case.22 バケモノ
今週もまた頑張りましょう!
「チッ……武器がないんじゃ……」
「ハハン、貴方の神器とやらも大したことないわね」
「なんだと……おい貴様ッ! あんまり調子に乗るなよ……」
エレボスのその言葉は、俺に言ってるのかアルカナに言っているのか。
まあ多分後者だろうが、俺にも言っているように聞こえた。
それにしても、だ。
一体何がどうなっているのか……。
咄嗟の判断でエレボスの攻撃を受け流しただけな訳だが、たったそれだけの行動で、エレボスの大剣はポッキリと折れてしまった。
折ったのは間違いなく俺だろう。
それは分かる。
だが、その原理が分からない。
一体何の力が働いたというのだ。
―――まあ、考えなくても答えは一つでしょうね。
そう、俺の中のヘルは言った。
実は、かく言う俺も一つだけ、十中八九これしか無いだろうという答えが思い浮かんでいた。
―――『スキル』。
まあそういうことなのだろう。
『神力』『神速』『神威』辺りが、可能性として思い当たる。
―――『神力』と『神速』は、どっちも神を凌駕するパワーとスピードを発揮するスキルね。対して『神威』は、全能力を一時的に神クラス……いえ、神以上の力を引き出すスキルね。これは確か、双神の配下たる《十二神将》が持つスキルなのだと思うけど……。
解説ありがとう、ヘル。
まあ、最後のに関しては、俺にも全く分からないから……。
気づいたらスキルは持っていた、という何とも奇々怪々な話だ。
他にもスキルはあるけど、もしかしてヘル……全部解説できたりするか?
―――ええ、まあ。私、喧嘩と読書が趣味だったから……そういう経験から、ありとあらゆるスキルの効果と名前を把握していると思うわ。
お、なら任せてもいいか?
このあとの戦いで試してみたいんだが。
―――まあ、いいけど……戦いながらの方がいいんじゃない?
え?どうして……って―――
「不意打ちかよッ!!」
俺はそう叫びながら、背後から忍び寄ってきていたアルカナを再び右手のグラムで牽制した。
と思って剣を凪いだら、なんとアルカナの持つ闇の鎌に当たったようで、またもやその武器はポッキリと折れてしまった。
「チッ……不意打ちは聞かない……か!」
「アルカナ! もうコイツに小細工は通用しないッ!」
「だったらどうするのよっ!」
「もう……パワーとスピードで真っ向から立ち向かう他あるまい……!」
そう言いながらエレボスは駆け出す。
「ああもう! わかったわよッ! やるだけやってやるわよッ!!」
そう言って、アルカナもこちらへ向かって飛んでくる。
クソ、しょうがないな。
スキルは適当に使って感触を試してみるとする。
多分、文字通りの意味で使えるはずだよな?
―――まあ、基本的にはね。
よし、それなら。
「―――『飛翔』ッ!!」
俺は思うがままにそう叫んだ。
このスキルが文字通りの意味であれば、空に浮かべるはず……っと!
そう思っていると、やはり狙い通り俺の身体は宙へ浮き、自由自在に空を駆けることができた。
「なっ……空を……ッ!」
「墜とすわ、エレボス! 協力なさいッ!」
「っ……あ、ああ!」
二人は、炎や闇の属性魔力弾を何発も乱射してくるが、俺はそれを、肩慣らし運転ついでに躱していた。
「チッ……ちょこまかと……!」
「ヘッ、今度はこっちの番だ……!」
「エレボス、あとは頼んだわよッ!」
俺が不敵に笑うと、ただそれだけでアルカナは消えてしまった。
「逃がすかよ……ッ!」
だが、俺はすかさず『気配感知』のスキルを使い、アルカナの位置を特定する。
「そこだ……っ! ―――“氷塊”ッ!!!」
そう言うと、文字通り“氷塊”が空から降ってきて、透明になって消えていたアルカナに直撃した。
「きゃぁぁぁっ!」
「フッ、勝手に逃げようとするから痛い目にあうのだ!」
「うっ……痛っ……」
さらに俺は、そんなモメている二人に追撃を加える。
二人はそんな俺に気づくが、
「―――マズ……」
「―――遅い。燃え盛れ……“鬼神炎渦”ッ!」
そう唱えると、俺の手からはあの時と同じ、地獄のような熱さの炎が放出される。
狙いはもちろん、エレボスとアルカナだ。
「チッ……避けられない―――」
そんな言葉が聞こえた直後、二人は炎によって包まれた。
さらに、俺は容赦なく追撃をかます。
「―――“絶凍氷撃”ッ!!!」
突然思い浮かんだ技だが、マジで氷が関わっていれば何でもできるんだな……。
『絶対零度』。
恐ろしいスキルだ。
ちなみに、何が起きたかと言うと。
「クッ……動けないッ!?」
エレボスとアルカナの足を凍らせた。
そうして身動きがとれない二人のもとへ、“鬼神炎渦”と同じように、氷の力が襲いかかる。
「クッ……うぅ……」
「さ……む―――」
二人は氷点下の寒さに耐えていた。
そんな状況で、俺の中の鬼は言う。
―――レーヴァテインを使いなさい。レーヴァテインの、氷の力が奴らの骨の髄まで凍らせるわよ。
「了解……ッ!」
俺はその言葉に従い、エレボスとアルカナへ剣を向けた。
すると。
―――今よ……憑依解除ッ!!!
