case.31 【虚無】の罪
隠匿されし八番目の大罪
『やあ……おはよーう』
手を軽くぷらぷらと振ってそう挨拶してきたのは、一人の魔族の少年だった。
青い灯火に導かれるがまま、俺とルインは歩いていたのだが、やがて一つの扉が現れて、そこに入ったら、こう挨拶された―――って状況だな。
「お、おはよう……?」
「おはようございます」
俺が困惑する中、ルインはペコリと礼儀正しくその少年に挨拶していた。
『ふーん……礼儀は、ちゃんと……なってるんだね』
……?
何だろう、この少年に対して抱くこの違和感は。
妙に落ち着いているというか、静かな殺気というか…………。
とにかく眠れる獅子、みたいな雰囲気がすごい漂ってくるな。
『ふふ……僕のことが……気に、なるよね……ぇ?』
「え? あ、ああ。そりゃあ……まあ」
こんな雰囲気の場所に魔族が一人。
そしてここに来た時の状況と、この少年の威圧感……。
もし。
もし俺の考えてる事が正しければ……俺の予想が当たっていれば……。
この少年は、多分―――
『それ、じゃあ……自己紹介……するよ』
少年は目を閉じて椅子に座っていたが、それから立ち上がると、目を見開いて名乗りを上げた。
「―――ッ……!?」
『アハッ☆ 僕の名前は、ベリアル。《七つの大罪》、それに選ばれる事が無かった幻の八番目の大罪―――【虚無】の大罪を冠する大悪魔だよ』
ベリアル……そう名乗った少年が目を見開いた時。
俺は今までで一番の威圧感を覚えた。
瞳に、光が無いのだ。
光を、輝きを失ったガラス玉のように透き通った、真っ黒い瞳。
そんな彼の言葉に、俺は少なからずビビってしまった。
「八番目の、《七つの大罪》……?」
ルインは、ベリアルの言葉を繰り返すようにそう言った。
『う、ん……。僕は、ベリアル……。【虚無】のベリアル。そして―――そこの君の先祖様だよ』
「え?」
ん……?
『だから、そこの女の子。君の先祖が、僕なんだよ?』
「え?」
……ん……?
つまり、どういう事だ?
『察しが、悪い……な。だから、つまり……は―――』
先祖として、《大罪》がいる……ってことは?
って、まさか……?!
『―――君は、僕の罪を受け継いだ、僕の子孫って事だよ?』
―――やっぱり、か。
「私が……《七つの大罪》の、子孫……?」
『そう、だよ……。君は紛れもなく【虚無】の罪を背負った、僕の子孫だ……ね』
「私が……【虚無】の……」
突然の事だったから、ルインも受け入れられていないようだな。
しかし、今までの情報から纏めると、ベリアルが嘘を付く理由も無いし。
『それで……? 君たち、は……どうしてここに来たの?』
どうしてここに来たのか、か。
まあ、こちらも嘘を付く理由は全く無いしな。
正直に話そう。
「―――死んだんだよ。死んで、ここに来たんだよ」
『ふー……ん? 面白い、ね……それ』
今までの経緯をベリアルに説明するついでに、俺は流れで今までの情報を簡単に纏めることにした。
―――俺たちは《電子大国ドライガル》にて、“冥王神ハーデス”を名乗る人物の襲撃を受ける。
そこで“死の鎖”と呼ばれる、相棒との死をも共有する呪いの力で繋がれた俺とルインは、突如現れた“死神王ダナー”という死神に不意を突かれ、殺されてしまった。
だが、俺の所有するスキル『転生』の効果が発動したのか、俺たちは寒くて暗い、不思議な空間へとやってきた。
そこで現れたのは、八番目の《七つの大罪》を名乗る、【虚無】のベリアルだった。
ということは、多分この場所は《大罪の間》である可能性が高い……というか、ほぼ確定だろう。
とまあそんな感じに、脳内で情報整理をしながら、それをベリアルへと話した。
『ふーん……ここ、が……《大罪の間》だっ……て、知って、るんだ……ね』
「ああ、既に3回も来たことがあるからな」
『3回、も……?』
