case.6 堕天使
「―――“堕天使の滅歌”」
辺りに、暗い歌声が響く。
とても、悲しい歌が。
歌声を聞いていると、何だか眠くなってくるような……
「―――ダメっ! その歌声を聞くと死んじゃいます!」
え……ん?
「起きて……くださいっ!」
―――パチン!
いった……い!
頬を、叩かれた……思いっきり、ルインさんに。
しかし、そのお陰か、ボヤケていた視界もハッキリとしてくる。
「大丈夫ですか!? 今のは、即死系か催眠系の魔法です……あのままだったら、貴方は死んでいたかもしれません……」
「催眠系の……って、死ぬッ!? えっ、あの、助けてくれてどうもありがとうございますッ!!」
「いえ、それより彼女をどうするか……それを考えなければ……」
そうだ……今の状況を少し整理しよう。
目の前にいるのは本人曰く“堕天使”となったラグマリア。
今の魔法でなんとなく分かったが、彼女……かなり強くなっているようだ。
即死だか催眠だかの魔法なんて使ってくるしな。
そして、俺たちの側の状況だが。
まず俺と月夜は、まだ全然戦える。
ルインさんも、まだまだ余裕そうだ。
しかし、残る一人……スレイドさんだが……。
「ちょいと厳しいかもしれない……」
と、膝をついていた。
さっきの大掛かりな魔法が、彼の全力だったのだろう。
となれば……俺が前衛に出て戦わないと、誰も月夜を守れない……のか。
さっきより強いラグマリアに、こんな雑魚の俺が勝てるのか……?
実戦経験もろくにないこんな俺に……。
そう自虐気味に考えながら、俺は「ステータスオープン」と一言。
現在の俺の状態を確認した。
今使えるスキルは……
・『魔王探査』
・『剣技』
・『逆行』
・『神速』
となっていた。
……見覚えのないスキルが一つある。
『神速』……?
こんなスキル、手に入れてたっけか……?
えっと……効果説明に書いてあることを纏めると……何か、とにかく速く動けるようになるみたいだ。
もしかして、さっき月夜を助け出せたのはこのスキルのお陰……?
とにかく……このスキルがあれば、うまいことラグマリアを翻弄できるかもしれないな。
「もう準備はいいかしら? そろそろ行くわよ……ッ!」
と、俺の中でも思考が纏まったその時、ラグマリアが黒い翼を広げて宙へ浮いた。
「来ます……構えてくださいッ!」
ルインさんが叫ぶ。
俺はその指示通り、ラグマリアの攻撃に備える態勢をとった。
「―――“堕天の雷墜”ッ!!!」
「おにいちゃんっ!」
ラグマリアが黒雷を放つのと同時に、月夜が俺たちを守る障壁を展開した。
しかし、
「無駄よッ!」
月夜の張った障壁は一瞬にして崩れ去ってしまう。
俺は咄嗟の判断で、月夜を抱きかかえた。
「ひゃっ……!」
「少し動き回る……耐えてくれよ……!」
「え……? あ、うん!」
よし……物は試しだ。
早速スキル『神速』を使ってみよう……!
「これ……走れば……ってうわっ……!」
試しにちょっとだけ走ってみたのだが、なんと一瞬にしてラグマリアが見えないところまで走ってきてしまっていた。
「おいおいマジかよ……」
「今……何したの……?」
月夜も、何が起きたのか分からず、不思議な様子だ。
実際、俺だって何にも理解していない。
「クソ……まだ勝手が分からないな。すまん、月夜……もう一度戻るぞ!」
「えっ」
俺は月夜の返事を聞く前に、元居た方へ引き返すべく、走ってみた。
今度は……軽く……少しだけだ!
―――シュン!
「え」
と零したのはラグマリアだ。
なんと、またもや一瞬にして戻ってきたのだ。
このスキル……こんなに早く動けるようになるとか……実質ワープだろこれ。
しかしまあ、強いな。
前に兄貴に、「お前そんなチート要素無くないか?」って言われたけど、このスキルはかなりチートな気がするぞ。
よし、これを上手く使いこなせれば、ダメージを受けずにラグマリアを倒せるかもしれない……!
