case.26 本丸
「クッ……流石にこれは……っ!」
「フッ。ラグエル……貴様はよくここまで耐え抜いた。だが、もう限界だろう? 最終奇跡まで使ったんだ」
「うっさいわね、ルシファー……ッ! 私はまだ諦めないわよ……?」
ラグエルは、ルシファーを睨みつけた。
その様子から、戦況が厳しい物であることを悟らせる。
「しかしこの状況だ。我らが軽く本気を出せば、貴様のその【忍耐】の力も、我の【傲慢】の力には勝てまい」
「どうかしらね……。やってみなきゃ分からないでしょ?」
「フン、その威勢も一体いつまで続くかな?」
ラグエルは唇を噛んだ。
確かにラグエルは粋がっている。
目の前にはルシファーだけでなく、バラキエルやフラウロス、メフィストフェレスと言った4体の敵が居る。
それを、“最終奇跡”を行使して、どうにか耐えきっているが、それももう限界に近い。
どうにかして、この戦況を変える手立てを考えなければ、このまま死ぬだろう。
「なぁラグエルよ。早く諦めてくれないか? そうすれば、お互いに幸せだろう?」
「嫌よルシファー。私は、絶対に諦めないわ」
「フン、強情な。ならば、徹底的に潰すまでだ。やれ、お前たち―――」
ルシファーは手を振りかざした。
それを見たバラキエルたちは、「ハッ」と頷き、そしてラグエルへと向かって飛んでいく。
「クッ……何か……何か考えないと……ッ!」
「ヒャッハァァァァッ! もう無駄だよォッ!? オマエはこれから死ぬんだッ!」
フラウロスが一番先頭に躍り出た。
手には“破壊”の魔力が込められていく。
「クッ……“多重障壁”……ッ!」
ラグエルは咄嗟に魔力障壁を何重かに展開するが、それも無駄な足掻きだと悟る。
フラウロスの“破壊”の魔力は、全てを破壊し尽くす、文字通り“破壊”の力。
こんな障壁など、彼にとっては紙ペラ同然の物だろう。
「ここまでかしらね……」
「そう、それでいいッ! オマエはそこで大人しく死ねば―――」
ラグエルが、死を覚悟した、そんな瞬間。
―――再び奇跡は起こった。
「―――“飛竜剣”ッ!!!」
その声が聞こえた直後、フラウロスはラグエルの前から消えていた。
そして、代わりに目の前に居たのは。
「白夜……」
「ッス! サタール様の命令で、助けに参上しました!」
勇者、皇白夜だった。
■
よし……なんとか間に合ったな……。
良かった、ギリギリ間に合って……。
「ラグエルさん、無事ですか?」
「な、なんとかね……」
「そうですか、それは良かった! それで……今の戦況は?」
「見ての通り、向こうが4体居て、さらには魔人兵たちまで地面で構えてるから……まあ言わずもがな私たちの圧倒的不利ね……」
ラグエルさんは、自らに治癒魔法を掛けながらそう言う。
確かに、この状況は不利だろう。
誰が見ても、そんなことは分かる。
さて、そうなると今からこの状況を逆転させなきゃいけないわけだ。
サタールさんたちは多分すぐ来る。
そこまで距離は無いからな。
下にいる魔人兵たちの存在を加味しても、五分は超えないだろう。
つまり、五分耐えれば、
―――勝機はあるってことね。
そう言う事だ。
「ラグエルさん、あと五分。五分でサタールさんたちがここに来ます」
「五分……」
「それまでの間、戦えますか?」
「良いわよ、やってやるわよ……五分程度、保たせてみせるわ……!」
よし……まだ元気はありそうだ。
それなら……!
