case.16 【覚醒2nd】彼女が望んだ世界
―――絶望
「ッ……!? 突然……雰囲気が……ッ!?」
「何……何よッ! 何が起きたの……?!」
―――ああ、そうか。
「ッ……ク。ククク……これがヤツの本気と言う訳か……!」
「ち、ちょっと……そんな事言ってる場合じゃないわよ……これッ!」
―――この世界は、元から、
「いいじゃないか、この方が面白いッ!」
「あぁもう! だから嫌な予感がするって言ったのよッ!」
―――壊れていたんだ。
「滅びろ」
刹那、エレボスの片腕が切り飛ばされていた。
エレボスの切られた腕からは紫色の血が溢れ出る。
「―――ッ」
エレボスは驚きで声が出ない様子だった。
俺はそんなエレボスへと近づく。
一歩ずつ、地面を破壊しながら。
「これが……これがッ!?」
「ちょ、腕……え……?今何が……?」
これは。
今のは“不可視”の世界の話だ。
誰にも、見える世界の話ではない。
「―――“神域”……! そうか、貴様は神域に辿り着いたというのか……ッ! 面白い……面白いぞッ!!!」
エレボスは切り飛ばされた腕を再生しながらそう歓喜の声をあげた。
「なぁ、アルカナ。これは……我らが死の世界に行くのもすぐかもな」
「ちょ、やめてよ! 私は死神なのよッ!? そんなことが許されると思って―――」
再び刹那。
今度はアルカナの持つ巨大鎌が、天高く飛ばされた。
「―――ッ」
さらに、その飛ばした鎌に向けて、俺は力を使う。
「―――あの鎌は。彼女の命を奪ったあの鎌と……死神だけは絶対に許さないッ!!!」
“鬼神炎渦”。
俺の頭にはそんな言葉が浮かんでいた。
頭に流れるビジョンに従うがまま、俺は手から燃え盛る豪炎を打ち出した。
「ッ……む、無駄よッ! 私の鎌は、神すら恐れた神器なんだからッ! 神界全ての力を、技術を結集させて作ったこの神器“フィル・クーラルカ”が壊せるなんて有り得ないんだからッ!!」
アルカナは、何かに怯えるように、そしてその炎を恐れるようにそう言った。
しかし俺の炎はその言葉に逆らうかのように、勢いを増していく。
「―――燃えろ」
鬼の力の根源は、炎属性の魔法にある。
鬼の力の根源は、怒りの感情にある。
だから、鬼神の放った炎は、俺の感情に従ってその勢いを増していく。
それは、神すら燃やし尽くす地獄の業火。
「何もかも……全てが燃えればいいんだッ……!」
―――パキッ。
「何……? 今の音―――」
「ハッ……もう限界か」
そう呟いた俺は、さらに炎の出力を上げていく。
そして、少しして炎を止めた。
「―――ッ」
アルカナはそれを見て、驚いた顔になる。
それもそのはずだ。
―――落ちてくるはずの物が、落ちてこなかったのだから。
「嘘よ……嘘よッ! 私のフィル・クーラルカが溶けるなんて……!」
「ッハハ! クハハハハハッ! 面白いッ!面白いぞ勇者よッ!」
「―――面白いだと?」
俺は、怒りを言葉に乗せた。
「あぁ、そうさ。面白い。実に面白いッ!」
「俺はちっとも面白くない。それは、お前たちが奪ったものがデカすぎたからなッ!」
俺は言葉と共に駆け出した。
俺の握っていた剣は、赤く光っていた。
「いいぞ……いいぞ勇者ッ! さあ来るがいいッ! その為に女共の命を奪ったのだからなァッ!」
エレボスのその言葉で、俺はさらに怒りを強くした。
面白半分で殺される為に、彼女たちが生まれてきたんじゃない……ッ!
俺が……俺が駆けつけたせいで……ッ!
「ぁぁ……アァァァァァァァァァァッ!」
怒りと共に、俺は剣を振るった。
エレボスは、俺の剣に合わせて大剣を突き出してきた。
「チッ……これは―――」
「もう……もう止まれねぇんだよオォォォォォォォォッ!!!」
俺の振る剣はさらにスピードを増していく。
エレボスも、最初の方は俺の剣に対応していたが、次第に防御の綻びが顔を覗かせ始めていた。
「“無限剣”ッ!!!!」
「ヌゥゥゥゥゥ……ッ! ま、マズい―――」
ジリジリとエレボスは後退していく。
そして俺がエレボスを追い詰めていた、そんな時。
「許さないッ! 貴方だけは絶対に許さないわッ! ―――ここで朽ち果てなさい。あの女と同じようにねッ!!!」
―――背後からの奇襲。
前の俺だったら、気づけなかっただろう。
だが、もう俺は変わったんだ。
変わってしまったんだ……ッ!