突然、俺の中から何かが抜け落ちる感覚がして、左手に握られたレーヴァテイン・改も、ひとりでに動き出し始めた。
そして、そのレーヴァテイン・改のもとに冷気が集まると、それはやがて人の形を形成していった。
ああ、これは―――
「ヘル……お前」
「アハハッ! やったわよ白夜っ!」
目の前には、ヘルがいた。
俺が死んだあとの、あの謎の空間に居た、あのヘルだ。
俺の持っていたレーヴァテイン・改を持って、佇んでいた。
「どう……やったんだ?」
「簡単な話よ。レーヴァテインを私の依代としたのよ。そうしてレーヴァテインに込められた力を頼りに、私がこうして現界したという訳」
「なるほどな……って納得できるのもおかしい気がするが……」
もう俺の感覚は麻痺していた。
「ひとまず……細かいことは気にしないで」
「まあ、うん。分かったよ……」
「さて、それじゃあ! 吸血鬼神のコラボレーションと行きますか!」
「うーん……あ、ああ」
渋々返事をした俺は、右手の魔剣グラムを構え直した。
「さぁて、エレボス? お久しぶりね」
「貴様……やはり!」
「えぇ……っと、こほん。おい、貴様。まだ性懲りもなく人を虐めて楽しんでいるのか?」
「やはり……カイザー……ッ!」
エレボスは、ヘルの正体に気づいた様子で、そう驚いたように声をあげた。
さらにアルカナまでもが、
「え? カイザーって……まさか? あの?」
と、不思議そうにキョロキョロとしていた。
「そう、何を隠そうこの私こそが、吸血鬼神ヴァン・プル・カイザーこと、ヘルよ!」
「カイザー……貴様ァァァァッ!」
ヘルが名乗りを上げると、エレボスは突然怒って突っかかってきた。
「ヘルっ!」
「大丈夫。私は、氷の神であり……吸血鬼の神なんだから」
そう言って、ヘルは着込んでいた鎧を脱ぎ捨てた。
真っ黒い、重厚な鎧はガシャッという音を立てながら地面に落ち、そしてその中からは、艷やかな肢体と豊満な胸、そしてセクシーな黒い衣装に見を包む、ヘルが居た。
彼女は、自身の周囲に冷気を呼び寄せ、そしてその手に持つレーヴァテイン・改を青く輝かせながら、エレボスへ向かって、
「―――“凍えなさい”」
そう一言。
それだけで、エレボスは立ち止まった。
「―――ァ」
いや、正確には。
全身が凍りついた。
だから動けなかった。
「今よ、白夜。グラムで、その憤怒の炎で焼き斬りなさい!」
俺はヘルにそう言われて、言われるがまま駆け出した。
グラムは真っ赤に輝いた。
憤怒の炎……まあ、とにかく炎で斬ればいいんだよな?
「っし……行くぜぇッ!?」
俺は走りながら、“鬼神炎渦”を放ち、剣に宿していく。
剣は真っ赤に輝くだけでなく、炎によってさらにその赤さを増していく。
そして、やがてエレボスの前に辿り着くと、
「―――“斬断”ッ!!!」
無慈悲にも、その魔剣を振るった。
氷点下に凍りついた氷塊が、急に高熱の打撃が与えられるとどうなるか。
その答えは単純明快だ。
―――粉々に砕け散る。
「エレボス……ッ!」
粉々に砕け散ったエレボス……その破片に駆け寄るアルカナ。
だが、アルカナは悲しむかと思いきや、意外な反応を見せた。
「―――あ〜あ。だからやめとけって言ったのに。でも……腐ってもコイツは元冥王。その魂となれば……さぞ美味しくて……」
恍惚とした表情でそこまで言い、そして―――
「強くなれるんでしょうねッッッ!!!」
そう言って、アルカナはエレボスの破片から魂のような物を抜き取り、そしてそれを勢いよく口にした。
「―――アハハ……アハハッ! アハ―――ァグッ……ッぅァ……ァァ……ァァァァッ!」
しばらく狂気的に笑っていたが、今度はアルカナの身体に突然変異が起きた。
「ウッ……」
アルカナの身体は、所々が盛り上がり、と思えば凹んだり。
とにかく、文字通り“バケモノ”のようになっていく。
そんな様子に、俺は少し吐き気を催した。
「―――アァ……コレネェ……コレガァ……ワタシノ真ノチカラッ! アァ……イイワァ……!」
やがて、その変異は終わりを迎え、そこに立っていたのは、先程までの美人な死神などではなく。
「マジで……“バケモノ”じゃんか」
そう。
そこに居たのは、エレボスのあの筋骨隆々とした肉体を無理矢理取り込んだと思われる、歪な体型の女性がいたのだ。
それこそが、俺の言う“バケモノ”であり、今から戦う相手なのだ。
「白夜、気を抜かないで。奴は即席とはいえ、曲がりなりにも元冥王と死神のタッグよ。だったらこっちも対抗しなきゃ……ね」
隣に立つヘルは、ニヤリと笑いながら、目の前に魔剣レーヴァテイン・改を突き出した。
「さあ、ここからが吸血鬼神たる我々の力の見せ所だぞっ! 行こうか、白夜ッ!!!」
その言葉に、俺は魔剣グラムを突き出し、応える。
「ああ。そろそろ終わらせようか―――」
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