case.11 強くなったぜ
フェンリル戦も佳境です。
「テメェは俺の邪魔をするのかァァッ!?」
「ああ、いいからまずはその汚い手をその子から退けな」
「ガァッ!」
サタールさんは、その手の刀を払ってフェンリルを後退させた。
「クソ、まだ援軍が居たのかッ! まあいい、全部切り裂くまでだ!」
「おお怖い怖い。お前さんみたいなのが一番おっかねぇ」
「援軍がテメェ一人だけなら、俺一人でも相手できる……残念だったなァ! 鬼族の戦士よッ!」
「援軍が、俺一人なら……ね。そいつァどうかな……って奴だぜェ?」
「ハァ……テメェ、何を言って―――」
サタールさんが、フェンリルの背後を見つめながら、そう呟いた。
そしてその直後、
「その……通りですッ! 俺が……まだ居ますッ!!!」
「後ろかッ! クソ、しくじった―――」
空からクサナギさんが降って来て、そしてそのままフェンリルに斬りかかった。
「チイッ! もう一人居たとはッ!」
「―――“鬼龍流奥義:息吹”ッ!!」
クサナギさんに気を取られていたフェンリルに、今度は正面からサタールさんが斬りかかる。
それをフェンリルは何とか避けているが、やはり二人を捌くのは難しいようで、少しずつ押されているようだった。
「おい妹の方! ニィちゃんを癒やしてやんな!」
「ふぇ……あ……は、はい!!」
サタールさんの指示で、月夜がこちらへ駆け寄ってくる。
どうやら俺の出血量はまたもや酷い模様で、もはや痛みを通り越した何かになっていた。
「にぃ……血が……血が止まらないよぉ……!」
月夜が泣きながら俺に回復魔法をかけてくれている。
だが、その回復量を上回る出血量らしい。
それだけ傷が深いと言うことだろう。
俺が……不覚だったばかりに……!
「つ……きよ」
「なぁに……にぃ……!」
俺はかすれゆく声で月夜を呼んだ。
意識は意外にもしっかりしているのに、声に出そうと、体を動かそうとすると、どうにも言うことを聞いてくれない。
「お……れ……のことは、いい。だから……お前……は、サタールさん……たちを……たすけ―――」
「―――ダメッ! にぃは……お兄ちゃんは絶対に助ける!!! その為にアスモフィさんから回復魔法を教わって来たんだから!!!」
つき……よ……!
クソ……よっぽど月夜の方がしっかりしてるじゃないか……!
どんどん、情けなくなってきた。
だが、今はそう嘆いている場合ではない……か。
月夜を信じて、このあとの事を考えなければ。
「待ってて、絶対に助けるからッ!!!」
そう言って月夜は、俺にかける魔法の威力を増やしていく。
俺はそんな回復魔法の暖かみを感じながら、今現在戦っているサタールさんとクサナギさんを見ていた。
「クサナギッ! こいつァ『獣神化』を使ってるみたいだッ!!!」
「そうみたいですね!」
「だったらッ! 俺たちも“アレ”をしようぜッ!!!」
「了解しましたッ! それでは同時に!!」
「おう!」
二人は、フェンリルと対峙する形で並び、そしてこう叫んだ。
「「―――『鬼神化』ッ!!!」」
刹那、二人のオーラや見た目が一気に変わる。
あれが……『鬼神化』……か。
「さて、クサナギ。俺たちは何の成果も得られなかった代わりに、沢山の経験と実力を得た」
「はい」
「俺ァ、言わずもがな強えんだがよ。お前があの修練所でどれだけ強くなれたのか、見せてもらおうじゃねぇか」
「俺一人で、あの獣人と戦え、と?」
「あぁ。ちょっち勇者サマが危なそうなんでな。それまでの時間稼ぎついでに、お前の技量も計らせてもらうぜ」
「ああ、なるほど。かしこまりました……それではあの獣人を倒してしまっても、文句はないですよね?」
「もちろんだ。むしろそっちの方がありがてェ」
「フフ……では、参ります!」
そう言ってクサナギさんは一人でフェンリルの所へ行き、それを見たサタールさんは、俺のところへやってきた。
「よぉし、白夜。よくここまで頑張ったな!」
「サタール……さ……ん」
「喋らなくていいぞ。よし、今すぐ回復してやるからな」
「は……い」
サタールさんが回復魔法を俺にかける。
月夜と一緒に回復魔法をかけることで、出血量より回復量の方が上回り、そしてだんだんと背中の傷が塞がってきた。
「さて……ここまですればそろそろ大丈夫かなァ……ッと」
「ありがとう……ございます!」
すごい。
月夜だけじゃ塞がらなかった傷が、サタールさんが加わっただけで一瞬で治った。
大丈夫、痛みはもう無い。
それどころか、全身から力が湧いてくるみたいだ。
