case.2 それぞれの地にて
今日あたりに一覧表の更新と、序盤数話の改稿をしたいな〜、と
「ほう? 我に逆らうか、小さき神よ」
「ったり前よ! もう、アンタだけは絶対に許さないんだからねっ!」
ムルは怒っていた。
この世界の誰よりも、怒っていた。
その理由は簡単だ。
―――魔王が全然会いに来てくれない。
海底で待っていれば、いつかは向こうからやって来るだろうと思っていたが、それが誤算だった。
いつまで経っても彼はやって来ないし、海底でずっと一人ぼっちということもあり、もうとにかく誰かに構ってほしくて仕方なかったのだ。
「フッ、面白い。やれるものならやってみろ、雑魚が」
ピキッ。
この時、ムルの心の中の何かに、亀裂が入った。
そして怒りは募っていく。
「アンタだけには……負けないっ!」
そう、覚悟を示すように言い切ったムルは、懐から扇を二つ取り出した。
そんな彼女を見て、ベルゼブブとラグエルも覚悟を決める。
「ハァ、仕方無い……か」
「そうみたいね。このまま彼女を見捨てるのも嫌だしね」
二人は、そう言いながらムルの隣に降り立った。
「あ、貴方たち! 助けてくれるのっ!?」
「ああ。ルシファーと面識があるのは我々だしな」
「狙いも私たちだしね」
まさかこんな事になるとは、そうベルゼブブは思った。
かつて魔界最強とまで呼ばれるほどの実力を有していたルシファーと、3対1とはいえ戦うことになるとは。
彼のスキルは、『明宵の明星』。
太陽と月を……もっと言えば、明暗を入れ替えたり、その光度の濃度を操ることのできる能力だ。
他にも、『強制堕天』のスキルを持っている。
これは、対象を文字通り強制的に堕天させ、自らの手中に収める能力を持っている。
さらにこれは、スキルや技、属性などに使うとその効力を反転させることができる。
基本的にルシファーの戦闘スタイルというのは、完璧主義であり、自らの手を汚すことは殆ど無いのだ。
スキル『召喚【悪魔】』の能力で、無数の悪魔の軍勢を召喚し、数の力で相手を蹂躙する。
そして、強敵が現れた時は自分が出撃して、一瞬で終わらせる。
そんな戦い方をするのが、彼の特徴だ。
「さて、あれからお前は強くなったのか……楽しみだな。ベルゼブブよ」
「ヘッ、こんな老いぼれに戦うことを求めるんじゃない」
「老いぼれとは言うが、まだまだ見た目は若いではないか」
「世辞はいらん。さぁ、晩までに決着をつけるぞ」
いや、もっと早く終わらせないといけない。
ベルゼブブは言いながらそう思った。
確かルシファルナは言っていたはずだ。
『一時間程度』で帰ると。
ルシファーの目的がルシファルナなら、その一時間以内にこの戦いは終わらせないといけないのだ。
「おい、海王ムル」
「何よ」
「一時間以内に終わらせたい。最初から本気で頼めるか」
「いいわよ、任せなさい。私今すっごい怒ってるから」
「……あらあら、魔王も罪作りな男ね」
ラグエルはムルの怒る理由が分かって、呆れたようにそう零した。
「さあ、始めましょ? 力の差ってのを思い知らせてあげるわ」
「フッ、面白い。そのセリフが、我と貴様ら、どちらに適しているか思い知らせてやろう」
ラグエルの挑発にルシファーが答える形で、戦いが始まろうとしていた。
これは新たな聖戦である。
何故ならこんな組み合わせ、滅多に見られない特質な物なのだから。
■□■□■
《魔界にて/(ルシファルナ視点)》
「さてと……」
魔界に到着しました。
これからどうやってこの世界の人たちを移住させましょうか。
―――《魔界デストピア》には、現在約1万体の魔族が住んでいる。
生まれたばかりの子供から、数百年生きる老人まで、様々な年齢層が存在している。
そんなこの魔界で、私は以前、長を務めていました。
まだ、この世界の人々が私のことを信じてくれているなら、私の呼びかけに応えてくれるなら。
