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case.A6 理由

新生活の始まりの予感



「お前たちが……《十二神将》の二人か?」


『ああ、待ってたぜ。―――魔王』



 目の前に居たのは、インドラと同じくガタイのいい上裸の男だった。

 そしてその隣にはフードをかぶっていて顔がよく見えないが、体格のとても小さい子がいる。


 イメージ通りと言えばイメージ通りなのだろう。

 もし、本当にこの二人が太陽神アポロンと月光神アルテミスなのだとしたら。



「待っていた、だと?」


『ああ。お前に話があってな』



▶フン、兄妹喧嘩はどうしたのだ。



▶あれだけ派手にやっていたのになッ!



▶やはり貴様ら兄妹は面白いな。



 すると突然、俺の中の《十二神将》共が騒ぎ始めた。

 確かに、ハーデスから聞いていた話とだいぶ印象……というか状況が違うようだった。


 別に見た感じ喧嘩はしなさそうだし……



『この気配は―――やっぱりアンタ、《十二神将》を仲間に引き入れてるな?』


「ん……まあな」


『数は?』


「ハーデスとインドラとハヌマーンの計3体。あとはガネーシャがいたはずだが、まだ合流出来ていないな」


『つまりこれで計6体って訳だ』



 ……?

 ガネーシャを合わせても、数は2足りないと思うが……



 ―――まさか!



「お前たち……全て分かってて……?」


『おう。最初っから俺たちはアンタの仲間になる気バンバンだったんだぜ!』


『はい! 色々と事情があるので、早速お話させていただきたいと思っています』



 ということは、コイツらは紛れもない―――




『改めて―――俺は太陽神アポロン。ま、気軽にアポロンって呼んでくれ』


『私は月光神アルテミス。見ての通り幼い神ですが、兄の不始末は全て私が回収しますので、何かありましたらどうぞお申し付けくださいね』



 二人は、同時に頭を下げ、そう名乗りを上げた。

 俺はまず、その誠意に応えるべく、お返しに名乗る。



「こちらこそよろしく頼む。俺の名前はルミナス。魔王をやっている者だ」


『ふぅん……やっぱ報告通り謙虚な魔王なんだな。とても強そうには見えないが』


「そうか……? これくらいが普通な気もするが」


『いやいや。もっと強情に、傲慢に、高飛車に居るのが魔王ってモンだろうよ』



 そういう、物なのか……?

 確かにゲームの世界や漫画の世界だとそういうのもあるあるだと思うが、ここは―――



(って、ここは現実でありながらゲームの世界でもあるんだったな)



 と、危うく忘れかけていた事実を思い出した。



『まあいいや。ある程度話すこと話したら戦闘になるから』


『すいません。ご協力頂けますか?』


「戦闘に……? まあ、とりあえず話を聞いてからだな」


『感謝します!』



 そう、とてもあっさりと進んでいく会話に若干の恐怖を感じながらも、俺たちはまずアポロンとアルテミスの話を聞くことにするのだった。





『―――って訳』


『お分かり……頂けたでしょうか』



 あー……。

 今、一通りの事情を二人から聞いた訳だが。


 ちょっと整理してみようか。



 まず、最初から肝心な事情なのだが。

 一つ目は、太陽神アポロンと月光神アルテミスの二人が喧嘩をしたフリ・・をしていた訳と、今回こうして俺たちを待っていた事について。


 しかしこの答えは単純明快な物だった。

 理由はこう。


 双神に不信感を持っていた二人は、どうにかして《十二神将》の居る神界から離れようとした。

 しかし、ただ理由も無しに神界を離れようとすればそれこそ怪しまれてしまいまう。

 だからこそ二人は、派手に、見せつける為に大喧嘩をしたのだ。


 そしてそれがヒートアップして地上に降りてしまった……と。


 さらにそこに都合のいい存在が現れたのだ。

 それが、俺こと『魔王』だった。



 何故都合が良かったかと言うと。

 ちょうど喧嘩もヒートアップしてきた頃に、ハヌマーンが俺を殺すべく地上へと降りるように命じられていたのだ。


 そして、俺たち魔王軍はそれを退けるのみならず、仲間に引き入れてしまった。


 さらに再び事件は起こり、今度はインドラとガネーシャまでもが仲間に引き入れられてしまう。



 そう、魔王オレは双神からのヘイトを集めつつ、《十二神将》が地上へ降りる理由を作っていたのだ。


 だからこの二人が勝手に地上へ降りても、双神は何もしてこなかった。


 そして、もともと不信感を持っていた二人は、魔王で、《十二神将》を仲間にしようとしていた俺と利害が一致し、それなら争う必要も無いと仲間になることを提案してきたのだと言う。



