case.15 VS群神ガネーシャ
『―――インドラ。これはどういう状況なのですか?』
『見たら分かるだろうッ!! 我がッ! 雑魚を淘汰しているのだッ!!』
言われてガネーシャは、改めて今の状況を確認してみた。
確かにインドラの言葉に偽りは無い。
小人族、“竜人族”、“妖精族”の三体を一人で圧倒しているようで、無傷のインドラに対して、かなりのダメージを負った様子の敵三体。
『フン、最初こそ苦戦したものの、やはり我が軽く力を出せば、コイツらなどそこら辺を転がっている塵芥同然よ』
『じゃあ何で私を呼んだ』
『―――その方が、面白いと思ったからだ』
■
最悪だ……。
人のせいにするつもりは無いし、事実全員が弱かっただけの話なのだが、レヴィーナが機能しなさ過ぎる……!
「ハァ……ッ……ハァ……ッ」
「おい、何へばってんだよ……この程度で疲れてるようじゃ、天才の名も廃るぞ?」
「うるっさいわね! アンタたちと違って“神化”してないんだから、弱いのも疲れるのも当然でしょうっ!?」
「おい、今はそんなくだらない話をしている場合では無いぞッ!」
インドラ一体でも相当キツイってのに、群神ガネーシャまで来るなんて、最悪中の最悪。まさに“災厄”だ。
『フン、まあいい。この前のお詫びという事で付き合ってやるさ』
『感謝するぜ。これでも一応、コイツらは魔王軍の幹部だからな。これ以上の力を秘めている可能性だってある訳だ』
『確かにな。見たところあのエルフの娘だけ、自身に強化を掛けていないようだからな』
「うっ」
なんか神々の会話でレヴィーナがダメージを受けている。
図星を突かれたからか。
「……やっぱり、使った方がいいのかしらね」
「ああ、出し惜しみはしない方がいいぞ」
「ウム。生か死か、選ぶのは簡単なはずだ」
「そうか……そうよねぇ……。相手は、《十二神将》なんだもんねぇ……」
しばらく、俯向きながら考えていたレヴィーナだったが、やがて決心したように立ち上がり、そして神々を見て、拳を握った。
「いいわ、やってやるわよ」
「フッ、どうせ使うなら最初から使っていれば良かったのにな」
「いちいち煩いわね、アンタ」
まあいいわ、そう言いながらレヴィーナは魔力を解き放った。
「久々ね、これを使うのは」
そう言いながら、レヴィーナは躊躇いも無く服を脱ぎ捨てていった。
「前振りは無しよ。ルヴェルフェ、ベルゼリオ……一気にアイツらを叩くわ。ついてこれるかしら?」
一枚一枚着ているものを脱ぎ捨てながら、レヴィーナは僕たちを煽るようにそう言った。
そんな質問に、僕は言ったやった。
「ハッ、笑わせるな。お前こそ僕たちについてこれるのか?」
「あら、言ってくれるじゃない。―――いいわ、どっちが強いかハッキリさせましょうか」
「望むところだ」
そして、レヴィーナは全ての服を脱ぎ終え、神化を始めた。
「ふぅっ……さて、始めましょうか」
「ああ」
僕たちもレヴィーナに続いて並び立つ。
再び“神化”の重ねがけをする為だ。
「準備はいい?」
「我はいつでも」
「僕もいけるよ」
「それじゃあ―――」
『ほう? まだ諦めないか……面白いッ!』
『私が来た甲斐もまだありそうだな!』
神々の視線が、僕たちに集まる。
そして魔力が高まり、全ての準備が整った瞬間、僕たちは一気に叫んだ。
「―――『邪神化』ッ!!」
「―――『龍神化』ッ!!」
「―――『妖神化』」
刹那、オーラの柱が立ち上がり、僕は黒、ベルゼリオは青、そしてレヴィーナは紫の光に飲まれてしまう。
やがてそれが収まった時、僕とベルゼリオに変化は無く、ただスキル効果の延長が出来ただけなのだが、レヴィーナには大きく変化が訪れていた。
紫炎が彼女の裸体、その秘部を包み隠し、スレンダーな肉体は妖艶な、豊かな肉付きをしている。
ハッキリ言えば、胸と尻がデカくなって、もともと細かった腰がさらに強調されている形となっているのだ。
