case.9 飴と鞭、割合1:9
書いててよく分かんなくなってた(のうし
「ハァッ……ハァッ……ハァッ……!」
熱い吐息が漏れる。
「クソ……ッ、どうして―――」
口を開けば文句が漏れる。
「どうして―――こんなことに……ッ!」
先ほどの自分を殴りたい気分になる。
「ハァ……ッ! ハァッ……!」
クソ……もう足が―――
「―――オラッ! スピードが落ちてるぞッ!!! その程度の体力じゃ、我の剣技を覚える事など不可能だぞッ!!!」
「はっ、はい師匠ッ!!!」
疲れた身体に鞭を打ち、俺を鼓舞するのは師匠、ヤマトだった。
そう、俺が今何をしていたかというと。
―――ランニングだ。
ただの、ランニング。
何故こんな事をしているかというと、ヤマト曰く、
「全ての武術の基本は基礎体力に有り。故に、御主のような貧弱そうな体力の持ち主は心の芯から徹底的に鍛え上げないと、そもそも“武術”にすら成らん。」
と言うことだったので、ヤマトが、そして何よりも俺が納得するまで基礎体力を鍛え上げるトレーニング、すなわちランニングをしていたのだが……。
修行開始時刻が、大体昼過ぎ……1時頃だったか。
やけに日差しが熱くて、身体が色んな意味で火照っていたのを覚えている。
そしてそれからランニングを始めて、現在の時刻が……
―――ホー……ホー………………。
日はすっかり沈み、フクロウのような生き物の声まで聞こえてくるのだ。
まあつまりは。
現在の時刻。
おおよそ0時頃。
もうすぐ、ランニング開始から12時間が経過しようとしていたのだった。
しかしどれだけ時が経とうと、ヤマトは手を抜かない。
むしろそれどころか、俺が疲れてくるにつれて鞭を打つ手を強くしてくるのだ。
正直何でもすると言った過去の自分を呪いたいくらいだ。
だけどそれでも、自分が強くなるためならと、意地でも走ることをやめなかった。
もちろんヤマトの指示で少しずつ休憩は挟んでいるが、そんなもの雀の涙同然だ。
とまあそんな訳で、俺は約11時間にものぼるランニングをし続けていたのだった。
「クソ……こんな所で諦めてたまるか……ッ!」
「ホホ……その意気だぞッ! あと一時間、気合入れて走れいッ!!」
「クッ……は、はいッ!!」
俺の隣をずっと走ってくれていた師匠は、全く疲れた様子を見せず、話しながらも息を切らさずで、もう神の領域とまで言えるくらいの実力を見せていた。
少しでもそうなれるようにと、俺は頑張っていたのだ。
「さあ、あと少し! ラストスパートだッ!!」
「ウッス!!」
そう言われて俺はさらに力を込めた。
もう足の痛みなんて、それすら通り越した別の何かに変わっていたが、それすら気にせず走り続けた。
もう無我夢中だった。
そして気づいた時には、何かに躓いて転んでいた。
「アグッ……いったた…………」
何事かと、足元を見ると、そこには師匠の足があった。
「ほほー……もう一時間経ったぞい」
「ハァッ……ハァッ……もう、一時間も……!?」
あと一時間って言われてから体感一分しか経ってなかったが、まさかもうそんなに経っていたなんて。
「流石にこれ以上の運動は許容できんからな、強制的に終了させたのだ」
な……んだ。
そう言うことだったのか。
いや……ってかまともに話すことが出来ないな……!