「あんまり、無理はしないでください。メインは俺が戦いますから」
「わかったわ。ありがとね」
「いえ、そんなに気にしないでください」
そう言いながら、俺は二本の魔剣を構えた。
もちろん、見据える先は敵の本丸ルシファーだ。
「フン……余計な邪魔をしてくれたな、勇者よ」
「じゃないとラグエルさんが死んじまうからな」
「……チッ。どいつもこいつも……ッ!」
ルシファーは、俺と、そして地面の方を見ながら舌打ちをした。
俺もそれにつられて地面を見ると、そこではサタールさんやマノンさんが暴れていた。
「もう、到着したのか……!」
「クソがッ……! おい、メフィストフェレス、フラウロス。貴様らは下の奴らを殺せ。手加減無用だ」
そう言うと、メフィストフェレスと、いつの間にか戻ってきていたフラウロスは頷き、地面へと向かって行く。
「貴様らは、我とバラキエルで相手をしよう」
「望むところだ……!」
残ったルシファーとバラキエルが、俺とラグエルさんを見ながら笑った。
「さぁて、ラグエルさんや。俺もそろそろ本気出そうと思うが、いいか?」
「バラキエル……貴方まだ本気出してなかったの……!?」
「ああ。だって退屈なんだもん。お前やベルゼブブとの戦いは」
呆れたように溜め息を付きながらそう言うバラキエル。
その表情からは、かなりの余裕が見られた。
ラグエルさんの疲弊に対して、バラキエルは全く疲れた様子はなく、むしろ力が有り余っているような感じだ。
「ラグエルさん、やっぱり貴女は少し休んでいて下さい」
「え? いきなりどうしたのよ……?」
「貴女には、俺たちの回復をお願いしたいんです。だから、前線には出ずに、後衛で補助をしていただけるとありがたいのですが……」
「でも、そうしたら貴方が一人で戦うことになるわよ? それは、大丈夫なのかしら?」
「はい。問題ありません。だって俺には―――」
言いながら俺はレーヴァテインを宙へと投げた。
さあ、ヘル。お前の出番が早速来たみたいだぞ?
―――あら、もう良いの? なら、お言葉に甘えて、暴れちゃおうかしら……!
「―――ああ。存分に暴れよう」
「……?」
ラグエルさんは俺のその行動と台詞に首を傾げていた。
さらに、それを見ていたルシファーとバラキエルも、息を呑んでその様子を見ていた。
「さあ、顕現せよッ!」
そう俺が叫ぶと、俺の周囲には青いオーラを纏った冷気が現れた。
そしてそれは、俺の左手に集まり、一つの魔力の塊を形成していく。
さらに丁度その時、俺が投げたレーヴァテインが戻ってきた。
そこへ、左手の魔力弾を打ち放つ。
俺の手から放たれた冷気の魔力弾は、レーヴァテインへと当たり、さらにその冷気を増していく。
「何を……している……!?」
レーヴァテインの周りは、冷気で霧のように視界をボヤけさせていく。
そして、一つの人影がチラついていた。
「―――フフフ……フフフッ!」
「さあ、始めようぜ?」
俺は、その人影に向かってそう言った。
「一体、何が……?」
後ろでラグエルさんがそう呟くなか、霧は晴れていった。
そして、そこに居たのは……
「―――“吸血鬼神ヘル”、今ここに参上よ!」
もちろん、ヘルだ。
ヘルは、レーヴァテインを依代とすることで俺の中から外へと出ることが出来る。
そして、俺はそれを俺の意志で操れるようにヘルを説得した。
「吸血鬼神……だと!?」
「はぁい、ルシファー。この姿で会うのは初めてかしらね」
「あっ……ああ。以前のあの、鎧いを着込んでいた姿からは想像もつかないが……まさか本当に……!?」
「そうよ、私があのヘル。ああ、そうか……こほん。―――おい、貴様。我に向かって何たる口調か。我は偉大なるカイザーなるぞ?」
一つ咳払いをして、カイザーだった頃の喋り方でルシファーに語りかけたヘル。
それを聞いて、ルシファーはさらに驚いた顔になる。
「まさか……まさか……あの棺から……ッ!?」
「そう。あの永遠の棺から出てきたのよ。勇者の力を使ってね」
「勇者の……力……ッ!? クソがッ……何処までも忌々しい力だ……ッ!」
「あらあら、そんなに驚かないで? だって、今からもっと驚くことになるんだから……!」
そう言ってレーヴァテインを人振りすると、ヘルはルシファー目掛けて一直線に飛んでいった。
そうか、ヘルがルシファーの相手をするのか……なら!
「俺はバラキエルと……ってことか!」
「俺の相手は勇者か……! いいねぇ……面白そうだッ!」
よし、上手く分かれたな……!
あとは負けなければいいだけ。
簡単な話だッ!
「行くぜグラムッ! “鬼神炎渦”ッ!!!」
俺は早速手から炎を放射した。
さあ、これはどう対処する?
見物だ……!
「これは……当たったらマズイかもねッ!」
そう言いながらバラキエルは左右に飛んで俺の炎を匠に躱していく。
そして隙を見ては、こちらへと距離を詰めてくる。
そこで俺は一旦距離を取りながら、グラムを納刀した。
それを見たバラキエルは、進行を止める。
俺も後退をやめ、両手を広げながらこう言い放った。
「まだまだ……俺には隠し玉が存在するからな……! バラキエル……覚悟しな!」
「フッ……フフフ……良いよ……来なよッ! 全力で撃ち落としてやるからさッ!!!」
さあ、ここからが俺の新たな力の見せ所だ……!
お前たち、頼むぞ……ッ!
―――まずは俺からだ……ッ!!!
「―――炎神……解放ッ!!!」
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