「戦士のサタールさんに負けるなんて……」
と、月夜は少し悔しそうにしていた。
そんな月夜を見て、サタールさんは言った。
「まあ、こんなもんは経験だよな。俺っちはそれなりの場数を踏んできてるから、こういう時の力の使い方を分かってはいるつもりだからな。僧侶の奴らに負けないくらいの回復魔法は使えるはずだぜ」
「経験……ですか」
「ま、あの大将の仲間になったんだ! 嫌でも場数なんて踏むことになるだろうさ!」
「え、えぇ……!」
と、月夜は驚いていた。
嫌でも場数を踏むことになる、か。
今回もそうなんだな、きっと。
俺は目の前のクサナギさんとフェンリルの戦いを見ながらそう思った。
「クソッ! ンだテメェ! アイツらとは比べもんにならねェくらい強えじゃねぇかッ!」
「お褒めに預かり光栄です……っ!」
戦況はクサナギさんの有利で進んでいた。
それを見てサタールさんは話し始める。
「なぁ、二人とも。俺とクサナギのペアは、大将に関しての情報を何にも得られなかった。その代わり、得たものも多くある」
「得たもの……さっき、経験と実力、って言ってましたよね」
「ああ、そうだ。俺たちはな、“戦帝国フラウ”に行って来たんだ。そこで、まずあの国を乗っ取ってきた」
「なるほど……乗っ取ってき……た……? え?」
今、なんて?
まず、あの国を、乗っ取ってきた?
それってつまり、“支配”してきたってことか?
「いやぁ、もう皇帝はいないからな。乗っ取るのは簡単だったわ。そんで、乗っ取ったあの国で、実力者を大量に集めて、1対100とかの訓練をしたわけよ」
「簡単……しかも、1対100……って!」
「おう、一日も経ってねぇが、相当な収穫だったぜェ?」
すごいな。
俺たちも結構な収穫だったと思うが、サタールさんもすごい収穫だ。
これは、兄貴が聞いたら喜びそうな内容だ。
「クソ……クソクソクソクソッ! なんで『獣神化』した俺についてこれるんだよ! おかしいだろッ!? 俺は神殺しのフェンリルだぞッ!!! クソクソクソクソクソクソクソガッ!!!!」
クサナギさんの素早い剣技の数々に、フェンリルは圧倒されていた。
「ふざけるな……ふざけるなッ! “分身”ッ!」
「ほう。分身ですか……しかしそれにしても、数が少ないですね……」
「アァッ!? 少ないだとォッ!? ならこれでどうだッ!!!」
クサナギさんに煽られて、フェンリルは分身の数を次々と増やしていく。
100体以上はいるだろうか。
それに、その内の何体かはこちらを向いている。
「全員まとめてブチ殺してやるよッ! 行くぜェ……“神爪”ッ!!!!」
フェンリルは、爪を金色に輝かせて、全ての分身と共に攻撃してきた。
9割方はクサナギさんの方へ。残りは俺たちの方へと。
「はぁ、この程度とは……。何だか俺も、感覚がおかしくなってきた気がします」
クサナギさんはそう、ガッカリして溜め息をつくようにうなだれていた。
どうして、あんなにも余裕そうなのだろうか。
いくら、経験を積んだといっても、この数は流石に無理があるだろうに……。
いや、それともまさか本当に……?
と思った矢先の事だった。
「―――“我流奥義:草薙”」
ただ、そう一言。
刀を引き抜き、そして鞘へと納める。
そのたったの一動作のみで、クサナギさんは笑った。
「―――伝説も、神話も、所詮は御伽なのですね」
その瞬間。
「―――グルァァァァァァァァァァァッ!」
フェンリルの本体もろとも、全ての分身が薙払われていた。
それに、こちらへ向かってきていたフェンリルの分身も、気づけば姿を消していた。
「ああ、俺が飛ばしといたぜ」
「えっ……いつの間に!」
俺がクサナギさんに夢中になっている間、サタールさんが分身を倒していたようだ。
全く気づかなかった……こんなに近くに居たのに。
「さて、そろそろ終わらせるとするかァ……。よし、お前たちもやれ。本気で、だぞ?」
「や、やれ……って?」
「ああ、あの獣人に俺たちの力を分からせてやるんだ。そんで、他の奴らの加勢に行くぞ」
「な、なるほど……分かりました! よし、月夜、やるぞ!」
俺は、隣の月夜にそう言った。
すると月夜は頷いて、
「うん、よし、私も一回くらいは活躍しとかないと、だね! にぃ、私もそろそろ本気出すよ!!」
と言った。
「よっしゃ! 色々あって何にも出来なかったが、最後くらいはバッチリ決めてやろうぜ!」
「うんっ!」
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明日の更新は【16時】!




