case.4 足手まといにはなりたくないから
※白夜視点です
俺は今、目の前で繰り広げられている接戦に目を引かれていた。
いや……そうじゃないか。
―――怖かった。
これが、初めての戦闘だったのだ。
それが、こんな強敵だなんて。
目の前にして分かる、その恐ろしさ。
俺たちを守りながら、ルインさんは戦っている。
それは、とても負担が大きい……そんなことは分かってはいる。
そして、今目の前にいるスレイドさんも、俺たちを守ってくれている。
俺たちは、『守られている』んだ。
それは、狙われているのが俺たちだから?
いいや、それは違う。
勿論、それもあると思うが、実際俺たちが守られているのは、ただ単に俺たちが弱いからだ。
目の前で繰り広げられている戦い……ルインさんとラグマリアの戦いからは、殺気や闘気、魔力のぶつかり合いなど、とにかく気力がとてつもなく伝わってきた。
そのオーラが、俺たちの肌にピリッとした痛みを与えるくらいには。
このままでいいのか?
このままじゃ、俺は……俺たちはずっと守られたままだ。
そんなの、俺の知ってる“勇者”じゃない。
俺も……戦うんだ!
しかし、あの戦いに参戦する余地がない。
なら、どこかのタイミングでルインさんの大きなサポートとなるように、大きな一撃を放つ。
俺はその旨を、妹の月夜に伝えた。
すると、
「わかった……! 指示は私が出すね、にぃ」
「ああ、任せたぞ妹よ」
妹は《巫女》だ。巫女には専用スキル『未来予知』がある。
それを使えば、この未来に何が起こるかを視ることが出来るのだ。
ちなみに、なんだが。
俺の……《勇者》の専用スキル『魔王探査』が全く機能しなくなっていた。
誰にも聞かれなかったから、誰にも話していないのだが、こっそり使ってみたところ、何一つ反応が無かったのだ。
一体、どうなっているのか。
だが、今はそれよりも目の前のことだ。
今こうして考えている間も、ルインさんは必死に戦ってくれている。
幸い、さっきのレーザー光線以来ダメージのある攻撃はこちらにきていない。
今の内に策を考えておかねば。
まず、ラグマリアは天使だ。
天使は、光を司る。
光に一番効くのは、闇だ。
つまり、ラグマリアにダメージを与えるとしたら闇属性の攻撃が一番有効だろう。
俺自身は闇属性の攻撃をまだ扱えないのだが、月夜が“付与”の魔法を使えるのだ。
ちなみにこれは余談だが、月夜は12属性全てを扱えることが出来るらしい。
……俺より、妹の方がチートしてるよな……。
さて、ということで闇属性の問題はこれで解決だ。
あとは、それを使って俺がどうするか……だが。
俺ができることと言ったら……
剣、か。
むしろそれしか無い。
剣に闇属性を付与して、俺が大きな一撃技を放つ。
うん、最初にしては比較的上出来な作戦だろう。
あとはそれを実行に移すタイミングを月夜に言ってもらうだけだ。
俺は、今考えた作戦を月夜に話した。
「なるほど、にぃにしてはあんまり調子に乗らない作戦なんですね」
「ああ、あの強さは調子に乗っていいレベルじゃない。この世界では、戦いに負けたら普通に死ぬんだぞ?」
「ゲームの世界だけど、ゲームではないってことだよね……。うん、そうだね。分かった!」
月夜は、ニパアッっと明るく笑って、グッと拳を握りしめた。
どうやら、覚悟は出来たようだ。
俺も、覚悟を決めないと。
怖いとか言っている場合じゃない。
漢を見せるんだ……皇白夜!!
「アハハハハハハッ! 貴女面白いわッ!!」
「貴女、かなり強いですね……!」
二人の戦いはデッドヒートしていた。
アニメとかでよく見る、赤と青の一閃が無数に交錯し合って、超高速で戦っているあの描写が、今目の前で起こっていた。
いや、そう見えるだけかもしれないが。
その二人の戦いは、黒と白の閃光を放ちながら空に、地上にその光を交錯させていた。
二人の打ち合いはほぼ互角。
しいて言うなら若干ラグマリアの方が上回っているだろうか。
「まだ貴女本気を出してないわよねッ!?」
「そういう貴女こそ……ッ!」
「なら……貴女が本気を出さざるを得ない状況を作ってやるわッ!!!」
そう、ラグマリアが叫んだ刹那だった。
「はろ〜!」
俺たちの目の前にラグマリアが現れた。
「んなッ!!」
俺は即座に剣を引き抜いて受け身の態勢をとる。
そして、ラグマリアの背後にはスレイドさんが静かに回り込んだ。
「貴方の実力、見せてもらうわよッ!?」
剣が振り下ろされる。
「おにいちゃんっ! ―――精霊よ、彼の者に大地を揺るがす力を与えよ! “剛力”ッ!」
そして、ラグマリアの剣が振り下ろされるのと同時に、月夜が俺に強化魔法をかけてくれる。
“剛力”によって、攻撃力や筋力が増強されたことにより、ラグマリアの剣はなんとか受け止めることが出来た。
「あら……そちらのお嬢さんの方が厄介そうね。だったらそっちから……」
マズイ……抜かれたッ!
