case.20 救出
章完結です!
次回から第10章!
「―――おい……これはどういう事なんだ……ッ」
「分からないわよ……! でもこれは―――」
「我が主ッ!!! そん……な……」
『惨いな……』
『ええ、これは流石に……』
森を5人で手分けして探していたのだが、レヴィーナが「見つけた」と騒ぎ出したので、全員レヴィーナの方へと集まって見てみると、“それ”があったのだ。
全員、若干の吐き気をもよおす程の異臭に目眩を起こしながらも、何とか状況を整理しようと頭を動かした。
まずそこに何があったか。
森の奥深く、霧の濃いこの空間に充満した血の匂い。
血溜まりの中に倒れる二人の男女。
そして少し離れたところに、横たわる二人の天使。
何が起きたのかは分からないが、事実としてこれは分かる。
「全員……“死んでる”のか……?」
全員、誰一人として息をしていなかったのだ。
血溜まりの中にいる男女……あの魔王と、ミカエラなのだが、魔王の身体には光の剣が何本も刺さっており、心臓部を貫くように背中側から突き刺された形跡もあった。
ミカエラの方も、周囲に黒い翼が落ちている事から、ただ倒れただけとは言い難かった。
そして離れの天使二人だが、身体に傷穴があり、それもだいぶ塞がっているようだったが、明らかに出血が止まっていなかった。
異常だ。
明らかにこの空間は異常だった。
「ど……どうすれば―――」
と、そこへ突然、空から声が響いた。
「―――一体何があったんですかッ!!」
その声の主とは、
「白夜ッ!」
「レヴィーナさん……って、ええ!? 何ですかその格好は!」
「う、うるさいわね……別に何だっていいでしょう!? 殺すわよ!」
「ひえっ…………って、いやいや、そんなことより!! これはどういう状況―――」
白夜と呼ばれた人物は、レヴィーナと話していたが、次第にその視界に入ってきた物の異常さに気づき始めていた。
そして、前を見て、手から力が抜けていた。
「―――え?」
白夜はトボトボと前へ歩み出る。
そして血溜まりの中で膝を崩し、ビチャッと血が跳ねるのも気にせず、そこで倒れている一人の男を抱きかかえて、涙を流した。
「そ……んな。兄貴……? まさか、いや……嘘だ……嘘ですよね……?」
「いいや、魔王は多分……もう―――」
「違うッ!!! まだ……まだ心臓は動いている……ッ!」
「何だと……!?」
僕が諦めたようにそう呟くと、白夜は全力で反論してくる。
そして心臓が動いていると言い放つと、ベルゼリオがそれに反応して驚いた。
そしてそれを確かめるべく、僕は魔王の心臓部を調べ始める。
「流石に心臓を貫かれて、生きているなんて―――」
―――ドクン。
「嘘……だろ?」
「ほら……生きているだろッ!?」
「ああ、確かに魔王は……まだ生きている」
正直驚いた。
まさか、本当にまだ生きているなんて思いもしなかったから。
あの傷の量で、息もしていないのにまだ心臓は動いている……。
これはかなりの生命力だ……。
「クソ……誰がこんな事を……ッ! ひとまず治療が最優先です……兄貴と……この人の治療を!」
そう言いながら白夜は、魔王とミカエラを指差して言った。
『じゃあ、私が二人の治療をするわ』
『我も助力しよう』
「……頼んだ」
僕は二人に治療を託して、今度は後ろを振り返った。
「―――残るは……」
「まだ……居るんですか」
「ああ。あっちの奥の方に、二人の天使が―――」
僕がそう言った瞬間だった。
「―――まさか……ッ!」
白夜は焦ったように駆け出して行ってしまう。
それを見たレヴィーナはこう呟いた。
「……二人とも」
「……? どうした?」
「ここから、離れなさい。インドラと、ガネーシャを連れて、今すぐ何処か遠くへ行きなさい」
「何故だ」
「いいから早くッ!!!」
「……ッ、わ、分かった!」
珍しく本気のトーンでそう叫んだレヴィーナのお願いを聞き入れ、僕たちはインドラたちの方へと駆け寄った。