きっと、上手くいく筈。
今は、皆が私のことを信じてくれていることを、祈るしかない。
そう思いながら、私はとある場所を目指して歩き始めた。
■
「あっ、ルシファルナさんだ!」
「兄ちゃん、帰ってきてたのか!」
「またリーダーしてくれんのか!?」
私が町を歩いていると、町の人々が私を見つけて声をかけてきた。
私は軽く会釈をしながら、そのままこの世界の一番高い建物である、《デスタワー》に向かって歩いていた。
デスタワーから、拡声魔法を使いながらこの世界の人々に呼びかける。
それが行く目的だ。
デスタワーへ行くには、旧魔王城を抜けなければならない。
旧魔王城は、今は誰もいないはずだから、通り抜けることができるはずだ。
「この城に来るのも久々ですね……」
なんて、私はその大きな城を下から見上げながら言った。
さて、こんな感慨にふけっている場合ではない。
約束の一時間というのは、早く過ぎてしまいそうだから、早く目的を果たさねば。
「ハァ……」
何でこんな面倒くさい配置にしたのか。
魔王城を抜けないと行くことのできない《監視塔》など、まるで意味をなさないではないか。
これを設計した人は何を考えているのだろうか。
私なら、もっと上手くやれたのに。
なんて、心の中で愚痴を零しながらも、一歩ずつ魔王城へ向かって進んでいた。
―――その時だった。
「ッ……!」
―――ドォォン……。
前方に見える壁が、突然粉々に砕かれた。
何だ、今のは……?
私はすぐに後ろへ振り返った。
気配がしたのが、私の背後だったからだ。
「フン」
私は、男と目が合った。
その時、背筋が凍りつく感覚を覚えた。
全てを見通しているような、暗い目。
あり得ないほどの威圧感を放つ背丈。
頬についた十字の傷跡。
そして何よりも、その盛り上がった尋常じゃない筋肉量が、ソイツの強さを物語っていた。
「貴方は、一体……」
私は、当然の疑問を言葉にした。
その言葉に、男は答える。
「我か? 我は―――冥王エレボス。かつて冥界を支配していた王である」
それは、私にとって、死の宣告に近いものであり、尚且つこの魔界にとっての、終焉を意味する言葉であった。
私は知っていた。
冥王エレボスが、どんな者なのかを。
エレボスは、彼自身の言葉にあったように、かつて冥界を支配していた王である。
のだが、それを、あのルシファー様によって一瞬で壊されてしまった。
エレボスの地位も権力も、富や名声だって奪われた。
冥界は壊され、今はもう存在しない。
さらに、冥界に住んでいた死神たちまでもが蹂躙し尽くされ、冥界はルシファー様の襲来で、一瞬にして“無”となったのだ。
エレボスは降伏した。
ルシファー様の配下となる道を選んだのだ。
それからルシファー様はしばらく姿を消してしまったので、エレボス共々行方が分からなかったのだが……。
まさか、今ここで出会うことになるとは思ってもいなかった。
今、エレボスが剥き出しにしている感情は、“怒り”。
それは、膨張しきった筋肉や、溢れ出る“死”の魔力で分かる。
すくんでしまいそうな殺意に、私は怯えてしまう。
これはきっと、戦闘になる。
しかし、私に対処することができるのだろうか。
《魔帝八皇》最弱と呼ばれていた、この私に。
「フン、腰抜けが。脚が震えておるぞ」
エレボスにそう言われて、私は気づいた。
自分の脚がガクガクと震えていることに。
―――怖い。
正直、どうして突然襲われたのか分からない。
何故、ルシファー様と共に行動していたはずのエレボスが、一人で、しかもこの魔界に来たのかも。
何もかも分からない状態で、突然襲われたのだ。
怖くないわけがない。
だが、やらなくちゃいけない。
そう、魔王様に教えられたから。
もっと自信を持て、と。
そうも教えられた。
私は《魔帝八皇》の一人。
偽物とは言え、【傲慢】の継承者なのだ。
……私なら、何とかできる……!
