case.24 肉体の所有権
神様ゲシュタルト崩壊しそう
―――起きろ。起きろ勇者よ。
誰かが、俺を呼んでいる?
―――起きねぇならまた殺すぞ?
“また”……?
ああそうか。俺はヘルに殺されて……
―――彼女もなかなかのスパルタですね。我々を呼ぶために、こんな酷い事をするなんて。
我々を呼ぶため?
そういえば……お前たちは一体―――
「―――ッッ……!」
そこで、俺の意識は完全に覚醒した。
「あ、やっと起きたのね。結構時間掛かったけど、成功したかしら」
「せ……いこう?」
うう、まだ頭が少しクラクラする。
とても、考え事なんてできそうにないが……
「うーん……まだ理解が追いついてないかしらね」
「あ……あ」
大丈夫だ、声は出る。
身体に痛みは感じない。
ただ、何というか貧血気味というか……。
とにかく、身体にできた傷から流れ出た血が……ってあれ?
「傷が…………無い」
「ああ、そんなのとっくに回復してるわよ」
「どうして……?」
「まあ、神の回復力はわりかし異常だからね」
「神……?」
ああ、そういえばさっきの……あの謎の声は……?
「そう、神。貴方は、名実ともに“神”となったの。分かる? 貴方の内には、きっと今頃二人か三人の神様が居るはずよ」
「え……? …………って。え???」
俺の中に、神様が?
いや……流石にそんな事言われちゃ目が覚めちまうってもんだ。
「おーい、聞こえてるかしらー。私よー、ヘルよー。おーい、プロメテウスー。タナトスー。ヌアザー。居るでしょー?」
そうやって、俺の胸の辺りに声を掛けるヘル。
もしかして……コレがヘルの狙い……。
となれば、俺が殺されても目覚めることができた理由は……
―――フフ……その通りだ。
―――俺らがお前の肉体に憑依してる以上は!
―――我々が貴方を死なせませんよ。
「うわっ……!」
「あら、やっぱり居るのね。それも三人も」
どうやらこの声はヘルにも聞こえているようだった。
それにしてもコイツらは一体……?
―――我は死神タナトス。
―――俺は炎神プロメテウス!
―――私は水氷神ヌアザ。
「タナトス……プロメテウス……ヌアザ……。全員、神様なのか……?」
「そう。貴方の勇者の力と、その身に宿る神の力の適性、そして私の助力あって、コイツらは貴方の肉体を依代として、この下界に現界したって訳」
「な……るほど?」
これは、後で詳しい話を聞くとしよう。
今聞くと、また倒れてしまいそうだ。
「まあ、細かい話とか、自己紹介とかは戦いが終わってからにしましょう?」
「そ、そうしてもらえると助かる……。まだイマイチ状況が掴めてなくてな」
「そりゃそうでしょうね。だっていきなり私に殺されて、目が覚めたと思ったらいきなり私に、貴方の中には神が三人居るはずなんて言われてるんだから。……ってこれじゃ私が悪い奴みたいじゃないか!」
いや、そこそこ悪いぞ……お前。
なんてツッコミは口には出さず、俺は思うがまま、従うままに動くことにした。
「とりあえずこれ、返しておくわね」
そう言ってヘルは魔剣グラムを手渡してきた。
俺はそれを受け取りながら、お礼を言う。
「ありがとう」
「お礼はいいわ。それよりもそろそろあのバケモノと決着をつけましょ。もう飽きたわ」
「そ、そうだな」
もう、結構時間は立っている。
そろそろ睡魔に襲われそうで怖い時間帯のはずだ。
―――今は……早朝、刻限にしてもうまもなく四時といったところか。
「その声は……タナトスか。ってか、そんなに経ってるのかよ!」
俺は思わず口に出してツッコミをしてしまったが、慌ててハッと頭を抑えた。
「うーいたたた……」
まだ貧血気味の頭が興奮するのは、良くない。
しばらくは安静にしてないと……か。
「白夜。そんな状態で戦えるの?」
「ま、まあアルカナ程度ならなんとか……」
「まだ、敵は居るのに?」
「それはそうだが……」
そんなこと言われたってどうしようもない。
俺が戦わないといけないのに。
他に代わりに戦ってくれる人はいるのか?
てか、そういえばまだベルゼリオさんやサタンさんのチームが帰ってきてないな……。
まさか、何かあったのかな。
「まあ、それならそれでいいわ。でも、健康管理だけは自分でちゃんとしなさいよ」
「オーケー」
俺は頷いた。
そして剣を構えて、アルカナの方を向く。
「あれ……アルカナは?」
「今は影に隠れてるわよ。『気配感知』のスキルに引っかからないの?」
「ちょっと待ってくれ……」
そう言いながら俺はスキル『気配感知』を使用した。
しかし、近くにはそんな反応が一切無かった。
「貴方でも駄目か……じゃ……」
そう言ってヘルは俺に背を向けて、そしてその状態のまま言った。
「―――貴方の身体の所有権を、少し神様たちに貸してあげて?」
俺の身体の所有権を……?