「インドラ、ガネーシャ。すまないが―――」
『聞こえていたぞ。ここから離れるのだろう?』
『いいわ。早く行きましょう』
「よ、よし。それじゃあ早く行くぞッ!」
何が起きるのか分からないが、ひとまずこの森を抜け出て―――
そこまで考えた時だった。
白夜が駆けていった方で、一筋の神気が立ち上った。
「早く……行ったほうが良さそうだな」
『私の力……『次元干渉』を使うわ。そのまま転移の力で何処か別の国へ向かうけど、何処に行くの?』
「僕たちは―――」
「―――《護王国シュデン》だ! そこへ向かうッ!」
ベルゼリオがそう言い、ガネーシャが頷くと、僕たちの姿は透明になっていった。
『それじゃあシュデンに向かうわよ。異論はもう認めないからね……!』
「ああ、向かってくれ―――」
そう、僕が言うと、一瞬にして視界が切り替わった。
一体、あの場所で何が起きているのか。
そして、魔王とミカエラは助かるのか……、
様々な不安が僕の……僕たちの胸の内を襲っていた。
■
《レヴィーナ視点》
「さあて……どうやって鎮めようかなぁ」
きっと白夜は怒ってる。
それを……その怒りを鎮めないといけないのは分かっている。
だが……
「本気を出した彼に、勝てるかどうか……」
まだ戦うと決まった訳じゃない。
が、その可能性は十二分にある。
「戦わないなら戦わないで、そっちの方がいいんだけどね」
そう呟きながら私は、足取り重く白夜の向かった方へと走り出した。
「―――どうして」
と、すぐに目的地へと辿り着いた。
そこでは、白夜が、ラグマリアを抱えて涙を流していた。
「―――どうして、また……」
隣ではラグマリアを庇うようにラージエリが倒れていて、二人とも身体に大きな傷穴が空いていた。
血もまだ完全には止まっていないようだ。
「白夜―――」
「―――まだ助かりますよね」
「え……?」
「まだ、きっとまだ助かりますよね?」
「……分からないわよ」
多少は治療されているようだったが、それでもまだかなりの大ダメージと言えるだろう。
助かるかどうかなんて、そんなこと、私には分からない。
「だけど……だけど、信じるしかないでしょう? 誰かがこの子達を治療してた形跡もあるし……」
「―――そう、ですよね。……分かりました。大丈夫……大丈夫です」
そう、自分自身に言い聞かせるように白夜は言った。
そして、白夜は一気に二人の天使を抱えて、私にこう言ったのだ。
「二人を必ず助けてみせます。ですが、俺にはそんな力は無い。だから……二人を助ける為には、回復のスペシャリストが必要です」
「回復の……ねぇ」
一人だけ思い当たったが、あの子は今は“魔王捜索”で居ないからなぁ……。
「誰か、思いつきませんか……?」
「う……ん。そうねぇ……ただ回復するだけなら、私やサタールでも出来るけど……瀕死の状態から救い出すとなると、確かにその道のプロが必要になるわね」
「……はい」
「そういえば。貴方の中にいる神様には頼めないの?」
私はふと思って聞いてみた。
すると、
「―――アイツら今、寝てるんですよね」
「寝てる?」
「はい。何か、この前の戦いが終ってからずっと寝てて……」
「あらら……ってことは神様には頼めないってことね」
「すいませんが、その通りです」
じゃあ…………どうしよう。
とりあえず言えるのは、絶対に私だけじゃどうにもならない。
「こんな所で考えるよりも、人が沢山いる魔王城へと一度帰ったほうが、色々思いつくかもしれないから……一度帰らない?」
「……確かに、それもそうですね。分かりました、そうと決まれば急いで帰りましょう!」
「え、ええ。それじゃあ帰るわよ」
ハッキリと前を見据えた白夜は、二人の天使を抱えて飛び立った。
それに私も続く。
「待ってろよ……二人とも、絶対に助けてやるからな……」
そんな呟きが、風に流れて聞こえてきた。
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