case.A2 魔道王国サルナラ
咲き乱れる一輪の花
「―――行きたくねぇよ」
マノンは、そう呟いた。
俺はそんなマノンに聞く。
「理由を、聞かせてくれ」
「……親と」
親と?
ま、待て。この流れはまさかテンプレ的な―――
「―――喧嘩してんだよ……」
「あっ……」
マジですかー……。
まあ、親と、と来たら結末はそうなるよなぁ……。
「はァ!? 何その程度でしょぼくれてんだよオメェ! いつもみたいに笑ってかっとばせばいいだろうが」
励ましてるのかサタールがマノンに声をかける。
だが依然としてマノンの様子は変わらない。
「いや……ちげぇんだよ……。あの親は、そんな単純に笑って見過ごせるような親じゃねぇんだよ……」
「ほう……マノンがそこまで言うとはな。もしや、魔族を悪利用した極悪人である……とかか?」
ベルゼリオはマノンの言葉から推測できる考えを話したが、マノンは何故か拳を固く握り始めて、唇も噛んで、心底悔しそうな、怒っているような……そんな素振りを見せた。
「……そんな程度のことじゃ、ねぇ」
とても、怒気の籠もった言葉。
「そんなちっぽけな話じゃねぇんだよッ!!」
……ちっぽけな、話?
魔族を悪利用する……こんな大事な問題が、ちっぽけだと……?
それって、本当に世界支配だったり世界崩壊を目論む極悪人を通り越した奴らなんじゃ―――
「マノン……本当の事を聞かせてくれ。その話の、真相は何だ。何があって、お前はそうまでしてサルナラに行きたくないんだ……?」
俺は、恐る恐る聞いた。
この話は、しっかり聞かないといけない気がする。
じゃないと後で後悔しそうな……そんな気が。
「分かった……。話したかねぇが、話さないと話が進まねぇもんな。……いいぜ、教えてやるよ……」
―――ゴクリ。とつばを飲み込む音だけが聞こえ、その場にいた誰もがマノンの言葉を待った。
一体どれだけ重要な話なのか。
それによっては一時的な目的変更も有り得るような……そんな期待と不安を混ぜながら。
「オレの、親はなァ――――――」
今更、どんな話が飛び出そうが、驚きはしないさ。
俺が今までどれだけの修羅場をくぐり抜けてきたと思ってるんだ。
さぁ、どんとこい。
「―――オレの事を、女扱いしようとしてくる……超超超超超超超超超超超極悪人なんだよッ!」
静寂。
静寂。
……静寂。
そして、ようやく絞り出せた言葉が―――
「……は?」
■
「はい連行〜」
「おいっ! やめっ……離せよ!」
と言う訳で早速《魔道王国サルナラ》に向かう事にした。
いつも通り近くまで転移して、そこから中に侵入する流れだ。
偽装の準備は……と思ったのだが、マノンがとうやら顔パス出来るくらいの有名人らしく、かつ《魔道王国》の長、“魔王”が俺に会いたがっている事から、全くそういう隠蔽工作……? は必要無かった。
「ゔぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「ふふ、そんな声を出しても逃しませんよ、マノン様」
マノンの監視にはルインが着いているから、逃げ出す心配は無さそうだ。
「それにしても、ここの国の王様も“魔王”って呼ぶんだな」
俺は思った疑問をそのまま口に出した。
「ええ、意味は違いますがね」
そんな俺の問いにはベルゼリオが答えてくれた。
「意味が、違う?」
「はい。
魔道王国を治める王は、“魔道に長けている王”だから魔王と呼ばれます。
そして、“全ての魔を司る王”だから、魔王様は魔王なのです」
「……俺の下位互換って事か」
「まあ、間違いではありませんけどね」
しかし厄介だ。
これからもしその王と何か厄介事が起きたとき、“魔王”とは呼べないからな。
俺とごっちゃになって嫌な感じになりそうだもん。
「なぁなぁ、本当に行くのか? 出来れば行きたくないんだけど……」
マノンはそう聞いてくる。
「お前もしつこいな……別にそれくらいの事でメソメソしてんじゃねぇよ」
「行きたくない行きたくない行きたくないいぃぃぃぃ!」
駄々をこねる子供かって。
まあ構図はまんま同じだけど。
「ほれ、そうこうしてる内に着いたぜ」
「お……」
サタールにそう言われて、俺は視線をマノンから正面に向けた。
するとそこにあったのは……
「……何だ、あれ」
何だろう……からくり屋敷みたいな……木造の変な装置がいっぱいあって、機械の内部の仕組みみたいな物が露出していて……。
こんなんで伝わるか分からないけど、とにかくそういう感じの場所が目の前にはあったのだ。
それも、広範囲、まるまる全部に。
「ゔぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ行きたくないよぉぉぉぉ!」
いつも以上に駄々をこねるマノン。
そしてそんなマノンは、ついに衝撃の一言を叫んだのだった。
「魔王はオレの親父なんだよおぉぉぉぉ! だから会いたくねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
……はい?
今……なんて―――
「魔王が……お前の親父……?」
「「「うぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?」」」
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