case.?-1 宿命
―――魔王の帰還。
―――俺は強くならなくちゃいけない。
「それは何故?」
―――皆を……ルインを守る力が俺には無いから。
「守る力? 君は“魔王”じゃないの? だったらそんな力より“壊す力”の方がいいんじゃないか?」
―――壊す……力?
「ああそうだ。“魔王”って、“悪の親玉”だろう? だったら守る力なんてあっても意味が無いだろう?」
―――俺が、悪の親玉……?
「全部壊しちゃいなよ。そうすれば、きっと君は楽になれるはずだ」
―――全部、壊す……?
「そ、友達や仲間も、家族も敵も、何もかもを壊しなよ」
―――友達……仲間……家族……敵……全てを……?
「君にも居るんでしょ? 大切な人たちが。その人たちも、ぜーんぶ壊すんだよ」
―――大切な……人。
『―――主様!』
刹那、俺の脳内には一人の女性の顔が浮かんだ。
俺の、とてもとても大切な人。
「―――俺は」
その人の事を考えると、自然と落ち着く。
「俺は、“壊す力”なんて要らない」
「どうして?」
「それは―――」
その人が居れば、俺はもっと強くなれる。
「それは、俺が“魔王”だから」
「でも、魔王は」
「―――魔王だから、だ」
そうだ。
俺は『魔』を統べる『王』なんだ。
統べると言っておいて、全てを壊すだなんて、矛盾もいいところじゃないか。
「俺が、魔王だから。魔王だからこそ“守る力”が欲しいんだ」
「ふぅん……。そうか、だから君は―――」
物憂い様子で、その声は途切れた。
そこで、俺の意識は目覚めた。
■
俺は寝ていた体を起こし、若干の気怠さと、猛烈な脱力感に襲われながらも、周囲の、現在の状況を確認しようとした。
確か俺は、あの“魔王会議”のすぐあと、力を……皆を守る力を得るために一人になろうとして、それで夜逃げみたいに一人で遠くまで逃げて……
大丈夫、それはちゃんと覚えてる。
まだ、今日の話だもんな。
さて、今……俺は何処にいるんだ……?
確か、《死国ディブリビアゼ》を目指して無我夢中に走ってた気がするが……。
(でも、明らかに室内だよなぁ……ここ)
周囲を見回すと、何やら薄気味悪く、かつ薄暗い部屋だということが分かる。
だが、俺はこんな部屋に来た覚えは全くもって無い。
つまり、俺じゃない、他の誰か……または他の“何か”に、この部屋へと連れ込まれたことになる。
と、ここまで考察したところで、部屋の扉がガチャッ!と勢いよく開いた。
俺は即座に戦闘態勢を取るが、それは杞憂に終わった。
「―――あぁ、起きたんだ。おはよ、魔王様」
その人物は、小柄な体型をしていて、全身を黒いローブで包んでいた。
だから、顔すら見えなかったのだが……
―――この声には聞き覚えがあった。
それも昔のことじゃない。
ついさっきだ。
と、いうことは……
「さっきの、謎の声……」
「ピンポーン。正解〜」
気怠そうに手を振るローブの人物。
ちなみにその声は、男性の物なのか女性の物なのか分からないくらい中性的な声質をしていた。
「僕の名前はルヴェルフェ。魔王に仕えてる《魔帝八皇》、その内の【怠惰】を司る小人族のルヴェルフェだ。よろしくね、魔王様」
そう言いながらフードを取ると、そこからは美少年が現れた。
と、いうか、今なんて……
「ルヴェルフェ……だって?」
「うん。いかにも僕はルヴェルフェだ」
まさか、こんなところで会えるなんて。
そう、そうなのだ。
俺がディブリビアゼを目指していた理由。
それが、まさしく今目の前にいる少年、魔帝八皇のルヴェルフェを探すことだったのだ。
「それで、一つ聞かせてほしい」
「うん、いいよ」
「俺はどうして、ここに……お前の所に居るんだ?」
「……まあ、それくらいなら教えてもいいか。どうせこれから僕も“支配”されるだろうからな」
……うん?
少し渋るってことは、何かやましい事でもあるのか……?
