12,決意
「何が力がないだよ……何が規則だよ……そんなん守ってて、人を助けられると本気で思ってんのかよ」
「しゅ、瞬一、落ち着いて……」
「落ち着いてられるかよ!!」
なだめる葵だが、そんな葵を振り払って、瞬一は大和に突っかかる。
「春香は見て分かる通り、確実に弱ってるんだよ。そうなったら、誰がコイツのことを助けれやれる? 周りにいる俺達しか助けることが出来る人間はいねぇんだよ!! そして吉沢茜を呼んでくることが出来れば、ほぼ一発で何とかなる。それが出来るのは、『組織』に関係性のあるお前達二人しかいねぇんだよ……だったら、力がないだの、規則で無理だの、そんなこと抜かす前に、まずは友人救う前にやるべきことをやろうとするのが友達ってものじゃねえのかよ?!」
「僕だってそうしたいさ!!」
「「「「「!?」」」」」
その反論に、この場にいるどれだけの人が驚いたことだろうか。
今までに聞いたこともないような大和の言葉に、真理亜ですら驚いてしまった程だ。
構わず大和は瞬一に近付きながら答える。
「僕だって出来ることなら春香を助けてやりたい! 力が何だ……規則が何だ!? そんなの友達守る為だったら打ち破ってやらなくちゃならない壁じゃないか!! 一年後に釈放されるからそれまで待てと言われて、はいそうですかって素直に答えてやれるほど、僕だって人間出来ちゃいない……本当なら、今すぐにでも掛け合ってみて、吉沢茜をここに連れてきて、春香や校長のことを診て貰いたい所なんだよ!! けど……いくらそう思ったところで、物事には順序というものがあるんだ……これが僕達を邪魔する!! いつもいつも!! 順序が僕達を邪魔するんだよ!!」
「大和君……」
心配するように、真理亜が大和に言葉をかける。
しかし、大和はその言葉すら無視して、更に言葉を繋げる。
「君だって本当は分かってるはずだ……いや、分かってくれていると信じている!! たとえ助けたいと思っていたとしても……理不尽な壁によってそれが叶わなかった瞬間というのを、君も体験したことがあるはずだ!!」
「……俺達もあるぜ。瞬一が瓦礫の山の中に埋もれて行った時なんかが、そのいい例だよな」
瓦礫の山に埋もれた。
瞬一はかつて、そんな経験をしたこともあった。
それは一ノ瀬春香の兄の闇の力が暴走してしまい、それを止める為に奮闘した後……建物崩壊に巻き込まれ、一時期行方不明になるということが起きていた。
今回はその件とは関係がないので、ここで置いておくことにしよう。
「だったら……その順序を打ち破る努力だって……」
「……前に同じような事態に陥った時に、そうしようと思ったことがあって、やってみたんだ。けどその結果……返ってきた答えは『No』だった。下っ端である僕達の意見なんて、全然聞いてくれなかったんだ。だからあの日僕は思った……自分の意見を貫き通すのなら、偉くなるしかないってね!!」
「や、大和?」
思わず大地がそう声を出してしまう。
大和は更に続けた。
「偉くなって、意見を通せる程にまでなるしかない……正義だけでは駄目なんだ。誰かを守りたいという心だけじゃ、強くなることは出来ない……それなりの役職に着かなければ、どこかの組織に所属している上で、意見なんか聞いてもらえないからね」
「……」
若干ズレたような気もしなくもないが、とにかく大和の決意が、その言葉の中に秘められていた。
瞬一はそんな大和の決意を感じ取り、
「……分かった。今回は見送ってやるよ。けど、なるべく早く釈放してくれるよう、交渉だけはしてくれよな?」
「……分かってる。そんなことは、最初からしようと思ってたところだ」
瞬一の言葉を聞いて大和がそう答えた後、ベッドで眠る春香の顔を見る。
「……必ず僕達の手で助けてあげるからね、春香」
優しい声で、大和は春香にそう言った。




