case.3 魔帝八皇VS天帝八聖
火曜日は17:00になってます(先週から)
今後ともよろしくお願いします!
「戦うのは、貴方一人?」
目の前に居るラグマリアが、そう煽る。
私は、皇兄妹を見ながら考える。
どうする……どうする私!
実際、ラグマリア相手に一人で戦えるの?
それも、皇兄妹を守りながら……!
「クッ……」
考えながら、つい唇を噛んでしまう。
何か、何か無いの……?
皇兄妹は、ラグマリアを見て怯えきってしまっている様子だ。
私が、主様の代わりに二人を守らないと……!
「私、一人です。私では、不十分ですか?」
「あら、そう。では、始めましょうか」
ラグマリアは、腰に差していた細剣を引き抜いて、そう言った。
細剣……レイピアとも言う武器。
銀色に輝くそれは、鋭く光って私を捉えて離さない。
正直……とても怖い。
悪魔にとって、天使は大敵である。
まあ、逆もまた然りなのだが。
私は、昔より確実に強くなっている。それは分かっている。
だが、それを脳では理解していても、実際に体感出来ていないのだ。
だから、本当に強くなったのかが分からない。
しかし、私が戦わなきゃ、皇兄妹はラグマリアにやられてしまう。
さっきから、彼女の視線はずっと二人の方を見ているから。
狙いが私などではなく、あのお二人なのだと分かる。
彼女が言った、“魔王軍を殺す”というのはそのついででしかないのだろう。
「でも、こんなところで戦うのもあれよね。なら……」
ラグマリアは、この路地裏で戦うことを懸念したのか、何か考え事をしている様子だった。
何かするなら、今だ……!
どうする、皇兄妹をどこかへ逃がす?
いや……それだと私にもしものことがあった時に二人を守れなくなってしまう。
なら……やはり二人を守りながら戦うしかない。
と、なれば私が何かをすればいい。
私は“暗殺者”。
影に潜み、敵を狩る。それが、暗殺者。
なら……その本分を成そうではないか。
「さて……それじゃあ転移するわよ? 転移が完了し次第、勝負開始と言うことで。あぁ、楽しみねぇ……? あの魔王の配下を殺せるなんて……」
えっ……?今、なんて……?
「あの魔王」?その言い方じゃあ、まるでラグマリアが主様を……。
彼女は、何かを知っている?
主様のことを。
それなら、私が戦う理由には充分すぎるくらいだ。
なんとしても、聞き出してみせる。
まずは、ラグマリアを殺さずに無力化する。
そしてその間も皇兄妹を守る。
―――それが、今回の私のミッション。
明確な目的が見えてきたその時、ラグマリアが放った光に包まれた。
―――転移が、始まる。
そして、その瞬間だった。
「おうおうおうおうちょっと待ってくれやァァァァァ!」
黒い人影が、転移するその瞬間に光に飛び込んで来たのだ。
「えっ、ひゃわっ!」
私はその飛び込んで来た人影に驚いて尻もちをついてしまった。
そしてその瞬間に転移が終わってしまった。
「いったた……」
何が、起きた……?
私はそれを確認するべく、その人影を調べてみた。
すると、その人物は見たことのある顔をしていた。
「あら……? ネズミが紛れ込んだの??」
ラグマリアは、こちらの惨状を見ながらそう言った。
いや、この人はネズミなんかじゃなくて……
「―――スレイドさん……?」
ついさっき、私たちに協力してくれると言った小人のスレイドさんだった。
「おう! いやよ、ちょっと分かったことがあったからアンタたちに報告しようと思ってたんだが、そしたらアンタらが光に包まれてるのが見えてな! それで気づいたら体が動いてたって訳よ」
何か分かったこと……?
こんな早くに何か分かったってことは、まさか主様か、スレイドのお師匠様であるルヴェルフェ様のことで何か……?
「あの、もういいかしら? 雑魚が一匹増えたところで、天帝八聖である私の力には及ばないのよ。それを今からその身を以て体感させてあげるわ」
クッ……今はとにかく戦うしかないか。
しかし、スレイドさんまで守れるかな……。
「嬢ちゃん、まさか俺も守ろうとしてるのかい?」
「えっ……?」
無意識の内に、私は短剣を二本構えたまま、スレイドさんを含めた三人を守る態勢になっていた。
それを見たスレイドさんが、「おいおい」と言いながら立ち上がる。
「俺だって偉大な魔帝八皇サマの弟子やってんだ。それなりに強い自信はあるんだぜ? 任せな、こっちの二人は、俺が何としても守り抜いてやるからよ。嬢ちゃんは、あの嬢ちゃんとの戦いに集中しな」
スレイドさんは、黒い片手用の剣を引き抜きながらそう言う。
「スレイド……さん……!」
「へへっ、一つ貸しだぜ?」
「はい……! よろしくお願いします! そちらは任せました!」
これで、心置きなくラグマリアと戦える。
少し……スレイドさんの力が分からないのが心残りだけど……。
なんて矛盾した自分の思考にも気づかず、私は再び戦闘態勢に入る。
「くふふ……これで私の力を他のメンバーに思い知らせて、私があの魔王討伐戦に参加するのよ……」
“魔王討伐戦”だって……?