でも教えてくれるみたいだが……
「うん。よし、教えてあげるよ。いい? 君がここに居るのは―――僕がそうなるように“呪術”を使って仕組んだからさ」
「呪術で……仕組んだ?」
「そ。僕、これでも“呪術師”としては神にも匹敵するレベルの実力があると自負しているからね」
それ、自分で言っちゃうのか。
だがまあ、もし本当に呪術とやらで俺がここに来るように仕組んだのなら、相当すごい事だと思うけどな。
「まだ、信じることは出来ないが……ともかく、俺を助けてくれてありがとう」
「助けたつもりは無いんだけどね? むしろ僕の方こそ、一人で出歩いててくれてありがとうって感じだよ」
「え……? ……あの、一つ聞いてもいいか?」
「また? まぁ別にいいけどさ」
「それじゃあ聞くが、俺をここに来るように仕向けた理由は何だ?」
俺がここに居る理由は分かった。
だが、何故居るのかは分からない。
「あぁ、なんだ。そういうことか。それなら答えは二つある。けど一つは単純な理由だ。それはね……―――僕を君の魔王軍に入れてほしいのさ」
「……むしろ、その言葉は俺から言うべきなのかもしれないな。まあ、うん。―――ルヴェルフェ、お前も今日から魔王軍のメンバーだ」
「フフ、ありがとうね、魔王様」
「いいや、こちらこそありがとう、だ。それで? もう一つの理由ってのは何なんだ?」
ルヴェルフェが仲間になるという、まさに願ったり叶ったりな出来事が起きた喜びもつかの間、俺はすぐに二つ目の理由について聞いてみた。
しかし、その問いにルヴェルフェは答えず、別の事を話し始めたのだ。
「―――ところでさ、今僕たちが居るところが何処か分かるか?」
「…………え……? 俺たちが、今居る場所?」
「そ。外に出てみてもいいよ」
外に……?
そう、俺は言われるがまま部屋の扉を開けて、外へ出た。
すると、そこは―――
「ここは……知らない世界でした……」
「ん……あぁ、そっか。君、ここに来たのは初めてか。じゃあ教えて上げるよ。ここは、《死国ディブリビアゼ》。その中の、とある一角にある小さな捨て小屋。それが今の僕たちの居場所さ」
「ここが、ディブリビアゼ……」
俺が、目指していた場所か。
そして、その国内の一角……捨て小屋、か。
しかし、ここは―――
「驚くくらい周りに何も無いな」
「そうなんだよね。ここ、ディブリビアゼの中でも開拓されてない、言うなればスラム街みたいな所だからさ。まだ平地の所が多いんだよね」
見渡す限りの枯れ草で、特にこれといって特別な何かがある訳でもなく、近くに一般的な住居は見えなかった。
「ルヴェルフェは、どうしてこんな辺鄙な所に?」
「え……? あぁ、それは―――」
あぁ、そういえば二つ目の理由もまだ聞いてなかったな。
なんて、思ったその時だった。
「―――さっきの話に戻るよ」
「え? あ、ああ」
突然、ルヴェルフェは険しい顔つきになって、真剣な口調で話し始めた。
「―――僕が君を呼んだ理由。その二つ目は…………神の撃退の為だよ」
「神の、撃退……?」
「そう。そして、それが今さっき君が聞いてきた、僕がどうしてこんな辺鄙な場所に居るのかっていう疑問の答えに繋がってくるのさ」
神……神……。
神の、撃退……?
何か、とてつもなく嫌な予感がするんだが……。
▶お前の事を狙う神っつったら、まあ可能性は一つしかないよな。
やっぱり、そうなのか?
「―――今回の敵は、《十二神将》が最強の一角。“神帝インドラ”だ」
▶ほう、インドラか。確かにヤツは最強の一角と言っても過言では無いな。
やっぱり、十二神将かよ……。
強くなる為に一人で出てたのに、早速敵はボスから始まるとか、俺の人生やっぱりハードモード過ぎないか?
「というかだ。どうしてそのインドラとやらがお前の所へ来る? あと、どうしてそれが分かった?」
「前者は簡単だ。僕が神様にちょっとだけちょっかい出したら、怒ったんだよ。だから、僕は狙われてるのさ」
「は、はぁ……?」
一体何をしたんだコイツは。
誰も見てないところで、ひっそりと……神様にちょっかいを出した……とか。
「それで、後者だけど。それは僕の“呪術”の力だ。君は“占星術”って知ってる?」
「聞いたことはあるが」
「それで、分かっちゃったんだよね。まあ詳しい話をすると、“呪術”と“占術”は全くの別物なんだけど」
俺は、こういう呪いごとに疎いから、正直よく分からないが、本人が言うのならそうなのだろう。
多分。
「で、そのインドラはいつここに来るんだ?」
「ああ、それは―――」
▶この……気配は……。まさかッ!
は?
お、おい。待てよ。
ハヌマーン、まさかお前……
「―――今だよ」
▶どうやら、お出ましみたいだぜ。“神帝インドラ”の降臨だ―――
嘘……だろ。
『―――全員、殺す。特にそこの小人族よ。貴様だけは、我のプライドにかけて、絶対にただじゃ死なせないからなッ!!!』
そこに現れたのは、上裸で、褐色肌で、筋肉バッキバキで、金色の髪に金色の瞳という、かなり特殊な見た目の人物……いや、神が居た。
「お前が……神帝、インドラ……?」
『いかにも。我が神帝インドラであるッ! アダム様の命により、魔王とその仲間の殲滅を実行しに来た者であるッ!!』
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明日も16時更新予定!




