case.7 姉妹
「お願いします……ッ! 待ってくださいッ!」
そんな言葉と共に現れたのは一人の天使だった。
俺はその言葉を聞いて、攻撃する手を止める。
「貴女は……?」
「私は、《天帝八聖》の第七階位。【勤勉】を司る大天使ラジエルの子孫、ラージエリと申します」
「天帝……八聖」
また、新たな敵が増えた……?
いや、でもそれじゃあ俺たちの戦いを止めた理由にならないはずだ。
じゃあ、その逆―――
「お願いします……私の妹を……ラグマリアを殺さないでくださいっ!」
妹……?
と一瞬考えてしまうが、当のラグマリアが、
「ア……ガァァァァァァッ……コロス……コロスッ!」
堕天使となった影響か自我を失ってしまったようで、暴れ散らしていた。
辺りには黒雷が降り注いでいる。
「私たちも、彼女を殺すつもりはありませんよ」
「本当……ですか?」
「はい。ですが……やはりまずは彼女を無力化しないと、話も出来なさそうですね」
「そう、ですね……。分かりました、私も出来る限り協力させていただきます。まずはラグマリアをどうにか無力化しましょう」
良かった。
新しく来た、ラージエリって人はすごい話が分かる人みたいだ。
ルインさんも彼女と利害が一致していることが分かって、サクサクと話を進めている。
「しかしまさか……あの子が“堕天化”を使うなんて……」
「知っているのですか?」
「はい。私たち“聖族”……その中の“天使族”には、その身を闇に染め、堕天使とする禁呪“堕天化”という力があります。本来、全ての天使族のこの力は《天帝八聖》のリーダー、ミカエラ様によって封印されているのですが、緊急時に備えて我々《天帝八聖》のこの力は封印がなされていないのです。それがまさか……こんなことになるなんて……」
どうやらラージエリは、“堕天化”という力を使ったあとのことは知らなかったようで、狂い果てた妹の姿を見て、悲しそうな目をしていた。
「どうか……どうか妹を救ってください……!」
う……む。
そりゃあ、俺だって救えるもんなら救いたいが、さっきからルインさんが言ってる通り、俺に出来るのはせいぜい彼女を無力化することくらいだろう。
「何か……救う方法は無いんですか?」
ルインさんが聞いた。
すると、ラージエリさんが答える。
「あるにはあります。しかし……それには必要なスキルがあるのです」
必要なスキル……?
わざわざそう言うってことは、ラージエリさんは持ってないスキルってことか。
「スキルの名前は、『逆行』。対象の相手や事象の発生時間などを、僅かですが過去に巻き戻すことの出来るスキルです」
あれ……『逆行』?
って、あれ。
俺は再びステータスを開いて確認する。
まさかとは思うが……俺の持ってるスキルも……
・『逆行』←
あ。
「ですがあのスキルは、神でも使えるものが少なく、時間を司る神くらいしか居ません。なので、妹を捕らえて、そのスキルを所有している人を例え何年かかったとしても見つけ出して―――」
「―――あっ、あの」
「……?」
俺は、ラージエリさんの言葉を遮った。
突然声を出した俺に、ラージエリさんは少し驚いているようだった。
そんな驚いている状態で、こんなことを言うのはなんだが心苦しいが、まあ言わないと。
「その、持ってます」
「何を、ですか?」
「ですから、そのスキルです」
「……? 『逆行』……ですか?」
「はい」
俺は小さく頷く。
すると、ラージエリさんは肩を震わせ始めた。
「やった……やったよラグマリアッ! これで貴女を助けられるわっ!!」
なんというご都合展開なのだろうか。
さすが異世界……まるでラノベの世界みたいに出来過ぎているな。
「よし、そうと分かったらすぐ始めましょう!? 『逆行』で戻せる時間はせいぜい一時間まで。ならそれまでに妹を無力化するのよ!」
タイムリミットは有りか……。
まあ、なんとかなるような気がするけど。
「あ、あの〜」
と、今度は俺の妹の月夜が声をあげた。
今まで黙っていたのに、突然どうしたのだろうか。
「いや、あのですね? わざわざ無力化しなくてもいいんじゃないかなぁ、と」
「……? それは一体どういう……?」
「要するに、にぃの『逆行』っていうスキルがラグマリアさんに使えればいいんでしょ? だったら、そのスキルを使える隙さえ作れば、わざわざ無力化しなくてもいいんじゃないかなぁって思ったんです!」
ああ、なるほど。
言いたいことは分かったぞ。
「なるほど……良いですね、それ。一番ラグマリアが傷つかない方法かもしれません。よし、採用です、それ」
なんかあっさり作戦が決まった。
「じゃあ、時間もなさそうなので、さっさと終わらせちゃいましょうか」
そう言って、ラージエリさんはまだ苦しんでいるラグマリアの方を向いた。
「今……楽にしてあげるからね」
そう、小さく零したのが聞こえた。
「お姉―――ちゃん。貴女も邪魔をすルなラ―――皆、敵よ……ッ! 殺して……殺して……殺シテヤルッ!!!!」
高速でこちらへ突っ込んできた。
それを正面から迎えるのは、ラージエリさんだ。
「目を覚ましなさい……馬鹿妹ッ!」
お互いに光で出来た剣で打ち合う。
俺たちはその光景を、ぼーっと眺めていた。
「俺たちは、あの戦いに参加したほうがいいのか……?」
俺は自然と、そう言っていた。
言ってから気づく。
そうだ……このままだとラグマリアが危ないんだった。
それに時間制限もある。だったら、早く終わらせるべきだ、と。
「白夜様」
俺は呼ばれて横を見た。
ルインさんだ。
「はい」
「この作戦のフィニッシャーは、白夜様……貴方です。ですので、貴方はラグマリア様に隙が生まれた瞬間を見逃さないでください。一見して彼女は隙だらけのように見えますが、あれでも構えだけはしっかりと取れているのです。いつでも反撃出来るように」
俺はそれを聞きながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。
一瞬の隙を……俺が……!
