case.18 一難去って
視点切り替わります
「―――アスモフィさんッ! アスモフィさんは戻ってませんかッ!」
城へ入るなり、腹の底から出された大声は、城中を伝わっていく。
しかし、俺の出した声に返す者は無く、ただ音が響くのみであった。
「クソ……ッ!」
「白夜、落ち着いて。まだ、聞こえてないだけかもしれないわ」
「レヴィーナさん……!」
隣で、レヴィーナさんが俺を鎮めてくれる。
そうだ、冷静になるんだ……。
今、俺の背負うこの二人の天使……ラグマリアとラージエリを救うことが出来るのは、ごく少数の人物だけなんだ。
「とりあえずまずは、回復魔法を使える人たちを集めて、アスモフィが来るまでの時間稼ぎをするわよ」
「分かりました! 移動します!」
レヴィーナさんに言われて俺はすぐに走り出す。
ひとまず、人が一番集まるであろう場所……大広間か中庭のどちらかに向かおう。
誰か……居ればいいのだが―――
■
「誰かッ!!」
まずは大広間へとやって来た俺は、開口一番にそう叫んだ。
そして目に飛び込んできたのは、
「あれは…………」
「―――アスモデウス様!?」
「んんぅ……? どうしたの?」
寝ぼけ眼でそこに立っていた、一人の美少年。
《七つの大罪》が一人、【色欲】の大悪魔アスモデウス様だった。
「いきなりどうしたんだよ……。あー、てかレヴィーナさぁ、国の発展がどうとかっていうのは―――」
「すいませんアスモデウス様! 今はそんな話をしている余裕は無いのです!」
「えぇ? 一体どういう―――」
アスモデウスさんの言葉を遮って、レヴィーナさんは叫んだ。
そして、俺の背中に抱えた二人の女天使を指差して、
「この二人を癒やすことは可能ですか!?」
「二人の……天使? うーん……待ってね、状態を確認するから、一旦そこに下ろしてくれる?」
「あ……分かりました」
アスモデウスさんにそう言われて、俺はすぐに二人をそっと床に下ろした。
「外傷は少ないけど、結構大きくやられちゃってるね。……えっと、あーでもこれ、誰かが治療してた形跡があるから出血も大分抑えられてるし、命もかろうじて繋ぎ止められてるね」
「という事は……!」
「うん。僕なら完全に治療することが出来るよ。それも結構すぐに」
「……ッ! お願いします! 二人を……助けてください!」
「うんうん。大丈夫、分かってるよ。早速二人を治療しちゃうから、キミたちはちょっと出てて。終わったらちゃんと声をかけるからさ」
「ありがとうございます……ッ!!」
俺は、深く深く頭を下げた。
そんな様子にアスモデウスさんは笑っていたが、俺にとっては、涙を流すくらいには嬉しい事だった。
「はい、それじゃあまた後でね」
「分かりました。二人をどうか、よろしくお願いします」
「うん、任せておいて」
そんな会話があった後、広間の扉はパタリと閉められて、再び辺りには静寂が訪れる。
「レヴィーナさん」
「ん……? どうしたの?」
「―――『魔王会議』を開いた方が、いいと思います」
僕は、少し頭で考えていた事をレヴィーナさんへと打ち明けた。
するとレヴィーナさんは真剣な面持ちで返事をする。
「魔王会議を……? ―――一応聞いておくわ。それは……どうして?」
「現状の整理の為。そして……兄貴の事を伝える為に」
「あー…………なるほどね。まあ、今魔王会議を開く理由なんて、それぐらいしかないものね」
「……はい。今、あの場所で起きた出来事を伝えられるのは、俺たちしかいません。だからこそ、ちゃんと伝えないといけないと思うんです。俺たちが、責任をしっかりと持って」
「そうね。……分かったわ、私が今城にいる奴を全員集めてくるから、アナタは会議室で待ってて頂戴」
「分かりました」
そう言ってレヴィーナさんは颯爽と飛んでいってしまった。
取り残された俺は、複雑な心境を抱えたまま会議室へと、足取り重く向かうのであった。
■
「―――多分、これで全員よ」
「ありがとうございます、レヴィーナさん」
会議室に集まった魔王軍のメンバーは、主催の俺たちの方を向いて不思議そうな顔をしていた。
ちなみに集まったのは、敬称略でサタール、マノン、クサナギ、ベルゼブブ、ラグエルの戦闘強化組と、レヴィーナ、スレイドの国発展組。
そして、俺とサタンの魔王捜索組。
こうやって並べてみると、最初から比べて結構人が減ったんだなと実感させられる。
実際、現在治療中のラグマリア、ラージエリにアスモデウスさんを加えて、さらに魔王捜索に出たっきり戻ってこないルインさんとアスモフィさんを加えると…………
「って……あれ?」
「ん? どうしたの、白夜」
「いや……一人足りないような気がして―――」
誰だ……?