えっと……つまり……どういう……って……ああもう! 考えるのもまどろっこしい!
もうええわ! 何でもくれてやる!
「分かった! いいぞ! 存分に使ってくれたまえ!」
―――相分かった。それではまず我が。
その声が聞こえた直後、気づけば俺の身体は勝手に動いていた。
「ほお……久々の肉体……久々の下界じゃ……! ホホ……何とも昂ぶるではないか……!」
どうやら、もう既に俺の身体乗っ取られたみたいだ。
視界は良好、だが身体が俺の意志で動かせない。
「して、我は何をすればいいんだ、ヘルよ」
「あら、タナトスね。それじゃあ早速お願いするわ」
「良いぞ。言え」
「ええ。私、さっきうっかりしちゃって……アルカナを逃してしまったのよ」
「ホホ……アルカナとな。懐かしい名だ」
「それで、そのアルカナの気配はするんだけど、具体的にどこに居るかが分からないのよ。だから、貴方にはそれを見つけてもらいたいの」
「ほう……それなら簡単だぞ」
「え……?」
「だって、今……お前の後ろに―――」
ヘルの……後ろ?
俺には何も見えないが……。
しかし、ヘルは何かを感づいたようで、レーヴァテインを後ろへ振るった。
すると―――
「グラァァァッ! クソがッ! 何で当たらないのッ!」
……マジかよ。
本当に出てきやがった。
―――よしオッサン。次は俺だッ!
「もう、か? ……まあ致し方無いな。いいだろう」
この声は、えっと、プロメテウスだっけか?
「おう、俺はプロメテウスだッ!」
「次はプロメテウスね。じゃあ、貴方には……」
「うるせぇヘルッ! 俺はテメェの指図は受けねェよッ!!!」
そう言うと俺は駆け出した。
「ヘヘッ、グラムか! いいねェ……ちょうどいいや!」
「何よ……何よアンタッ!!!」
アルカナは、激昂した様子で闇の鎌を生み出し、そしてそれを構えた。
しかしプロメテウスは臆することなく突進していく。
「俺の仕事はコイツをダウンさせることだッ! あとはヌアザに任せるぜッ!」
そう言うと、プロメテウスはグラムに炎を宿していく。
「―――滾れ滾れ滾れッ!!! 燃え盛る情熱! 目指すは太陽ッ! 俺の名は、プロメテウスなりッ!!!!」
「プ……プロメテウスッ!? 貴方勇者じゃないの……!?」
「へっ、憐れな死神さんよ! 今の俺は勇者だが、勇者じゃねぇんだわ! まあ、細けえことは大人しくなってから話してやるよッ!」
俺が俺じゃないというプロメテウスの発言に、いよいよアルカナまでもが混乱し始める状況でも、プロメテウスは容赦なく剣を叩き込んだ。
「―――“プロメテウス・サンシャイン”ッ!!」
すると、剣に込められた炎が一気に解き放たれ、それが爆発を巻き起こした。
「キャァァァァァァァッ!」
―――おい、プロメテウス。あとは私がやるぞ。
「あいよーっと!」
そうプロメテウスが気怠そうに答えると、さらに俺の動きが変わる。
今度はプロメテウスの時のような荒っぽさが無い。
つまり、残った神様が俺の身体を使っている訳だが。
ということは……
「私だ。水氷神ヌアザ。気軽にヌアザと呼び捨てにしてくれ」
お、おう……。
神様を呼び捨てに……か。
よくよく考えると結構不敬だよな。
「ふふっ、気にするな。それで、あの死神はどういう処遇にするのだ?」
あ、えっと……殺さず捕らえてくれると助かる。
「なるほど、了解した。それでは任務を執行する」
そう言って、俺は華麗に駆け出した。
「クッ……うぅ……一体……何なのよ……ッ!」
そこでアルカナが起き上がり、またも闇の鎌を両手に生み出し、そしてヌアザを迎え撃つ体制に。
しかし。
「―――えっ……?」
「これにて、任務完了……です」
気づいたときには全てが終わっていた。
何が起きたのか。
アルカナの背中には水の槍が刺さっていた。
そしてヌアザもアルカナの背後にいた。
つまり……どういうことだ?
「転移魔法……のような物ですね」
そうヌアザは言った。
「しっかし……相変わらずの手際の良さね。私ですら何が起きたか分からなかったわよ」
「フフ。そんなに褒めないでください。照れてしまいます。さて、私はそろそろ戻りますね」
そう言うと、身体に重みが生まれる。
まさか、もう所有権帰ってきた?
俺はそれを確かめるべく手足を動かしてみた。
すると、俺の思い通りに手足は動いた。
どうやらもう身体の所有権は帰ってきたようだ。
「まあ……もう全部終わってるんだけどな……」
俺は、倒れたアルカナを見ながら、そう呟いた。
―――頭のクラクラはもう、無くなっていた。
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