76,別荘の裏話
多少死にかけた俺だったが、どうにか意識をこの世から手放すことなく済んだ。
……代わりに全身がくまなく痛いけども。
「大丈夫か? 瞬一」
「これが……大丈夫そうに見えるのか? 啓介……というか、晴信の方も相当来てるぞ……」
「……これは男子組が全滅してるように見えるぜ」
珍しく小野田がまともな意見を述べてくる。
普段が普段なだけに、なんとなく気持ち悪い。
「……おい、今気持ち悪いとか思わなかったか?」
「いや、別に」
とりあえずこういう時の勘だけは鋭いことを知っているので、俺は適当にはぐらかしておく。
……何故コイツは自分のこととなるとここまで勘が鋭くなるもんなんだろうな。
「さて、二人の体調も良好だし……」
「「全然良好じゃない」」
晴信と俺の、心からのツッコミ。
「それじゃあみんな……中に入りますわよ!」
千世が先陣をきる。
当たり前か……何せここは千世の別荘なのだから。
千世に率いられて、俺達は早速中に入る。
……外も凄いが、中も結構凄かった。
「広いし……綺麗ですね。まるで掃除を毎日やってるかのようです」
春香がそんな感想を漏らす。
……うむ、まったくもってその通りだと思う。
「当然ですわ。周辺に住む私の家の専属執事が毎日掃除をしているんですもの……あ、別荘内で会った時には挨拶をしてくれますと助かりますわ」
「ああ、分かったよ」
しばらく玄関で話していた俺達は、場所を移して大広間へと向かう。
……というかこの別荘、まるで何処かのホテルだな。
「確か大広間に荷物を置いていたはずだよね?」
葵が確認をとるかのように、千世に尋ねる。
すると千世が、
「ええ、そうですわね。細川先輩」
と、歩きながら答えた。
……大広間まで行く道の途中、誰かの肖像画がかけられてあった気がするが、みんなが先へ行ってしまうので、その肖像画をじっと眺めることはなかった。
「ところで、よくこんな島に別荘を作ろうだなんて気になったよね……私だったら軽井沢とかに別荘を建てるけどな……」
織が、ほとんど独り言のようにそう言う。
まぁ確かに、いくら別荘を建てたいからと言って、島買い取ってまで別荘建てるこたぁねぇだろうに。
「それが……私の父上が趣味で購入致しましたから……」
「父上?」
と言うことは、校長の息子か、娘に嫁いできた夫と言うわけか。
……何となく後者の方が確率が高い気がしなくもないが。
「……実はこの島、前までは人が沢山住んでいたそうですわ」
「ほ……本当に?」
「……ええ」
刹那の問いに、千世は答える。
……なんだろう、この予感。
まるでこれから問題でも起こるかのような空気だぞ?
「昔、この島で大量虐殺がありまして、沢山の人が犠牲になってしまったんだそうです。ですが、この別荘……前までは誰かの屋敷みたいでしたが、ここに住んでいた人達だけは、最後まで生き残っていたみたいなんですの」
「……それで?」
葵が不安げながらも先を急かす。
……やはりこういう怪談話っていうのは何処かの島にある別荘とかにはよくあるシチュエーションなわけ?
「もう少しで全員が生き残れる……そう考えていた矢先のことでした。その日突然……屋敷の主人が、バラバラの遺体となって見つかったそうなんです」
「「「!?」」」
「……家族はその惨状を見て、島から脱出しました。以降、この島には住人が一人もいなくなってしまったみたいです」
「「「……」」」
……く、空気が重い。
まさかここまでの話とは思ってなかっただけに、どうして千世の父親はこんな曰く付きの別荘なんか購入したんだとツッコミを入れたくなってきた。
「……と、とにかく。そんな別荘なのですわ……何せ父上がこういった感じの曰く付き別荘購入が趣味みたいな方ですから……」
どんな父親だよ。
ようはただのオカルトマニアじゃね?
「……そろそろ大広間に着きますわ」
そんな怪談話に交えた千世の父親の話をしている内に、俺達は大広間に到着した。