「ですので、完全に隙が生まれるまでは、そこで見ていてください。そして、その中で見つけた隙を突いてください。それで、この戦いは完全に終わるはずです」
……俺が、一番大事な役割。
そんな肝心な役、俺に務まるのか……?
ヤバイ……手が震える……。
緊張で、額には汗も滲んでいた。
そんな俺の手を、月夜が握った。
「大丈夫だよ、にぃ。にぃなら絶対大丈夫。自分を信じて? にぃは、おにいちゃんに勝ちたくないの?」
……兄貴に……?
「にぃがここで挫けるようじゃ、おにいちゃんは超えられないよ? あの時の戦い、あのままいってたらおにいちゃんの勝ちだったもん」
あの時の……というと、兄貴との実戦訓練の時のことか。
あの戦いは、ハンデ有りとはいえ、俺たちが押していたような気がするんだが……。
「今なら分かるよ、サタールさんの言葉も。まだ、あのおにいちゃんは本気じゃなかったんだよ。それにスキルや使い慣れた武器も使ってなかったしね」
あれで、本気じゃない……。
んだよ、それ……。
やっぱ、兄貴もチートな存在じゃんか……!
「そんなおにいちゃんに、少しとはいえ、鍛えられてきたんだよ? 大丈夫、にぃなら絶対に出来る!」
「月夜……」
そうか……魔王に育てられた勇者か……。
自分を信じて……兄貴も信じる……!
いいぜ……やってやるさ。
確かに、こんなところで挫けるようじゃ、“勇者”の名前も廃っちまうもんな……!
ここで成功させて、天帝八聖二人を仲間にして、兄貴を驚かせてやるんだ……!
漢を見せろ皇白夜!
「月夜、ありがとう。なんだか俺、やれそうな気がしてきたよ」
「うむ! それでこそ自慢のにぃだ! 頑張れ!」
……よし。
やるぞ。集中しろ。
ラグマリアに出来る、一瞬の隙を見逃すな。
スキルの使い方なんて知らないけど、とりあえず勘でやってやるさ……!
「ヴァァァァァァァァァァッ!」
「そんな怒りに身を任せた攻撃じゃ……私は殺せないっ!」
ラグマリアが放つ黒雷を、ヒラリと躱していくラージエリさん。
まるで、赤子の手をひねると言ったようにラグマリアを翻弄していた。
「“分身”ッ!」
そこへ、さらにラグマリアを混乱させる要因が生まれる。
ルインさんの分身だ。
「“堕天の雷墜”ッ!!!」
ラージエリさんと剣の打ち合いをしながらも、ルインさんの分身を冷静に墜としていくラグマリア。
しかし、その手から放たれる黒雷も、段々と威力が弱まっているように感じられる。
彼女の限界ももうすぐだろうか。
「ッフ……“分身”ッ!」
ルインさんが再度分身を出した。
心なしか、ラグマリアのことを鼻で笑ったような気もした。
「そろそろ決めます……! ―――“聖閃斬”ッ!!!」
なんて考えていると、しばらく剣の打ち合いをしていたラージエリさんが、一度距離を取ってから、再びラグマリアに剣技と共に詰め寄った。
さらに、ルインさんもそれに合わせて攻撃をした。
「―――“無限連斬”ッ!!!」
二人の剣技が重なる。
ラグマリアは、反撃の態勢を取ろうとキョロキョロしていたが、やがて何かを諦めたように棒立ちになった。
「今ですッ! 白夜様!!!」
すると、攻撃の手を止め、俺へと指示を出すルインさんの声に、ハッと我に返った俺は、すぐさま駆け出した。
「分かりましたッ! 今行きます!!!」
全速力で、ラグマリアのもとへ。
今から『逆行』を使う。
ラグマリアのもとへ到着した俺は、彼女に手をかざし、そして叫んだ!
「時よ……戻れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
▶スキル『逆行』を発動します。
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