これがレヴィーナの神化、『妖神化』の状態だ。
この状態になると、ありとあらゆる“妖術”を使いこなし、一筋縄じゃいかない相手と化すのだ。
「―――だから負けた気になるから嫌なのよ」
僕たちの視線を感じたのか、レヴィーナは呆れたようにそう呟いた。
十中八九胸の事だろう。
もともと控えめだったレヴィーナの胸は、神化する事で大きくなる。
それを彼女は嫌だと言っていたのだ。
「まあいいわ。あまり持続時間も少ないし、さっさと終わらせましょう?」
「あ、ああ」
「心得た」
『準備は、整ったようね』
『我はあの女を叩く。貴様は残りの雑魚を相手しておけ』
チッ、僕たちはもう雑魚扱いかよ。
まあいい、事実は事実だ。
今更あーだこーだ言うつもりは無い。
だが、やはりこのまま負けたままというのも癪だ。
「ベルゼリオ、少しばかり本気でいこうか」
「無論、負けるつもりは毛頭ない。我も最初から本気でいかせてもらう」
『いいわね、貴方達。面白いわ、纏めて潰してあげるッ!!』
そう言って、ガネーシャは突っ込んで来た。
気づけば隣ではインドラとレヴィーナの戦闘も始まっている。
それを確認した僕は、すぐにガネーシャへと視線を戻し、戦闘態勢を取る―――が、ガネーシャは視界から消えていた。
「―――ッ、何処に行きやがった……!」
「分からない。だが、警戒だけはしておけ。自身の周囲全部だ」
「了解……!」
確か、先日インドラと戦闘したときにもコイツは居たはずだ。
その時も姿が見えなかったから、少しばかり考察はしていたが―――マジで一体何の力だ?
「透明化か……?」
『クククッ! あんまり考え事をしていると―――』
「―――右だッ!!」
『遅いッ!』
僅か数秒の内に、ガネーシャとベルゼリオの声が飛び交い、かと思えば直後、僕の横腹は強烈な痛みに襲われた。
「グハァッ……!」
「ルヴェルフェッ!」
「だい……じょうぶだッ! それよりも……次の攻撃に備えておけ……ッ!」
「了解したッ!」
僕は自身に回復魔法を掛けながら、周囲の状況を見回す。
やっぱりガネーシャは居ない。
「何だ……この神は何の力を使っている……?」
「チッ……もどかしい……ッ!」
どこから来るか分からない恐怖が、ベルゼリオの焦燥感を煽り、身体の節々に隙を作ってしまっていた。
「ベルゼリオ、焦るな、落ち着け」
僕は回復を終え、ベルゼリオの背中に僕の背中を合わせながらそう言った。
「……むぅ……」
「いいか、落ち着いて音を聞け。目が駄目なら耳を使えばいいだろう?」
「音を……聞く」
ベルゼリオは、僕にそう言われて目を閉じた。
恐らく音に集中し始めたのだろう。
その間に僕は、この状況を打開する策を考えなければ……。
まず、一番に思い当たるのはやっぱり透明化だ。
それか、もしくは気配隠蔽系の魔法を使っている……そうとしか考えられない。
が、もし仮に、神にしか扱えないスキルや力があるのだとしたら、それの可能性も大いにある。
となれば、ひとまずは前者の対策の為、“呪術”を使い、さらにそれと同時に後者であった時の為に、相手が見えなくても戦闘できるようにこちらも“呪術”を使おう。
『―――フッ!!』
と、ここまで考えたところで、少し離れたところからガネーシャが姿を現した。
方向はベルゼリオの左斜め前。
「―――ベルゼリオッ!」
「任せろッ!」
即座に僕の声に反応したベルゼリオは、驚異の身体能力でガネーシャを躱し、追撃を狙う。
が、攻撃を躱されたガネーシャはすぐに消えてしまい、また元の同じ状況に戻ってしまう。
「クソッ! ちょこまかちょこまかと逃げるとは……! 卑怯だぞッ!!」
「だから落ち着いてって。今からその対策をするから」
「対策だと……?」
「ああ、対ガネーシャ用の作戦だ」
言いながら僕は、腰から短剣……クロノダガーを取り出して笑った。
「―――だから、お前は僕を全力で守れ。僕史上最高の“呪術”を見せてやるよ」