「い、今何をして……」
とラグマリアに聞かれるが、そんなの素直に教える訳がなかろうて。
そんじゃあ、まあ始めますか……!
「ルインさん、僕が前衛に出ます! もしもの時は月夜を宜しくお願いします!」
「えっ、ちょ、ちょっと待って―――」
気分が高揚している。
ここまで胸踊るのは、小学生の時に公園でエロ本拾った時か、中学生の時に生徒会長になった次の日くらいだろう。
今なら、何でもできる気がする……!
「行くぜラグマリアッ!」
「来なさい……堕天使の力、見せてあげ―――」
「―――“閃光”ッ!」
俺は駆けた。
それは刹那の世界の出来事だった。
剣を構える、ラグマリアに詰め寄る、技を放つ、ラグマリアを切り刻む、元居た位置に戻る。
これを僅か2、3秒で終わらせたのだ。
当然どうなるか。
「―――る……えっ? ガ……イヤァァアァァァァァァッ!」
遅れてやって来た痛みに苦しみの声をあげるラグマリア。
さらに、それを見たルインさんが追撃をする。
「ナイスです、白夜様っ! ―――“分身”!」
空へ飛んだルインさんは、再び無数に分身を生み出した。そして、
「“無限連斬”ッ!!!」
その分身が、全て同時に攻撃をする。
もちろん、ラグマリアも無抵抗のままというわけではなかった。
「“堕天の福音”ッ!」
灰色の光が、ラグマリアを包む。
さらに、それに重なるように幾重にも障壁が展開される。
そこへルインさんの分身が襲いかかる。
―――ガキン!と障壁に攻撃を防がれてしまっていた。
それでようやく安心できたのか、ラグマリアはヨロヨロと立ち上がった。
「アハ、アハハ。私は【忍耐】を継承したのよ? 一番下とはいえ、《天帝八聖》の一人なのよ……!? このくらい、できて当然―――」
「―――“暗影之地”」
そう、ルインさんが言った。
先程同様、辺りが暗くなる。
しかし、それだけではなかった。
「―――いやっ……嫌よ……! 来ないで……来ないでッ!」
突然、ラグマリアの様子がおかしくなったのだ。
頭を抱えて、何かに怯えているような……そんな態勢になっていた。
「あれは、絶望に襲われているのです。今、彼女の視界には、己の“絶望”が居るのでしょう」
いつの間にか隣に居たルインさんがそう教えてくれる。
「早く、終わらせましょう? 彼女が“堕天”の道を選んだ時点で、私たちの勝ちは確定していたのですから」
そう言いながら再びルインさんは“分身”をした。
「嫌……嫌よ……来ないでよ……ッ!」
ラグマリアはとても苦しそうだ。
そうだ……ルインさんの言う通り、早く終わらせて、あの状態から解放してあげないと……!
人が苦しそうにしてるのは、やっぱり嫌だッ!
「俺がやります……ルインさん!」
「え……っと、わ、分かりました。では私はサポートを致します!」
「頼みます!」
俺はそう言いながら駆け出した。
今度は『神速』を使っていない。
いつも通りのスピードだ。
「来るな……来るナ……クルナクルナクルナァァァァァッ!」
酷く激昂した様子のラグマリアは、叫び声とともに周囲に黒雷を降らせる。
俺はそれを避けながら少しずつラグマリアに近づいていく。
「ウァァァァァァッ! 消えてッ!」
両手から、さらに一筋の黒雷が放たれる。
「白夜様! そのまま突っ込んでください!」
俺は走りながら、そのルインさんの指示を聞いた。
指示通り、俺はそのまま突進する。
既に目の前には、黒き雷光が迫っていた。
「―――“魔断”ッ!!!」
すると、空からルインさんが現れて、そのまま手に持つ短剣で雷光を切り裂いていった。
あれは確か……サタールさんの技……!
「今ですッ!」
「はい!」
俺はこの一瞬で全ての準備を整えた。
態勢、間合い、そして強化。
さあ、これで終わりだ。
「“天地五王”―――」
俺が、技を放とうとした、その瞬間だった。
「―――待って! 待ってくださいッ! 妹を殺さないでッ!」
そんな言葉と共に現れたのは、もう一人の天使だった。
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