case.12 決着と援軍そのニ
★彼女たちが帰ってきます―――
「ま、そんな意気込み過ぎても失敗するだけだからな。今回は俺たちがついてるんだから、あんま気負わずにやんなァ?」
サタールさんがそう言ってくれたので、俺は少し安心できた。
「あぁ……何故だ……何故だ何故だ何故だッ!」
「まあ、テメェは所詮、噛ませ犬だったってことだな」
「噛ませ犬……だとッ!?」
サタールさんは、フェンリルを煽り始めた。
「おおそうさ、噛ませ犬さ。その証拠に、実際お前は雑魚だったじゃないか」
「―――メロ」
「アァ? ンだって? 聞こえねェよ雑魚」
「―――ヤ……メロ」
「やめろだァ? 一体何をだよ」
「これ以上、この俺をナメるのはいい加減にしろよこの糞鬼野郎がァァァァァァッ!!!」
フェンリルの叫びが辺りに響く。
サタールさんの煽りに乗ったフェンリルは、怒りと共にオーラのようなものを一気に解放した。
「なあ、白夜」
「……はい?」
サタールさんが、そんなフェンリルを見ながら静かに語りかけてきた。
「戦いにおいて、勝敗を分ける要因って何か、分かるか?」
「えっと……なん……でしょうかね」
突然そんなことを聞かれて俺は、咄嗟に答えが思い付かず、言葉に詰まってしまった。
「分かんねぇか。それじゃ、教えてやるよ……」
サタールさんは刀に手を掛けながら、ニイッと笑い、そして言った。
「―――先に怒った方の負けなんだよ。戦いってのはなッ!」
刹那、サタールさんは消えた。
サタールさんの居たはずの地面は抉れていて、だけど音は無く、静かに消えていた。
「―――“我流奥義:憤怒”ッ!!!!」
そして今度は、消えたと思ったサタールさんは突然現れた。
フェンリルの眼前、それは一瞬の出来事だった。
クサナギさんと同じく、ただ一言。
そう言っただけだ。
それなのに。
「グァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!」
フェンリルは遥か後方まで吹き飛ばされ、痛みからか激しい叫びをあげていた。
「師匠……こんな所で“我流”を使うなんて。大丈夫なんですか?」
「ああ、別に構わないさ。それよりも次は、お前と……そしてお前たちの番だ」
クサナギさんに笑いながらそう言ったサタールさんは、俺たちを見ながらそう言った。
「にぃ、やろう!」
「ッ……ああ!」
―――戦いは、先に怒った方の負け……か。
確かに、そうなのかもしれないな。
だからこそ、兄貴やルインさん…、他にも魔帝八皇の皆さんはあんなにも冷静なんだろうか……。
「フフ。それでは私ももう一度―――」
クサナギさんは不敵に笑いながら、刀に手を掛けた。
「クソガッ……痛エ痛エ痛エ痛エ痛エ痛エ痛エ痛エェェェェェェェェェェェェェェェッ! フザ……ケルナヨッ!? 何故俺がこんな目に合わねばならないのだッ! 俺は騙されたのかッ!? ルシファーにッ……力を貰ったと言うのにィィィィィィイ…………」
「―――ゴチャゴチャ煩いですね。もう喋るのをやめたらどうでしょうか」
クサナギさんは、静かに口を開いた。
「イヤだ……イヤだッ! 負けたくない……負けタクナイィィィィィィイ…………!」
「貴方は、私たち魔王軍にちょっかいを出した時点で既に負けが確定していたのですよ? 今更何を言っているのですか」
「アァ……アアアアアア……俺は……オレハ騙されたのかァァァ……!?」
「知りません。ですが、一度犯した罪は償わなければなりません。安心してください。殺しはしません。―――ただ、“支配”されてもらいます。私や、師匠たちと同じように、ね?」
「……………………ァ」
顔が、絶望した。
フェンリルは、全てを悟ったのか、体の力が抜け、脱力した様子でうなだれている。
「正しい判断です」
「―――“反撃態勢”」
いや、まだだ。
フェンリルはまだ絶望などしていない。
最後まで、足掻こうとしている。
「ハァ、やっぱり溜め息が出ますね、貴方は。いい加減に学習して下さい」
「……ガルル……」
「もう、終わりにしましょうか」
クサナギさんは腰を深く落とした。
そして前傾大勢になり、刀を少し鞘から引き抜く。
右手で柄を持ち、その鋭眼はしっかりとフェンリルを捉えていた。
「―――“我流奥義:草薙”」
刀を引き抜き、そして納刀する。
その一動作で、クサナギさんはフェンリルの後ろに居た。
そして、
「―――ッ……ガァァァァァァァァァァァァァァァッ! その技は……一度見ている……そして……今度は“反撃”も取った……のにッ! それなのにどうして―――ゴホッ……」
遅れてやってきた痛みに耐えられず、フェンリルは口から勢いよく血を吐いた。
「さあ、皇様。最後は貴方達です。殺さない程度に甚振ってあげてください」
いつの間にかこちらへ戻ってきていたクサナギさんが、ニコッと微笑みながらそう言ってきた。
ちょっと、クサナギの印象が変わったな。
正直、もうただのサイコパスとしか―――
「行くよ、にぃ」
「え? あ、おう!」
俺のそんな考えは月夜の言葉によって遮られた。
そして、俺は一瞬にして思考を切り替え、剣を引き抜いた。
「強化魔法は任せて。にぃは最後の一撃を、“切なく”決めてね!」
「は?」
あれか?