「魔界の民は……私が守る……ッ!」
「フッ、威勢だけは良いようだ。その勇気に免じて、せめて一撃で終わらせてやろう」
私は弓を、エレボスは大剣を引き抜いた。
「いきなりですまないが、嫌とは言え主の命令なのでな。貴様を捕縛させてもらうぞ」
その、言葉に。
私は疑問を抱いた。
しかし、その疑問をエレボスに聞き出す前に、彼は攻撃を仕掛けてきた。
「さァッ! 死ぬがよいッ!!!」
■□■□■
《森ノ大国にて/(レヴィーナ視点)》
「さーてと、やる事やってとっとと帰りますかー」
私は、《森ノ大国》へ再びやってきた。
向かう目的地は、《弓手の村》。
私の知り合いの子が暮らしている、のどかな村だ。
あの村には、大体50人くらいが住んでいるだろうか。
まあ、大した数では無いのだが、何故私がこうしてこの村へ向かうのか、というと。
この村は、周辺の村々から度々襲われているのだ。
今まで、どれだけ作物の盗難にあったか分からない、とその知り合いの子が嘆いていたのを覚えている。
村長さんも、「困った困った」と言うばかりで行動しない無能だ。
だから、この機会に皆を連れて行こうと、そう思った。
「みんな元気かしら〜」
村の近くに転移したので、そのまま村へ向かってスキップで移動していた。
もうまもなくで村へ着く。
そんな矢先の出来事だった。
「……ウソ」
火の手。
黒煙。
叫び声。
―――龍の咆哮。
一瞬で感覚器に入ってきた情報を整理していく。
村が……燃えている。
私はその事実に、軽く絶望感を抱きながらも、こんな時こそ冷静にならなければならないことを思い出す。
まずは、しっかり観察しないと。
いや、それよりも先に住民の避難をしないといけないか。
そう思った私は急いで村へと駆け出した。
「に……逃げろッ! 龍だッ! 龍が出たぞォォォォッ!」
そんな声が響き、住民たちは慌てて散開してしまう。
駄目だ、バラバラに動くと、その分危険が増してしまう……!
ここはなんとか私が先導しないと。
「“癒やしの矢雨”」
範囲回復技で、かつ水属性の技を放つ。
だが、こんなもの焼け石に水だ。
どうにかして皆の目を私にひかないと。
「皆ッ、聞いてッ!!! こっちよ! こっちへ逃げるのよッ!」
私は、“拡声魔法”を使い、慌てふためく住民たちに指示を出した。
彼らはその声に少し驚いたものの、すぐに私の顔を見て、落ち着きを取り戻していった。
「レヴィーナ……様だ! レヴィーナ様がお戻りになられたぞぉぉぉ!」
「よし、お前たちッ! 女子供を優先して、レヴィーナ様の方へ逃がすのだ!」
よし……成功だ!
やっぱりアタシは天才なのかも!♪
徐々に人は集まってきた。
皆、私に言いたいことがありそうだったが、私はそれを聞く前に火が燃え盛る村へと歩き始めた。
「レヴィーナ様……」
「ヤツは……ヤツは危険です……どうか、ご自愛下さい……!」
何人かが我慢できずにそう言うが。
私は少し怒っていた。
それは何にか。
答えはたった一つである。
この村をこんな焼け野原にしたあの龍に、である。
「アンタだけは許さないわよ。ただじゃ死なせないわ」
『GRYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』
ハァ……龍にいい思い出は無いのだけれどね。
これも何かの運命なのかしら……。
不本意だけど、この村を焼かれた住民たちのためにも、ここは《魔帝八皇》の一人として、活躍するとしますか……!
「―――さあ、パーティーの始まりよ。愉しく踊りましょ?」
思ってます
ブクマや評価、拡散での応援ぜひぜひよろしくお願い致します!




