case.10 徹底抗戦軍《レジスタンス》
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「二つ目の報告……それは―――」
俺と師匠、二人だけしかいないのに、この深夜という時間帯のせいか、妙な緊張感が漂う。
何か、良くないことが起きるような、嵐の前の静けさと言っても過言では無いような、そんな気が。
「それは……?」
「―――心して聞けよ」
重々しく師匠は言った。
その雰囲気につられて、俺もゴクリとつばを飲み込む音を立ててしまう。
そして師匠は続けた。
「―――ハーデスに怪しげな動きが見られた」
「ん? 怪しげな動き……?」
「ああ……。何やら一度外の世界へ出たみたいでな」
「はぁ!? ドライガルから一度出たのか!?」
「ああ。しかもそれだけではない」
まだ……続くのか。
「偵察用に育成した我が愛鳥、“ヨルドリ”の《暗夜》から受け取った情報によると、この地の外……《護王国シュデン》で反乱軍の動きがあったようだ」
「シュデンで、反乱軍……? そんでもって、愛鳥のアンヤ……?」
そんな一気に言われても……!
とは言っても内容自体は簡単な物か。
「暗夜にはもうすでに別の任務を与えて飛ばしておるよ。それよりも、だ」
「ああ……シュデンでの反乱軍の事だな?」
「そうじゃな……一体、どうしようかの―――」
■
《護王国シュデンにて》
「おい、それはどういう事だ……!」
「だから、この国をもう一度取り返すと言っているのだッ! 分からんのかッ!!」
「だがそれは……ッ!」
一人の老人男性が吠えるように怒鳴った。
その迫力に、一人の青年がすくんでしまう。
―――護王国シュデン。そこは竜人の住む、誇り高き忠誠と絶対守護の信念を持った、騎士の王国であった。
しかし、どこに行っても国のお貴族様というのは厄介な物で、この国でもそれは例外では無かった。
国民の絶対安全は保証されている。
それは、国民も、守る騎士側だって理解している事だ。
しかし、守る騎士側……すなわち国の上位層、権力保持者の側が代わりに要求した見返りが、お金……“税金”だった。
民は税を払い、その身の安全を確保する。
騎士は民を守り、代わりに金を貰う。
そうやってシュデンは成り立ってきていた。
しかしいつの日か、傲慢な王が税率を上げたのだ。
その事に民はもちろん不満を出したが、そこは権力によって封じ込められた。
まだ、微々たる差だったから、民達もそれ以上文句を言うことは無かったが、国は一度税を増やしてからはもう止まることを知らず、悪党までもを含む全ての国民が、まともな生活を送れないほどに税率を上げ、上下の差がハッキリと生まれてしまっていたのだ。
しかし上位層の面々は、そんな状況になっているとは露知らず。
己の私腹を肥やす事しか頭になかった国の上位層は、国内で密かに反乱軍の動きがあったことを知らなかった。
反乱軍の名は、“徹底抗戦軍”。
戦える全国民によって結集されたこのメンバーを従えているのは、リーダーの“アマクサ”だった。
元々気弱な青年だったアマクサは、ある日誇り高き忠誠心を持つ騎士に出会い、流れるように弟子入りを申し出ていた。
そう、その騎士の名はベルゼリオ。
《魔帝八皇》の一人で、かつてこのシュデンの国でも名高い名声を得ていた最強の騎士である。
そんなベルゼリオの弟子となったアマクサは、この国を支配するべく動いた。
いや、もう一度取り返す為に動いた。
一度ベルゼリオの協力によって、この国は上位層からの支配を逃れることが出来た。
王は死に、代わりにベルゼリオがその地位に付く事で民は絶対的な安心と信頼を覚えていた。
が、その直後ベルゼリオが、主である魔王の元へ帰還してしまい、そうなると今度は、反乱軍の力が無くなってしまう。