やっぱり、彼女は……いや、彼女たちは主様のことを……知っている!
ならばこそ、私は必ず勝たないといけない。
ラグマリアだけじゃない、《天帝八聖》全員に……!
「ラグマリア、貴女には聞きたいことが沢山あります」
「あら、改まってどうしたのよ」
「でも、その為には貴女より私の方が上であることを示さなければならないみたいですね」
私はその言葉を残して、“影陰”によって影に潜む。
いや、正確には私が影になるのだ。
「だから……」
「―――貴女を殺しますッ!」
私は“分身”とともに影から飛び出した。
ラグマリアは一瞬硬直したが、すぐにその手の剣を振るった。
「言ってることが矛盾してるわよッ!! “円環聖光剣”ッ!!」
その、ラグマリアから放たれた剣技は、私の分身を一瞬にして葬り去った。
だが、この程度では怯まない。
すぐさま次の行動へ移る。
「“氷刃”ッ!」
私の手から、文字通り氷で出来た刃がいくつも形成されて、そのままラグマリアへ向かって飛んでいく。
「ハッ、その程度ッ!?」
だが、それもラグマリアは余裕そうにいなしていた。
そこに追撃を加える。
一つじゃない、二つだ。
「“氷天”ッ!!!」
私はラグマリアの頭上に、氷の魔力弾を降らせる。
そしてその間に、スキル『死霊』を使って、いわゆる“ゾンビ”というやつを何体も召喚した。
「ヘェ、私にそういう小細工で勝てると思ってるの? 魔は必ず聖に滅ぼされる運命なの、この意味が分かって?」
「ゾンビなど……無駄だと?」
「その通りよ……『浄化』発動ッ!!!」
そう、ラグマリアが叫んだ途端……私の死霊兵たちはうめき声を上げながら地面へと還っていった。
「やっぱり天使は……嫌い」
私はそう言い残して、再び影と成る。
「この私ですら気配を感知できないなんて……貴女もしかして、相当な手練ね?」
「それは煽り? 相当余裕そうだけどッ!」
再び分身による急襲。
それも、かなりの至近距離から。
これなら、対処できまい。
そう、思っていたのだが……。
「ふん……っ!」
―――ガキン!
剣と剣の打ち合う音が響く。
対応……された?
まさか、そんなことが……
「これでも剣術の腕はピカイチなのよ、私。天帝八聖の中では“鋼鉄のゴリラ”なんて呼ばれてたくらいなんだから!」
それは自慢なの……?
絶対バカにされてると思うんだけど……。
「だからアンタみたいな非力の剣なんて……ッ! フッ!!」
と、そのまま勢いよく弾き飛ばされてしまった。
だが、すぐに態勢を立て直した私は、またラグマリアに向かって突進する。
「“氷刃”ッ!」
氷の刃と共に。
「無駄よッ!!」
しかしそれはすぐに斬られてしまう。
まだだ、まだ終わりではない……!
「“影飛剣”ッ!!」
刹那、ラグマリアの眼前で私は影に成った。
これは、剣技“飛剣”の応用技だ。
「やっぱその影の術は厄介ね……! ここらで潰しておくとするわ!」
影を……潰す……!?
駄目だ、そんな事をされてしまえば……私は勝てなくなる……!
早く攻撃しないと……!
「させませんッ!」
私は影から飛び出した。
もちろん、“分身”も使った。
無数の私が、ラグマリアに斬りかかる。
まずは一度斬らないと……神器“双月”の効果は発揮されない。
焦燥感からか、いつもより攻撃の速度が速くなる。
これなら……いける!
「―――なーんてね。“聖浄”」
そう思った矢先だった。
気づいた時には、遅かった。
ラグマリアから放たれた白い光線が、私の分身だけでなく、スレイドさんたちの方まで飛んでいく。
対応が遅れた私は、すぐにさっきの影がどうこうっていうのが私を誘うための罠だったのだと気づく。
私の分身は、再び全ての分身を失った。
幸い、“双月”の効果は分身体には適応されない為、ダメージは最小で済んだのだが、スレイドさんの方が大変なようだった。
「クッ……! 呪術にも限界があるっつの……ッ!」
だが、何とか防げていたので私はホッと安心した。
「ハァ、こんな雑魚があの魔王の配下だなんてね。まだあの魔王と一緒に居た小人の方が強かったわよ?」
ラグマリアは大層つまらないといった様子でそう言った。
また、聞きたい情報を増やされた……。
主様と、小人が一緒に居る……。
と、いうことは恐らく……
「ルヴェルフェ様だな」
スレイドさんが言った。
まあ、冷静に考えてもそうだろう。
「とにかく、まずは彼女を無力化しないと……ですね」
私は改めて言葉に出すことで、決意をしっかりと固める。
これは全て主様の為なのだ……。
だから、こんなところで負けるわけにはいかない。
それに、多分この戦いに勝つことができたら……主様はきっと褒めてくれる。
そしたら私は……私は……!
でへへへへ……
頭を撫でられたり、優しくて甘い言葉で褒められる姿を想像したら、ニヤケが止まらなくなった……。
そんな、そんな幸せな妄想をしながら私は短剣を固く握り締め直した。
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