「無駄だッ!!!」
俺は不意に振り返り、そしてそのまま剣を凪いだ。
俺の剣は、何かを切り裂いた感触をもたらす。
―――直後、滴る鮮血。
「そ……んなッ! 距離感、間合い、そして気配隠蔽……全てが完璧な奇襲だったのに―――」
「教えてやるよ。『気配感知』……鬼神になった影響で使えるようになったスキルの一つだ」
「気配感知……そういう……ことね」
アルカナが、俺の言葉でうなだれたその瞬間、今度は背後からエレボスの気配を感じ取った。
「だから奇襲は無駄だと―――」
「―――我ではないぞ?」
……ッ!?
正面じゃない……なら……
「背後―――」
「遅いッ!!!」
しまった!
エレボスの殺意は、アルカナに俺を背を向けさせた状態にして殺させる為のフェイク……!
これは、反応できない―――
「―――勝手に一人で暴れないでくれるかしらッ!?」
そんな言葉と共に飛んできた、一本の矢がアルカナを後退させた。
「チッ……邪魔者がッ! 私の邪魔をしないでよッ!」
「いやよ。私ってば天才だから、空気読めないのよ」
「なんでよッ! 天才なら私の気持ちを察しなさいよッ!!!」
「―――ハァ? それこそ嫌よ。なんで人の気持ちも理解できない死神風情に、同情なんてしないといけないのかしら。訳が分からないわ」
レヴィーナさんは、キッパリとそう言い切った。
それに対し、アルカナは怒りをぶつける。
「何よッ! 人の気持ちって……そんなの分からないわよッ!」
「ハァ、貴女はまだまだ子供ね」
「な……んですって!?」
「いい? 貴女は今さっき、自分の“神器”を壊されて怒っているのかもしれないけど……」
レヴィーナさんは、静かに、そして冷たく言葉を続けた。
「―――彼は大切な人の命を奪われたのよ」
「……ッ。そ、それは……」
「そりゃ、貴女の仕事は人の……生物の命を奪うことでしょうよ。でもね、誰かの大切な人を奪ったことには変わりないの。分かる? それが人の気持ち、ってやつよ」
全部、正しかった。
レヴィーナさんの言ったことは、俺の心にも響いた。
会って間もない彼女に、俺は惹かれていた。
あの笑顔に、仕草に、始めて胸がざわついた。
学校に居たときも、家に居たときも感じることのなかった、初めての感覚。
人の笑顔が、あんなに惹かれるモノだとは、思ってもみなかった。
「―――俺は……俺は彼女の仇を取る」
「貴方も貴方よ、白夜」
「え……?」
突然、俺はレヴィーナさんにデコピンをされてしまった。
「なっ、いきなり何を……!」
「いい? 彼女たちが本当に望んでいたことは何なのか。それを考えてみなさい」
「え……? 本当に望んでいたこと……?」
そんなの、ある訳ない。
だって、突然堕天軍との戦闘に駆り出されて、負けて気絶して、気づいたら……気づいたら……
―――死んでたんだから。
「貴方今、そんなのある訳ないって思ったわね?」
「な、何で分かるんですか……?」
「あのね、白夜。人には……生き物には絶対に戦う理由があるのよ。それは、誰かを守るためだったり、自分のためだったり、ね」
ま、まあ、それはそうだろう。
だけど、それが一体なんだって言うんだ……
「つまり、彼女たちにも戦う理由はあったのよ。私は彼女たちの事を詳しく知らないから、あんまり適当なことは言えないけど……それでもこれを見ても、貴方は何も思わないのかしら……?」
そう言って、レヴィーナさんは指を指した。
その指を、俺は追う。
レヴィーナさんが、指を指していたそれは。
「ぁ……ぁぁぁ……!」
―――ラグマリアの、切り落とされた首だった。
でも、その顔は。
「―――何で……笑っ……て!」
「それはね、白夜。彼女の目的が叶ったからなんじゃないかしら……?」
嘘だ……ッ!
会ったばかりの俺に、何もしていないのに、目的が叶うなんて……有り得ないッ!
「嘘だと思うなら、貴方が彼女に触れてみなさい。きっと、見えてくるはずよ」
「……?」
俺はその言葉に従って、彼女の……頭に触れた。
その瞬間―――
『―――キミが、コイツらと戦わなくて良かった。キミじゃなくて、私が犠牲になれて……良かった……!』
頭に響く、その声が。
声はまだ続いた。
『私のことはどうだっていいの。キミが私のことを憎いのは分かっているから。だって私は、キミの仲間や、妹さんまで殺そうとしたんだから。―――でも、でもね? キミと、キミの妹と、仲間。そして、キミたちの生きるこの世界だけは、何としても守ってあげて? 私が……私たち天使が望んだ世界は、そんな平和な世界だから!』
―――ッ!
俺は……俺は……ッ!
「レヴィーナさん」
「何?」
「―――力を貸してください」
「いいわよ」
「今から、俺はアイツらを“捕らえます”。―――彼女が望んだ世界は、そんな世界だからッ!」
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