case.14 怒りは群れを、悲しみは愛を呼ぶ
タイトル通りです
『フハハハッ! どうした、貴様の力はこの程度なのかッ!?』
「すまないが……ッ! 僕は戦うのが苦手でね……ッ!」
言いながら僕は短剣を振るう。
別に当たらなくて良い。目的は時間稼ぎだ。
結局、ベルゼリオやレヴィーナが来ないと僕は神帝に殺されるのだから。
僕一人じゃ勝てないのが現実だ。
「“分身”ッ!」
だからこそ、対人用の逃げ技を何度も何度も使う。
一番効率がいいのはこの“分身”だ。
無数に自分の分身を生み出し、かつ消費魔力が少ない。
『―――さっきからその術ばかりだな』
「こうするしか勝ち筋が無いんだよ」
『まだ、勝ちを捉えているのか。流石は兎と言ったところか』
「兎?」
『ああ。逃げ足だけは早いくせに、戦うことの出来ない非力な生き物だ。貴様はそれによく似ている』
兎、ねぇ……。
まあ、僕は別にそう呼ばれてもいいんだけどさ。
獣っていう生き物は、やる時はやるって事をこの神は知らないのか?
僕が犬や猫を実験に使おうとして、どれだけ苦労したことか……。
普通の飼育用の動物でもこう苦労させられるのだから、当然“兎”もその中の一体と言っても問題無いだろう。
まあつまりは、だ。
「―――舐めてっと、足元掬われるぞ?」
『……ァア?』
右手に持っている短剣……クロノダガーにとある術式を施し、僕はすべての分身に命令した。
「―――“集中砲火”ッ!!」
その技の実行命令を受けて、僕の分身は一斉に動き出した。
陸から、空から、僕の分身が一気にインドラへと襲いかかる。
『ヘエッ……まだちゃんと諦めてねぇじゃんなッ!』
「―――“高速化”」
さらに僕は、分身が襲いかかっている間に、自身に“高速化”の魔法を掛け、スピードをさらに引き上げた。
そしてそのまま一気にインドラへと向かって駆け出す。
『―――全員纏めて葬ってやるよッ!! “神帝武流・爆”ッ!!!!』
インドラは先程木々を薙ぎ払うのに使った技で、周囲に爆発をもたらし、一気に僕の分身を消し飛ばした。
が、撃ち損ねた僕の分身と、僕自身が約10体程度の軍勢でインドラを斬った。
『クッ……! 少しはやるみてぇだなァッ!』
「その程度で驚かれちゃ困るな」
『ァ? お前、何を言って―――ァ……ゥ? ッグ……ァァ……!』
昂ぶったインドラが再び拳を握りしめた時、異変が起きた。
まあ、僕からしたら異変でも何でもなく狙った事なんだけど。
何が起きたか。
僕が攻撃する際に、この短剣に施した術式……“状態異常付与”の効果が発動したのだ。
“毒”、“麻痺”、“混乱”、“催眠”のどれかが奴を襲っているはずだ。
『―――神にも効く術だと……ッ? 貴様は一体、何者なのだッ!?』
「その問いに答えるのは別に構わないが、もう一対一は終わるようだぞ?」
僕は、ニヤリと笑みを浮かべながらそう言った。
この気配、そして近づく足音。
この勝負、僕の勝ちだ。
『何を言って―――』
「―――“鬼龍流奥義・百鬼夜行”ッ!!!」
刹那、無数の灯魂が異形の者の形を成して、青き炎と共にインドラを包んだ。
『ヌッ……ォ……ォ……ァッ!』
「神といえども、『龍神化』さえしてしまえばダメージは通るのだな」
そんな言葉と共に、草むらから一人の男が現れた。
それは―――
「遅かったな、ベルゼリオ」
「待たせてしまったか、すまないな」
ベルゼリオだ。
僕の読み通り、ベルゼリオが駆けつけてくれたようだ。
『チッ……そういう事か……ッ! 最初からこれを狙って逃げていたという訳だな……!』
「その通りだ。それに、僕らにはまだ仲間がいる―――」
どうやら、アイツも間に合ったようだな。
足音は無いが、気配は感じ取れる。
場所は―――インドラの背後ッ!
「―――“矢雨”ッ!!!」
再び刹那、今度はインドラの頭上上空から、魔力で出来た矢が、雨のように降り注ぎ、インドラにダメージを与えた。
『次から次へと……何が起きている……ッ!?』
「どうやら、間に合ったようね……!」
そう言って、木の上からストッ!と華麗に降り立ったのは、もちろんレヴィーナだ。
「よく逃げなかったな」
「うるさいわね、助けに来たんだから感謝なさい」
「あいよ、サンキュな」
これで、僕の読みが完全に当たったことになる。
完全なこちらの有利。
あとは一手一手、しっかりと詰めていけば……
『こんな事で、勝ったつもりになるなよ。我らはまだ、本気のほの字も出していない。小指で小石を弾く程度の力しか出していない』
「なんだと……?」
『だが、我は貴様らを少し舐めていたようだ。小指だけの力から、握り拳一つ分くらいの力を出してやろう』
そう言って、インドラはグッと力強く拳を握り、そしてこう叫んだ。
『―――おいガネーシャッ!! 何処に居るか知らんが、早くこちらへ来いッ! 来なければ、離れで戦っている天使共も、目の前の魔王軍も、我が殺してしまうぞッ!!!!』
「何を言って―――」
待て、今この神はなんと言った?