「【憤怒】に【暴食】に【色欲】の、計3回だ」
俺は指を3本立てながら、そう言う。
するとベリアルは、
『3人……も、居るん……だ。へぇ…………?』
「一応全員集めようとは思ってるんだけどな。とりあえずはまだ3人だけだ」
『全員……集める、って……《七つの大罪》……を? 全員?』
「ああ……っていうか、《七つの大罪》だけじゃなくて、《七つの美徳》と《天帝八聖》、それに《十二神将》も集めようと思っているぞ」
『は、はぁ!? じゅ、十二神将も、……?』
「ああ。双神とやらをブッ倒す為には必要な力らしいからな」
『そ、双神まで……ぇ? ああもう、わからなく……なってきた……よ』
頭を抱えるベリアル。
確かに、これが正常な反応だよな。
この世界の人からしたら、俺が今言ってるのは本当に気が狂っているような話だもんな。
(だけど……俺はやらなくちゃいけないんだ……。)
『あぁ、もう……わかった……よ。多分、“あの事”を知ってるのは、もう……僕だけ、だから……僕も君たちに着いて……いく……よ』
「本当か!?」
……って、“あの事”って……何だ?
『僕は、君の……身体の中で……寝てる、から……勝手に力使って……ねぇー……?』
「あ、ああ。分かった」
『それじゃあ、力を……あげる……よぉ?』
「おう!」
俺がそう答えると、ベリアルは「うん」と頷いて、その場から消えてしまった。
「ベリアル様は……どちらへ?」
一瞬にして消えてしまったベリアルを心配したのか、俺のところへ来たルインが、そう不安そうに聞いてきた。
「多分、俺の中……に―――ィッ!?」
そう、説明しようとした時だった。
「―――ッグゥ……アぁ………ああああああああああああああああああああッ!!」
「あ、主様ッ!? ど、どうされたんですか!?」
何だ……よ……これッ!
痛い……どころの……話じゃ―――
「ッグァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
「あ、主様!!」
―――選ばれなかった憐れな悪魔よ。
―――貴様は、何もない。
―――生きている価値もない。
―――力に溺れ過ぎた、愚かな存在。
「何を……言って……ッ!!!」
「あ、主さ―――」
「―――煩いッ!」
「キャァッ!」
近づいてくるルインを、俺は無意識に叩き飛ばしていた。
「ゥグ……アアアアアァ……!」
―――“虚無”だ。
―――“虚無”だ。
―――お前には、何も無い。
―――ただ、朽ち果てるのみだ。
「やめ……ろッ! コイツの罪は……ッ! 俺が全部……ッ!」
―――無駄だ。
「無駄じゃないッ! 俺が、俺がコイツの罪を……全部背負ってやるッ!!!!」
―――愚か……な。
「グッ……ハァ、ハァ…………」
「あ……るじさま?」
「……ッ! ルイン! 済まない、大丈夫だったか…………?」
意識が完全に戻ってきた俺は、すぐにルインの元へ駆け寄った。
良かった……特に外傷も無さそうだ。
「ビックリしましたけど、大丈夫です! それよりも主様は……その……」
「ああ、大丈夫だ。何とか、抑え込めたよ」
「抑え込めた……? 一体、何を……」
「俺にも分からない。……けど、俺はもうコイツの―――ベリアルの罪も背負ってるんだ」
【虚無】だか何だか知らないけど……俺がそれを意味のある物にしてやるよ。
―――ありがと、ねぇ……。君なら、もしかすると…………ぐぅ。
寝るのかよ。まぁ、それがベリアルのらしさってやつなのかもしれないな。
「主様……」
「よし。行こう、ルイン。アイツに……“死神王ダナー”にリベンジしてやろう!」
「―――ッ。はい!! 行きましょう!」
めんどくさいので、来週から火曜日も一律して16時更新にします!よろしくぅ!
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