誰が居ない……?
何だ、この違和感は。
何か大事な物が足りない気が―――
「なあ白夜、会議をするなら早く終わらせちまおうぜ」
「…………ッ、あ、ああすいません、サタールさん」
サタールさんに会議の進行を促されて、俺はさらに発生した複雑な思いをしまい込みながら会議を始める事にした。
「えっと……それじゃあ、皆さんに報告する事があります。それは―――」
そう言って、俺は“魔王を見つけた”という報告や《中央商帝国アルマス》で起きた事件について、一から説明した。
「ほう。アイツが顔を出したか。意外に早かったな」
俺からの報告を聞いたベルゼブブさんがそう呟いた。
というか、この場にいるメンバーは意外にもドライなのか、主である魔王が見つかったといのに、対して喜んでいないように感じられた。
むしろ、扱いづらい子供をようやく見つけ出した時のような、やれやれと言った反応をしていた。
「それで? 今後はどうするんだ?」
「確かに。あの魔王が見つかったってこたァ、もう探す必要は無いんだろ?」
ベルゼブブさんとサタールさんがそう聞いてきたが、俺はその問いに渋い顔をした。
「いや、そうとも限らないんです」
「ァ? そりゃ、どういう……」
「俺たちは、兄貴を連れ戻すことより、瀕死だったラグマリアやラージエリさんの回復を優先したから、再び状況が逆戻りしたんです」
「ってことは、アレか? また見つけ出すところから始めないと、ってか?」
「…………そうなります」
申し訳ないが、俺にはそうする事しか出来なかった……。
そんな申し訳無さから俺は頭を下げるが、サタールさんは笑って、
「いやいや、気にすんなよ。魔王が居たってだけでかなりの進歩じゃねぇか。それに、ルヴェルフェやベルゼリオも居たんだろ? なら、多分大丈夫だと思うぞ」
「サタールさん……ありがとうございます。そう言ってもらえると、助かります」
やっぱり、この人は相当できている人だ。
優しい……優し過ぎる。
この人の方が、兄貴より兄貴味があるけど、まあそれは心の中だけで留めておこう。
それよりも、確かに今後、どうするかを決めないと―――
「―――あれ……?」
「ん……? どうした、ラグエルよ」
「いや、何か一人足りなくないかしら?」
突然、ラグエルさんがそう言った。
その問いにベルゼブブさんが返すが、すぐにラグエルさんはこう言った。
「えっと……確か、魔王を探そうと言ったあの時、チーム分けをしていた時には私を合わせて全部で15人居たはずよね?」
「数え間違えてなければ、そうなるな」
「で、今この場にいるのは私を入れて9人。んで、白夜の話によれば大広間に3人。それに、魔王捜索に出た2人を合わせても、全部で14人よね?」
「に……し……や…………っと、そうだな。今把握できているのは14に―――――」
「―――やっぱり、誰かが居ないッ!?」
直後、俺は叫んだ。
やっぱりそうだよな。
誰か、一人だけ居ないんだ。
何だ……?誰が居ない?
「冷静に考えましょう? まず、あの時何らかの理由で外に出たのは白夜とラグマリア、そしてルインちゃんとアスモフィ……それで残るは私とラージエリと―――」
そこまで言って、レヴィーナさんは息を止めた。
「……どう、したんですか?」
「―――ゃんが……」
「んが?」
「―――月夜ちゃんが……居ないのよッ!!」
は……?
月夜が……、居ない?
「何を……言って―――」
しかし俺がその驚きに絶望しかけている時に、畳み掛けるように会議室の扉が勢いよく開かれた。
そこから現れたのはルインさんとアスモフィさんだった。
「大変よッ!!!」
「どうしたのッ?!」
開口一番大声を上げたアスモフィさんに、レヴィーナさんがいち早く反応した。
そして後ろにいたルインさんが涙の混じった声で、こう叫んだのだ。
「主様が…………主様が見つかったのですッ!!」
どうやら……まだまだ波乱は続きそうだ。
再び見つかった魔王の事と、消えた月夜の事。
一難去ってまた一難。
頼むから、無事て居てくれよ……月夜……。
俺の心は、ただそれだけで包まれていた。
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