あの、“最後の一撃は、切ない”ってやつか?
いや、切ない必要無くないか?
ま、まあ、月夜がそう言うなら、やってみてもいいけど……。
「では。―――精霊よ、彼の者に魔を祓う聖なる力を与え給え! “魔祓”ッ!」
そう月夜が魔法を唱えると、俺の剣には光が宿った。
そして、そのまま続けて、
「―――“五重付与”」
俺の使える、炎・土・光・龍・死の属性を一気に剣に宿した。
さあ、これで準備は整った。
「フェンリル、行くぜ……! さっきの背中の痛み、全部そのままお前にくれてやるッ!」
「ヤ……ヤメ……」
「今更命乞いとか、無駄なんだよッ!!!」
スキル『神速』を使い、俺は一気にフェンリルへと詰め寄った。
「いくぜぇぇぇぇぇっ! “悪・即・斬”だっ!!!」
そのまま『神速』を使って、俺は一気にフェンリルを斬った。
「ガルルァァァァァァァァァァァァァァッ!」
叫び声を上げながら、フェンリルはドサッと倒れ込んでしまう。
「ハァ……ハァ……! サタールさん、これで、大丈夫ですよね!?」
「ああ、良くやった。おいクサナギ! そこのワンちゃんを魔王城の牢獄にブチ込んでおけ!」
「えぇ、なんで俺が……」
「師匠に逆らうとどうなるか、教えたよなァ?」
「あ、すいません。やります、やりますからどうかアレは……」
「よォし、分かったらとっとと行きなァ!」
「ういっす!」
サタールさんは俺の頭をワシワシとしながら、クサナギさんに恐ろしい雰囲気で命令した。
命令を受けたクサナギさんは、倒れているフェンリルを抱えて、城の方へ走っていく。
「さァてと、次はどうすっかねェ?」
そしてサタールさんは、周囲を見回しながらそう呟いた。
加勢に行くなら、現在劣勢の所だろうな。
そう思って俺は、状況が不利な所を探す。
思い当たるところは、あの竜騎士さんのところだ。
あの中じゃ、一番弱そうだったからな。
さて、あの人はどうなっているのかな。
「え」
その竜騎士を見つけた俺は、驚いた。
意外にも、フラウロスと呼ばれた悪魔を圧倒していたのだ。
他にも隣を見れば、メフィストフェレスと呼ばれた悪魔を海王さんが圧倒しているし、案外助けが必要そうな所は無かった。
「フム、となればあそこだけか」
「あそこ……?」
俺はサタールさんの言葉に疑問を抱き、そのサタールさんが見ている方向を見ていた。
そこは、フルーレティと呼ばれた執事風の悪魔と、スレイドさんが戦っている所だった。
「スレイドさんか」
「ヘェ、スレイドって言うのか」
「あ、はい。なんでも、ルヴェルフェ様の弟子なんだとか」
「ルヴェルフェって、あのルヴェルフェか!?」
「はい。ルヴェルフェ様が消えたというのをきっかけに、俺たちについてくることになったんですよ」
「ヘェ、数奇な巡り合わせだなァ」
しかし、スレイドさんが押されるとはない……。
まあ、それもそうか。
あんな大技を放ったばかりだもんな……。
と、俺はラグマリアと戦った時のことを思い出していた。
「ほんじゃあ、早速俺たちが加勢に―――」
そう、サタールさんが言いかけた時だった。
「―――とぅ!」
「―――やあっ!」
くるるるる、しゅたっ!
ちゃきーん!
そんな効果音が聞こえてきそうな感じで登場した二人組が、俺たちの前に立ち塞がった。
「お、お前たちはァ……」
「魔帝八皇が一人、【色欲】を司る僧侶! アスモフィ!!」
「魔帝八皇が一人、【強欲】を司る魔法使い! マノン!!」
「「我ら欲に溺れし二人の罪が、今ここに推参したり!!!」」
ドカーン。
まるで戦隊ヒーローのような登場をした二人、アスモフィさんとマノンさん。
そんな、ふざけた感じの二人が、今ここに帰還したのだった。
ばちこーん★
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