一気に疲れが襲ってきたというか……。
視界が歪んてきたと……いう……か。
「―――今はぐっすりと眠れ。そしてまた、明日の朝から修行再開じゃ………………」
そんなスパルタ師匠の言葉を最後に、俺の視界は暗転した。
■
「―――起きろッ!!!」
「……ッッッ!!!??!」
突然の怒声に俺は眠る身体を叩き起こした。
「いつまで寝ているのだッッッ!!!」
「す、すいませんッ!!」
半覚醒状態だが、気にせず身体を起こし、師匠の前に立った。
「身体の具合はどうじゃ?」
「あ……はい。えっと……」
言いながら俺は、手足を軽く動かして、跳ねたり伸びたりしてみる。
うん、不思議と身体は痛くもなんともない。
むしろ軽いくらいだ。
「なんか、絶好調です」
「そうか? それなら良いのだが……」
何だ、師匠も心配してくれてたの―――
「それじゃあ修行第二段階といこうか」
「え」
「これより我の伝授する剣技をすべて覚えてもらう。数は九つ。“大和流剣術・九重の調べ”、習得する覚悟はもう出来ているのだったな?」
「う……」
全然心配してくれてなかった。
まあ……昨日の今日だしなぁ……。
うし……気合入れ直すかっ!
「押忍ッ! 覚悟はとっくに出来てますッ!!」
「うむ。それでは早速始めようか。まずは剣の種類と、それぞれの構え方についてから―――」
それからまず俺は、師匠による「剣講座」を小一時間程聞き、俺が持つそれぞれの種類の武器……大きく分けて3種類あるが、“片手剣”、“短剣・小刀”、“刀・両手剣”を一つずつ師匠へと渡した。
そしてそのいずれも目でじっくり見比べたあと、その中から、
・片手用剣、『神剣・神滅』
・短剣、『呪狂剣・双月』
を取り、俺へと渡してきた。
さらに、訓練用と言って渡された普通の鉄刀も一つ渡してきた。
「それではそれぞれの武器の構え方や、戦い方を教えよう」
という訳で、今度は実戦を交えた訓練も始まった。
「―――違う、構えが甘いッ!」
「―――そこで防ぐのだッ!」
「―――気を抜くなッ! 常に周囲を警戒しろッ!」
「クッ……ハァッ、ハァッ」
次々と知らないことを身体に叩き込まれ、戸惑いながらも次……次……次とどんどん技を教え込まれていく。
だけども、着実に構えや間合いなどの基礎的なことから、実戦で使える応用的な技術まで、付け焼き刃かもしれないが覚えていくことが出来た。
しばらくして“大和流剣術”を一から教えられていくが、ここから先はお披露目までのお楽しみとさせてもらおう。
まあ色々あって、気づいた時にはまた時刻が0時をまわっていたのだ。
一応結果から言うと、技を会得することは出来た。
圧倒的付け焼き刃だが、それでも実戦で使える程にはなっただろう。
訓練を終えた俺のもとに、師匠がやって来た。
「まあ、たったの2日。しかも広く浅くで教えてきた剣術だがな。それでも御主はよくやったよ」
「師匠……」
「済まないな。もっと時間があればじっくり教えられたし、御主に無理をさせることをしなかったというのに」
「いや、別にそれは―――」
「―――二つ。御主に報告がある」
俺の言葉を遮って、師匠は話した。
報告……って一体何の……?
「一つ。御主には飴と鞭……その飴をやろう」
そう言って師匠は、腰に差していた白い刀を差し出してきた。
「え……? これを?」
「ああ。シロガネノツルギという、この我が愛剣を授けよう」
「え、いや、こんなの流石に……」
「ほれ、いいから受け取れ」
ガシャンと無理矢理手渡されてしまった。
「……本当に、いいんですね?」
「ああ。持っていくといい。我にはまだこの“クロガネノツルギ”があるからな」
そう言って師匠は反対の腰に差していた黒い刀を取り出して笑った。
「師匠、ありがとうございます。ありがたく、使わせていただきます」
「おお、そうしてくれ。して、二つ目の話じゃ―――」
それから師匠は、間髪入れずに次の“報告”をしてきた。
それこそが、俺たちの作戦にさらなる動乱をもたらし、そして俺たちの強くなった力を示す時の始まりを告げる報告だったのだ。
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