case.A7 戦闘準備
そんな装備で大丈夫か?
『私の計算が……全て狂っていく……』
『おい、どうなってんだよこれはッ!』
何もかも優位に立っていたと思っていた神の二人は、目の前で起きようとしている事に動揺していた。
「あのクソ親父が……ッ! せっかくいいところまで進んでたのにッ!!」
「まァ落ち着けよマノン」
「落ち着けるかってんだッ!」
前方から進撃してくる兵士たちを見て、マノンはそう激昂するが、それをサタールがなだめようとしていた。
前方から進撃してくる兵士―――どうやらあれは、《魔道王国サルナラ》の軍らしい。
草原を埋め尽くすほどの尋常じゃない量の兵士。
これは、以前《戦帝国フラウ》の襲撃を受けた時と同じか、それ以上に数がいると思われる。
「そちらだけに気を取られていてはまずいかと……」
「……分かっているさ」
ベルゼリオが俺の隣でそう呟く。
それに状況を整理しながらも言葉を返した俺。
そう。
考えるべきはそちらだけでは無いのだ。
上空から迫る大きな気配。
どうやらまだこちらに仕掛けてくる様子は無いようだが、確認出来るのは二つの気配。
恐らく絶好のタイミング、というやつを狙っているのだろう。
まあ何にせよ空から下りてこない時点で狙いが俺たちなのはほぼ明白と言っても過言ではないだろう。
『アルテミス、この状況はどうするよ……』
『待ってお兄ちゃん。今、考えてるから』
二人は―――いや、アルテミスは打開策を必死に考えていた。
「主様」
「ん……ルイン、どうした?」
突然ルインの奴が俺に語りかけてきた。
「私、最近変なんです」
「……変?」
「はい。あの日……【虚無】の力に目覚めたあの日から、何か私が私でなくなってくような……そんな気がして」
「ルイン……?」
「いえ……おかしな事をいいました。ホントはちょっぴり不安なだけなんです。力を得ることが、ちょっぴり怖いんです」
……俺も、同じような感情を抱いたことはある。
だから、その不安は俺にもよく分かる。
「ルイン」
俺はそっとルインの頭に手を置く。
そしてそのまま優しく撫でた。
「ふえっ……?」
「大丈夫だ。俺が、必ずお前の隣にいるから。絶対に守るって、約束したから。だから怖がらなくていいぞ」
「あるじ……さま……」
よく見ると、ルインの身体は震えていた。
それは喜びからだろうか。
それとも怖さからだろうか。
どちらにせよ、俺はルインの事を守るだけだ。
何があろうと、絶対に。
(ルインの事を傷つける奴は、誰であろうと許さない)
『この……気配―――まさかっ!』
すると今度は、突然アルテミスが声を上げた。
『どうした我が妹よ!』
『い、いや……この上空の気配が感じたことのある物だと思ったら……』
そう言いながらアルテミスはちょうどこの真上を見上げた。
『もしかすると、この気配は……
―――私たちの目的である、偽ルシファーかもしれません』
『マジでか?』
……この上空に居るやつが、偽ルシファー―――すなわちルシファルナだと?
ま、まさかそんな事が?
『多分……そうだと思います。だけど、それなら……それなら作戦がほぼ成立する!』
『た、確かにな』
そうか。
上空の気配がルシファルナの物であるなら、俺たちにとって邪魔となるのはあの魔道王国の軍勢だけだ。
それさえ排除してしまえば、あとは作戦通りって訳か。
「いえ、それでも詰めが甘いかと」
しかしルインはその作戦の隙間を突くように指摘してきた。
「もし、上空の気配がルシファルナなのだとして。彼らがすぐに地上に下りてきて、私たちと戦闘を開始したら?」
『あ……』
そうか……。
その可能性があるのか。
そうなると起こるのは……
『三つ巴、か』
「はい。そうなると作戦は成り立たなくなります」
『う、うぅ……じゃあ一体どうすれば……!』
困惑するアルテミス。
しかしそんな間にも魔道王国の軍勢は進軍を進め、上空の気配は俺たちを威圧するかの如く停滞している。
『もう、やるしか無いんじゃないか?』
「アポロン?」
『面倒くさいからよ。三つ巴、やるしか無いんじゃないか?』
……言ってはいけない作戦を言ってしまったな、この神様。
確かに一番手っ取り早いのはそれだろう。
もう諦めて三つ巴でゴリ押すのが一番早いはずだ。
だが、どうせならスマートにやりたいのだがな。
「まあ、魔道王国の軍の強さが分からない現状、それでも問題は無ェんじゃねぇか?」
「ええ。もし王国軍が弱ければ、我らの内から数名で対処可能だと思います」
「う、うぅむ……」
そう提案されると、なんだか考えるのがバカバカしくなってきた。
パワーisゴッド。
やっぱり力でゴリ押すのが一番いいのかもしれない。
「……分かったよ。それじゃあ《魔帝八皇》の3人があの王国軍をどうにかしてくれるか?」
俺は3人にそう問う。
残ったメンツでルシファルナともう一つの気配を対処すれば、対して問題は無さそうだしな。
「おう、俺が……全部ぶっ壊してやるよ」
「ま、ほどほどになァ〜」
「我が主の命とあらば。お任せ下さい」
よし。
これで決まりだな。
―――作戦は決まった。
あとはそれを実行するのみ。
『そちらは、完全にお任せする形で大丈夫なんですか……?』
「ん……まあ、大丈夫だと思うぞ」
アルテミスの問いに、俺はそう答えた。
するとアルテミスは「はぁ……」とため息をついたかと思えば、すぐに空を見上げる。
『分かりました。それでは、始めましょうか』
「ああ」
さあ、ようやく幕開けだ。
どうせ目指すなら、最善の結末を目指そう。
ルシファルナも取り戻して、ついでに魔道王国も支配下に置けるのが今回の最善手だ。
それなら、全力で狙いにいこう。
『うっしゃ……それじゃあ始めるぜッ! 覚悟はいいな?!』
「ああ、問題無い。いつでも始めてくれ」
そうアポロンに応えると、彼は空に向かって手をかざした。
そして、直後。アポロンによる開戦の言葉が響く。
『さあ、姿を現しな。偽ルシファー野郎……ッ!
―――“天ノ鎖”ッ!』
そうして放たれた一本の鎖が、雲の上で、何かを掴んだ。
アポロンがそれをグイッと引っ張り落とすと、それと同時に前方では何発かの銃声が鳴り響く。
『バカ娘めッ! そこに居るのは分かっているぞッ!! 無駄な抵抗はやめて、今すぐこちらへ来るがいいッ!!!』
そんな、あの魔道王の声が草原に響き渡る。
さらにたった今、アポロンによって引き落とされたのが―――
「クッ……忌々しい……ッ!」
黒き羽に身を包む堕天使がそこには居た。
そう。彼の名は―――
『―――さあ、舞台は整ったぜ。いよいよ開戦と行こうかッ!』
大丈夫だ。問題無い。
ブックマーク、ついでに頼むな。
p.s 土曜日、更新遅刻してしまってすいませんでした。以後気をつけます!