離れで戦っている天使共……?
ってことは、あのクソ天使もこの近くに居るというのか……?
そして、今コイツが呼んだのは、ガネーシャ……。
俺の記憶違いじゃなければ、ソイツも《十二神将》の一人だったはずだ。
「さて……どうするかな……」
もし《十二神将》がもう一体増えるのであれば、僕たちに勝ち目は無くなる。
そう、僕は軽く絶望しながらも、次なる策を考えるべく、頭を働かせるのだった。
■
「兄貴ッ!!」
『フハハハッ! やはり戦いは楽しいなッ!』
「……グァッ……!」
俺たちは今、絶賛ガネーシャとかいう神に圧倒されていた。
為す術なしにやられ、気づけば洞窟を出て、綺麗な森の中に吹き飛ばされていた。
「強いわね……この神!」
「ヘルでもそう思うのか……!? ってことは相当な力を……」
『悪いけど、あんまり時間も無いし、とっとと死んでくれると―――』
そこまで言いかけて、ガネーシャはピタリと止まってしまった。
と思えば、遠くの方から大きな声が聞こえてくる。
『―――来いッ! ガネーシャッ!!』
聞いたことのある声だ……確かこの声は―――
『ハァ、インドラの奴め……。良いところで邪魔しよって。まあ良い、この前私もアイツの邪魔をしたからな。痛み分けだ』
そうだ、神帝インドラ。
あのムキムキだ。
『……仕方無いか。―――お前たち、私はインドラの下へ行かせてもらう。が、すぐに戻って、必ずお前たちを殺そう。首を洗って待っているといいさ』
そう言ってガネーシャは天高く浮き上がり、そして透明になって消えてしまった。
「一体……アイツは何だったんだ。それに―――」
俺は空を見て、そしてそのまま視線を白夜と隣の美女に向けた。
「お前たちは一体……」
「―――兄貴……」
何とか口を開こうとするも、どう説明したらいいのか分からない……そんな様子で白夜はタジタジしていた。
そんな様子を見兼ねたのか、隣の美女が口を開く。
「―――私はヘル。吸血鬼神ヘル。色々合ったから、すごく込み入った話になるのだけれど、簡単に説明すると、私は彼と契約した神よ。他にも三体の神が彼の中には居るわ」
おおう、いきなり爆弾発言ですね。
俺が居ないたった一日で、何が起きたというのだ。
有り得ないだろ、この強化スピード。
「それにしても、アイツを追わなくていいの?」
「……っ、ああ。確かにそうだったな」
ヘルに言われて、ハッと我に帰る俺。
ひとまず、空に飛んでからガネーシャの向かった先、そしてインドラの居場所を探って……
『―――煩い煩い煩い煩い煩い煩いッ!!!!』
しかし、そんな思考は一瞬にして引き裂かれてしまった。
耳を劈くような、奇声とも言えるような叫び声が、近くから響いたのだ。
「……ッ……また、聞き覚えのある声だ……」
これもつい最近聞いたような……
「兄貴……!」
「ハァ、これは面倒くさいわね」
どうする?
どっちを調べる……?
「―――いいわ。聞き覚えのある声なんでしょう? なら貴方はそっちへ行きなさい。私たちはあの神を追うわ」
「……いいのか?」
「当たり前ですよ! 俺たちが兄貴を引き止める理由なんて一つも有りません……!」
「でも、白夜はさっき―――」
「―――もう、もういいですよ。俺が貴方に何を言っても、どうせ貴方は聞く耳持たないんでしょう? なら、やりたい事が全部終わって、満足したらちゃんと帰ってきてくださいよ。ルインさんやアスモフィさん達にはちゃんと説明しておきますから」
「―――ありがとう……この恩はいつか返すッ!」
俺は白夜たちの意思を受けて、すぐさま飛び立った。
声がしたのは前方。
ひとまずはそこまで飛行してみよう。
多分……あの声はミカエラだ。
そして、あの苦しいような……助けを求めているようなあの声。
何かが起きている。
すぐに助けないと、間に合わなそうな……。
「クソ……何でいっつもこんな事に巻き込まれるんだ……ッ!」
そう文句を垂れながら、俺は下を見ながら飛行をするのだった。
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