 さて次に二つ目だ。

 二つ目は、先程「戦闘になる」と言った訳。


 どうやら二人はこの地上に降りてきてから、とある事件を知ったらしく、魔王オレへの手土産としてある一つの作戦を立てていたのだと言う。


 それは、偽ルシファー……すなわちルシファルナの捕獲作戦だった。


 どうやら俺の情報は神界に筒抜けらしく、《魔帝八皇》のほぼ全てを集めきって居ることはもうバレていたらしい。


 そして残りのピースが、ルシファーのみであることも。



 そう、こちらを魔族サイド―――魔王軍と仮定するならば、それは残りのルシファルナを入れれば完全に完成するのだ。


 だから、その手助けをしたかったのだ、と。



 立てていた作戦はこうだ。

 アルテミスの神将スキル、『月読』の力の一部である“未来改変”の能力を使うことで、ルシファルナをこのサルナラ大草原へと呼び出す。


 そして、アポロンの力で太陽が出ている間だけ逃げられなくする。


 ただ、ルシファルナには光度を操作できるスキルがあるらしく、その対策も完璧だと言う。


 それは、アポロンの力同様、アルテミスの力で月が出ている間だけ対象を逃げられなくすると言う物。



 どうやら、周りが明るければ大地を焼き尽くすほどの熱い太陽が。

 逆に暗ければ辺りを凍えさせる程の怪しげな月が空に浮かぶのだという。



 そうやってルシファルナを呼び出し、光度を操作されようが逃げられなくさせ、そこに俺が『支配』をかければ全てが危なげなく終わる……という作戦らしい。



 どうも聞く限り抜けは無く、あとは逃げられなくなったルシファルナをどうやって『支配』するのに至るか……それだけを考えていれば問題は無さそうだった。




 とまあ二つの話を聞いた訳だが……。



「なァ大将。別にいいんじゃねェか?」


「私もその作戦には賛成です」


「はい。魔王軍が完成する、またとないチャンスですよ」


「んだな! 天使たちを除けばオレたち側の奴らは全員揃う訳だしな!」



 いや。

 皆忘れているんだ。


 もう一人・・・・、居ない奴がいる。



「…………」


『私には分かってますよ。サタンが、居ないのですよね?』


「「「あっ……」」」



 アルテミスがそう言うと、ルイン以外の3人が思い出したように口をポカンと開けていた。



「そうだ。―――だがまあ、それを抜きにしても、その作戦には俺も賛成だ。完璧な作戦だと思う」


『だろ? 自慢の妹が考えた最強の作戦なんだから当たり前だよな!』



 そう『わっはっはッ!』と笑いながら大声を上げたアポロン。


 コイツあれだ。

 シスコンってやつなのかもしれん。



『も、もうお兄ちゃん! 人様の前でそんな……やめてよ!』


『いいだろ! わーはっはっは!』


『もう!』



 喧嘩してた、なんて聞いてたからどんな兄妹だと思ったけど……思っていたより中が良さそうだな。

 とても見ていて微笑ましい奴らだが……



(コイツらが俺の中に来たら―――)



 そう思うと少しゾッとする。



「さ、そろそろ話を進めよう」


「そうですね。先程の作戦は、本当に完璧な物でした」


『おう、そうだろ!?』



 ルインは、アポロンとアルテミスを褒める。

 しかし、その顔はあまり良い物では無かった。



(……? ルインのやつ、どうかしたのか?)



「ですが―――」



 そう言うと、ルインは振り返る。


 俺たちが歩いてきた方の道だ。



 それにつられて俺たちも全員振り返った。





「どうやら今回の作戦。一筋縄では行かないようですよ」


「おい……ふざけんなよあのクソ親父が……ッ!」


「待て……あれだけじゃないぞ……。何か、気配が―――」



 全員が同時に呟いた。



 俺は順番に視界を巡らせる。



 まずは前方。

 そこに居たのは、無数の兵士。


 次に上に集中すると、サタールの呟き通り何か大きな気配が感じ取れた。




『これは……一体どういう事?!』



「さっきのアルテミス様の作戦は、全て完璧でした。でも、それにはたった一つの抜けがあった」


『そ、それは……』



「それは……


 ―――その作戦の全てが、他の誰かに邪魔された場合に崩れてしまう事、です」




 ―――そう、あの無数に進軍してくる兵士のように、邪魔が居なければ。

 その作戦は完璧だったのです。

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