
だからこそ、私たちは負けられないのだ。
「ラフィーナ。ごめんね、再会したばっかりなのにこんな事に巻き込んじゃって」
「ううん……いいの。私は、皆を癒やすことが好きだから、今回もただそうするだけ。それに、大好きなミカエラ姉さまに会えたんだもん。むしろ頑張って今の順位を守っちゃうよ!」
「ラフィーナ……」
(この子は本当にもう……)
少し、嬉しくて頬が緩んでしまった。
しかし、緊張感だけは無くなさないようにしておかないと。
「ラグマリア、ラージエリ。二人もごめんなさいね」
「ううん。いいんです……それに、もし私たちがこの決闘に勝てれば……」
「そう! そうよ! 私たち姉妹で、三位四位になれるって事でしょ!?」
「え……」
まあ、確かにそうなるのか。
ただ、決闘の性質上、ラグマリア・ラージエリの両名が多少の功績を残さないと……だが。
複数人での“決闘”では、勝者チームはもちろんの事、戦闘中での自分の功績がポイント評価され、それによって最終順位が決まる仕組みなのだ。
評価をするのは、公正なジャッジが出来る第三者。
そう……この条件が厳しいから、私たちはいつも決まって一対一の決闘をしていたのだが。
(今回は少し違うからね……)
幸か不幸か。
今回は全ての条件が整っていたのだ。
公正なジャッジが出来る第三者には、ラグエル様が。
決闘を行うメンバーも四人ずつ居る。
これによって、複数人での“決闘”が成り立つのだ。
「まあ、貴女たちはそれなりに頑張らないと評価されないけどね」
「分かってます! 任せておいて下さい!!」
ポンポンと胸を叩いて自らを鼓舞しているラグマリア。
気合いは十分、と言った様子だ。
「ラグエル様」
「はいはい」
私は最後に、ラグエル様の下に歩み寄った。
審判の交渉をするのだ。
「あの、今回の“決闘”―――」
「任せておきなさい。私が全て公正にジャッジしてあげるから」
「あ……。ありがとうございます! ラグエル様!」
これで、これで条件は完全に整った。
あとは、決闘をするだけだ……!
「―――ねぇ、ミカエラ姉さま?」
「どうしたのよ、ウリエナ」
ラグエル様と話が終わると、間髪入れずウリエナが話しかけてきた。
「こっちのリーダーは私になったんだけどね? 今回の決闘……お互いの勝利時の商品についてちゃんと決めておかない?」
「ああ、そういう事……。分かったわ」
私たちの“決闘”では、順位の変動の他に個々人で決めた勝利時の商品―――いわゆる条件約束が出来るのだ。
私が勝ったら○○してもらう。
とか、そういう感じのね。
「それじゃあまず早速だけど……私たちが勝ったら、貴女たちにはこちら側に戻ってきてもらうわ」
……やっぱりそう来たか。
まあ、それ以外のお願いってむしろあるのかって感じだけど。
「そして、魔王討伐の作戦に戻ってもらう。これが、私たちの出す条件よ」
「……分かったわ」
これはいよいよ負けられない戦いになってきたわね。
これで負けたら、私はもう自殺してもおかしくないでしょう。
「……それじゃあ、私たちが勝ったらだけど」
「なんでも良いわよ」
「そうね……それじゃあ、貴女たちが今出した条件の逆なんてどうかしら」
「逆……?」
「そう。私たちのように魔王軍に入ってもらって、“双神”討伐に協力してもらうわ」
「そっ…………嘘でしょ!?」
まあやっぱり最初はそういう反応をするわよね。
でも、それが事実なのよね。
「くぅ……分かったわ! これで全部準備は終わったわよね!? それじゃあとっとと始めるわよ!」
「ええ、そうね」
さあ、いよいよ決闘の時だ。
何としても勝たないといけないこの戦い……。
全てを守る、“私自身”を賭けた一世一代の大勝負……
(絶対に、勝つ)




