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case.17 反乱軍の意向




「二つ…………聞かせてくれないか」


「何だ」



 イクサに付き従って“徹底抗戦軍レジスタンス”に加入していた王国騎士によって、悪政を敷いていた国の上層部達が牢屋へと連行される直前、その中の主犯格がそう呟いた。



「―――今回の我らの暴走を止めたのは、一体……何者なんだ……」



 そんな問いに、その場にいたアマクサやイクサはなんて答えるか悩んだ。


 もちろん、二人には伝える義務がある。



 魔王曰く、この様子は現在も尚、国内の全国民へと中継されているらしいから。



 だが、言葉に詰まってしまう。


 何故なら、二人は彼ら魔王軍の事を良く知らないからだ。



 いや、彼らだけでは無い。


 恐らく、この世界で彼らの事を知っているのは、ごく少数だろう。



 存在自体は認知していても、活動や目的が誰一人として分からない。



 それは、ある意味では脅威となり得るが、ある意味では救いでもあった。



 元来魔王とは、世界の頂点に君臨する存在であり、その魔の手……支配の手からは誰一人として逃れることは出来ない。


 昔からそうやって、物語などで教えられてきた人が多かったはずだ。



 だから、先代の魔王が若かりし頃は世界中の至る所で戦争が起き、莫大な被害が発生していた所も少なくなかった。


 だが、先代魔王が年老いてから、今の魔王に変わった後まで、何一つとして世界に脅威を与える事をしていないのだ。



 そりゃ、現魔王絡みの事件はいくつもあった。


 だけどそれは、結果的にはその国の、その地に住む人々の助けになる事ばかりで、悪の親玉、というよりむしろ、正義の味方、なのだ。



 それが、喜ばしい事なのは事実なのだが、それを何かの災厄が起きる前兆だとして備えを蓄えている人も少なくは無い。



 目的も、存在理由も分からない魔王の説明を、一体どうやってすればいいのか……アマクサとイクサは悩んでしまった。



 しかしこの場にはもう一人、二人より魔王の事を知る人物が居た。




「―――今回、“徹底抗戦軍レジスタンス”に加勢したのは、“魔王軍”の連中だ」




「魔王……軍」



 そうして語り始めたのはヤマトだった。



 ヤマトは、魔王と出会った時に話をしていた。


 それは、ここに来るまでの経緯や、魔王が何を成し遂げようとしているのか。



 だからヤマトには話すことが出来た。



「何故、そんな連中が我々の邪魔をしたのだ……」


「それは―――」



 ヤマトが、言葉を続けようとした時だ。




「―――それは、俺から答えよう」




 そう言って、壊れた窓から現れたのは、魔王張本人だった。



「魔王。全て終わったか」


「今回の助力、本当に感謝する」


「あーいや、そう言うのは良い。今回のは本当に俺たちの気まぐれだったからな」


「……そう言ってもらえると、気が楽で助かる」



 アマクサたちに頭を下げられるも、魔王ルミナスはそれを止めるように笑った。


 そして頭を掻きながら、貴族達の方を向く。



「あーっと……俺たちが、お前らの邪魔をした理由……だったな?」


「ああ……ッ! 何故、貴様らは我らの邪魔をしたッ!」


「―――理由は二つだ」



 ルミナスは、冷たく言い放った。


 深淵から響くその声に、その場にいた誰もが一瞬だけ背筋を凍らせる。



「―――一つは、俺の理想の世界を作る為だ」


「り、り、理想の世界だと……?」


「ああ。それは、魔族が誰も悲しまないで済む世界。大切な人が、泣くことの無い世界。誰もが笑い合える世界。―――お前たちのような悪が、存在してはいけない世界」



 この時ルミナスは、過去にこの国で行われた儀式の事を思い浮かべながら話していた。


 魔族の肉体を生贄に使って、神を現界させるという忌々しい儀式の事を。



「そして……二つ目は」



 深刻そうな表情で呟くルミナスの様子に、貴族達はツバを飲み込み様子を見守るしかなかった。


 そしてやがて彼はニッコリと笑って、こう言ったのだ。




「―――単なる成り行き、さ」




 そう言ってルミナスは、騎士たちに促した。


 「連れて行け」、と。



「ま、待て! 成り行き、だと!? ふざけるなよッ!!」


「ふざけてないさ。俺って、こういう奴だからさ」


「じゃ、じゃあ最後に二つ目の質問をさせろ!」



 そうやって無理矢理騎士たちを引き止めて、貴族達はアマクサ達の方を向きながら、呟いた。



「我々は……我々はいつから間違っていたのだ……!?」


「ッ…………それは―――」



 アマクサが言葉に詰まった。


 そしてそれを見たイクサは、物憂げに上を見上げ、こう、言ったのだ。



「―――最初からだ。お前たちは、最初から間違っていたのだよ」



「…………そう、か。最初から……か」


「我らは、ずっと間違った道を歩み続けていたのだな……」


「どうしようも、無かったのだな……」



 そう言いながら、貴族達は涙を浮かべた。


 そして、悲しみに捕らわれる最中に、彼らは連行されていく。



 ルミナスはそれを見て、アマクサとイクサに言った。



「お前たち。この戦いを見ていたシュデンの全国民に、勝利の宣言をしてやれ。それは、お前たちの仕事だろう?」



「ッ! ……ああ! ああ……そうだなッ! ―――イクサ!」


「フッ……分かったッ!」



 魔王の言葉を受けて、二人は壊れた窓の外へと向かった。ちょうどバルコニーになっているその場所から、全国民に向けて言い放つ。





「―――我らは! 勝利を勝ち取ったッ!」



「―――光を、取り戻したッ!」



「―――この国に蔓延る悪はもう居ないッ!」



「―――これからは、平和に生きることが出来るだろうッ!」



「「―――シュデンの国民よ。良くぞ、良くぞ耐え抜いたッ! 我らの勝利だッ!!!」」




 刹那、国内が湧き上がった。




「「「「ウオォォォォォォォッ!!!」」」」




「……ありがとう、皆。だが、今のシュデンの状況は最悪と言っても過言では無い」


「だから我々は、今ここでシュデンの全国民に提案したい!」



 と、アマクサが言ったところでルミナスはヤマトに押されてそのままバルコニーへと出てしまった。



「ちょ、何をして―――」


「―――いいから。多分、お前が必要になる」


「は? それってどういう……」



 ヤマトに言われるがまま、バルコニーに立ったルミナスは、アマクサとイクサにそれぞれ手を掴まれ、天高く掲げられた。



「―――は?」



「―――我らシュデンの国民は、今回の戦いの救世主である魔王の国と連携し、さらに希望する国民を全て彼の国へと移住させたいと思う!」


「居住地の無償提供に、絶対的な安全保障、そして何よりも世界の中央に位置するこの魔王の国からは、どこの国だって簡単に旅行に行けてしまう!」


「悪くない条件だと思うのだが、如何だろうか!」



「…………は?」



 ルミナスは戸惑っていた。


 いや、ルミナスは確かに国民が欲しいとは言ったが、そういう事では無いだろう、と。



 しかし、そんな彼の思惑とは裏腹に、国民達の反応は、



「「「「ウオォォォォォォォッ!!」」」」



 と、喜々とした物だったのだ。




「おいおい……コレ、マジかよ…………?」



 そんな彼の呟きが、国民の歓声によって掻き消されてしまうのだった。

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