俺の後ろには月夜が……ッ!
「バイバ〜イ☆」
間合いに入られた……!
マズイマズイ……このままじゃ月夜がッ!
俺は考えるよりも先に体を動かした。
脚を動かした。
間に合え、間に合え、間に合え……
「間に合えぇぇぇぇぇぇっ!」
俺は、遠く遠くに手を伸ばした。
月夜は死んじゃ駄目だ……絶対に殺させないッ!
速く、速くなるんだ……!
月夜に届けぇぇぇぇぇぇっ!
「えっ……?」
剣が凪がれた。
血が落ちる。
「アハハハハハッ!」
間に合わなかった……?
「アハ……ハ?」
……あれ……?ラグマリアの様子が……
「あれ?」
「おにぃ……ちゃん?」
ん……?
あれ、月夜が生きてる?
てか、俺が月夜を抱きかかえている……?
じゃあ、ラグマリアは……?
「―――俺と……」
「―――私を忘れないでくださいッ!」
ラグマリアはスレイドさんとルインさんに囲まれていた。
「さすがに……4対1は厳しいかもね……ッ!」
「逃しませんッ!」
ラグマリアが後退しようとしたところに、ルインさんが攻撃を仕掛けに行く。
「“斬襲”ッ!」
刹那、ルインさんの姿が消える。
と、思ったらすぐにラグマリアの背後から現れた。
「ッ!!」
ラグマリアの反応速度が、遅い……!
これは、ルインさんの攻撃が……!
「うァァァッ!」
決まった……!
ラグマリアが、背後から横凪にされて吹っ飛んでいった。
そして、痛みからか、倒れ込んだままだ。
大きな一撃を与えるなら、今しかない……!
直感的にそう思った俺は、即座に駆け出した。
腕には傷が出来ていたが……それには気にせず駆け出した。
「今だ月夜ッ! 闇属性の“付与”を頼むッ!」
そしてそれと同時に、月夜に指示を出す。
月夜は軽く頷いた後、何も言わずに詠唱を始めた。
「―――精霊よ、闇の精霊よ。彼の者に深淵なる闇の加護を与え給え! “付与 : 闇”ッ!!」
月夜の詠唱が終わり、魔法が発動した。
俺の手に持つ剣には文字通り“闇”を纏っていた。
「クッ……うぅ……」
すると、ちょうどそのタイミングでラグマリアが立ち上がった。
「うっ……? や……み?」
どうやらまだ状況を飲み込めていないらしい。
叩くなら、絶対に今だ……!
「喰らいやがれ……! “多重付与” : 炎ッ! ―――“闇獄炎斬”ッ!!!!」
闇属性に炎属性を重ねがけし、その状態の剣で俺はラグマリアに斬りかかった。
のだが、
「―――“絶対回復”……!」
突然ラグマリアの身体が淡い緑の光に包まれて……と、思いきやすぐさまラグマリアは立ち上がった。
ヒール……回復魔法か……。
だが、まだ今の内なら……いけるッ!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「させないわよ……ッ! “天光聖撃”ッ!!!」
俺は叫び声と共に斬りかかるが、それに一瞬で対応してきたラグマリアは、同じく剣で剣技を放ち、対抗してきた。
「くっ……!」
「後ろが―――」
しばらくつばぜり合い状態になっていたが、ラグマリアの不穏な言葉と、後ろから殺気を感じて、俺は一度後退しようとした。
が……
「ガラ空き―――」
「おにいちゃん前に飛んでッ!!!」
月夜が叫んだ。
俺は言われるがまま前に飛ぶ。
すると、
「なっ……! なんで……なんで分かったのっ!?」
俺とつばぜり合いをしていたはずのラグマリアは消えて、俺の後ろに彼女は居た。
そのラグマリアは月夜の方を見て動揺しているようだった。
ラグマリアの背後はガラ空きだった。
俺は、ニヤリと笑みが零れてしまうのが自分でも分かった。
月夜を見ると、同じく月夜も口角を吊り上げていた。
俺の隣にはルインさんが来る。
そして静かに、こう一言。
「―――私たちの勝ち、です」
その言葉に、俺は絶対的な安心感を覚え、ふともう一つの、ある事に気づいた。
それを見て、ルインさんの言葉が、さらに絶対的な物となる。
これは、俺たちの勝ちだ。
そう、確信させたのは、ラグマリアから離れた位置にいるスレイドさんの存在だった。
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