そこを再び上位層に突かれてしまったのだ。
もちろん結果は惨敗。
見せしめとして何人もの人が殺され、再び高税率の納税の日々に逆戻り。
そこで、もう我慢の限界だと口を開いたのは、反乱軍の副リーダー、“イクサ”だった。
年老いても尚、衰えることを知らないその老体で数々の戦いを勝ち抜いてきたイクサは、もちろん冷静な思考も持ち合わせていた。
そんなことは当然リーダーであるアマクサだって分かっている。
そもそもイクサは、元国王の参謀……右腕として働いていた策士であり、数々の奇策で隣国の《戦帝国フラウ》を出し抜いてきた実力保持者なのだ。
そんなイクサを司令塔……実質的なリーダーとして置き、今まで何とか騎士軍から逃げ切ってきたのだが、もうそれも限界に近いと言った様子でイクサは激怒したのだ。
「いつまで逃げているつもりだ、アマクサッ!」
「だが……師匠の指示ではあまり目立つ行動をするなと……!」
「あんな奴の事は放っておけッ!! あの裏切り者の事など……もう忘れたいんだよ……ッ」
かつてこのシュデンの国に居たベルゼリオも、イクサと同じく元国王の参謀として働いていた。
左右の腕に優秀な部下を置き、国王も少しは慕われていた。
右腕が策を弄し、
左腕が剣を振るう。
それだけで騎士たちの指揮は向上し、民の安全も守られる。
いや、守られていた。
あの日、魔王達がこのシュデンの国に訪れた、あの日。
ベルゼリオが居なくなって、そこから国が荒れ始めたのだった。
「もう、俺は我慢ならん。こうしてコソコソと策を弄するだけの時間は終了だ。もういいだろう? アマクサ」
「……だが……!」
「ええい、もういいッ!! 明日この国で反乱を起こすッ! 徹底抗戦軍の本領発揮だッ!!!」
「「「「ウォォォォォォォォッ!!」」」」
「そ、そんな……ッ!」
イクサの呼びかけに、反乱軍の面々は歓声を上げる。
そんな様子にアマクサは戸惑ってしまう。
一体どうすればいいのか。
師匠であるベルゼリオには“あまり目立つな”も指示を貰っている以上、下手に動けば悪手となる可能性が高い。
しかし、もうこの状況が続くのも限界に近いのも事実だ。
特に老人や女子供が飢え凍えそうなのだ。
基本的に欲に余裕があって、お金も多少は持ち合わせている人の力で食料を買い集め、それを女子供……特に子供に与えていたが、もう欲も限界、お金も底をつきそう……と、文字通り限界なのだ。
イクサの気持ちも痛いほど分かる。
「アマクサ……お前も覚悟を決めろ! いつかは動き出さないといけなかったんだ……それが、明日になっただけだ!」
「クッ…………俺は一体……どうすれば……ッ!」
結局アマクサには考えられなかった。
同時に、もうイクサに従うしか無いのだと悟った。
自分よりもイクサの経験の方が上だ。
それは変えられようのない事実で、平民出身のアマクサにはどうしようも出来なかった。
「分かった……俺は、イクサの意見に賛成する」
「フン、それでいい。―――よしお前らッ! 今日は早く休めッ! そして明日の早朝……いや、深夜と早朝の境に王国を叩くッ! 以上、解散ッ!!!」
そうイクサが言うと、反乱軍の本部である地下の倉庫……を改造した会議室から次々と人が出ていった。
勢力規模は小さい。
だが、個々の能力はかなり高い方だ。
勝つ自信はもちろんあるが、多少の不安が残る。
しかしもう決まってしまった物は決まってしまった物。
それなら、それに全力で取り組むだけ、ただそれだけでいい。
そんな期待と気合いと不安を混ぜた気持ちを抱えたまま、アマクサも自分の寝床へと帰るのだった。
夜明け前が、開戦の時だ。
今こそ、シュデンに光を取り戻そう。
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