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今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜  作者: 束原ミヤコ
第二章 マユラ錬金術店、開店します

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イネスさんの証言



 葡萄酒を飲みほし、羊の挽肉のパスタをもぐもぐ食べる。

 トマトの酸味と、羊肉の油の甘さ、香草がパスタによく絡んでいる。

 

「美味しい!」


 嬉しそうに食事をするマユラを、隣にいる兄がグラスを傾けながら穴が開くほど見つめている。

 視線がものすごく気になるが──気にしないことにした。


「気に入ってくれたようでよかったよ。美味しそうに食べてくれて嬉しいねぇ」

「美味しいです、イネスさん。全部美味しいですし、葡萄酒も美味しいです」

「それはよかったよ」

「ところで、イネスさん」


 食堂の客は、マユラたちで最後のようだった。

 ようやく手を止めて一息つきはじめたイネスに、マユラは本題を切り出すことにした。


「あの、お風呂に……」

「あぁ、石像の話かい?」

「知っているのですか?」


 あんなに堂々と風呂場にあって、まさか知らないことはないだろうとは思ってはいたのだが。

 イネスがあっさり頷いたので、マユラは少々面食らった。


「イネスさん、あの石像は一体なんですか?」

「この村のそばに、クイーンビーの生息地があるだろう? よく来るんだよ、冒険者が。それで、よく石化をするんだけど……」

「よくあるのですね……」

「なんでも、蜂蜜を取るのだとかなんとか。魔物の蜂蜜なんて、食べるもんかね。王都では高く売れるそうじゃないか」

「食わん」

「食べないのかい」

「食べないな。あまり一般には流通していない。多分、錬金術の素材として使うのだろう」


 ユリシーズが否定して、レオナードが説明をする。

 師匠は『食えるがな』と呟いた。


「風呂場の石像は、急に現れたんだよ。私も困っているんだ。石化をとこうにも、薬はないし。クイーンビーの森には石像がゴロゴロしてるよ。私たちはあんなところに近づいたりはしないけど、物好きが多くてね」

「そんなに石化を……?」

「近づくものが悪いっていえば悪いんだけどね。領主様やら、王都にも嘆願書を送ってみたらしいんだけど、小さな村からの手紙なんて、お偉いさんたちには届かないだろうし。今のところは音沙汰がないみたいだね」


 マユラが視線を送ると、レオナードもユリシーズも知らないようで、首を振った。


「あの、今まではどうしていたのですか?」

「皆、それなりに準備をしてきていたみたいだよ。石化をとく薬があるだろう? 村にも錬金術師がいて、売っていたりしてね。結構いい商売になったみたいだけど、今は、いなくなってしまってねぇ」

「……今から、一年ほど前か。原因が何かはわからんが、急に魔物が増えた。……あぁ、これは秘密だったな。秘密だ、マユラ」

「お兄様、思い切り聞こえてしまいました」

「やはり、そうなんだな。妙に魔物の討伐依頼が増えたと思っていたんだが」


 王家や騎士団という、国の中央で働くものたちだけが知っていることなのだろう。

 レオナードも知らなかったようで、腕を組んで、納得したように頷いた。


「それ、あたしが聞いてもいいのかい?」

「まぁ、秘密ではあるが、構わん。実際、被害が出始めているのに、民の声は騎士団に届いていないようだからな」

 

 イネスは感心したように「お兄さんは騎士団の人なんだねぇ」と言う。


「魔物が増えたために、貴族たちは優秀な魔導師や錬金術師たちを雇い抱えるようになった。そのため、在野で働くものが極端に減っている。元々、錬金術師自体数が少ない。特殊だからな。この村の錬金術師も、領主に呼び出しでもされたのだろう」


 確かに、錬金術師がいなくなったとマユラも聞いていた。

 王都に残っているのはフォルカの店だけで、錬金魔法具自体がほとんど手に入らなくなっていると。

 そんな事情だったのかと、マユラは心の中で呟いた。


「あぁ、そういうことかい。突然いなくなったから、どうしたのかと思ったら。領主様の呼び出しじゃあ逆らえないしね。そもそも、領主様はあたしらの嘆願書なんて目にも入れてくれていないだろうし」

「……この地域を預かっているのは、確か、アルヴィレイス伯爵だったか」

「そんな名前だったっけね、確か。あたしらにとっちゃ雲の上の人すぎて、顔も名前もよく知らないんだけどね」


 街の人々にとっては、領主などはそんなものなのだろう。

 実際、ヴェロニカの街でもオルソンの顔も見たことがないものの方が圧倒的に多く、名前も知らない場合がほとんどだった。


「師匠、私、石化除去薬を作れますか?」

『素材があればな。石化除去薬の素材は、クイーンビーの子供たち。軍隊蜂の毒針と、毒袋だ』

「なるほど」

「それならすぐに手に入るな」

「私がいるのだから、問題ない」


 レオナードとユリシーズが口を揃えて言った。

 なんとも頼もしい限りである。

 風呂場の石像も助けなくてはいけないし、石像にされた人たちがもっといるのなら、助けたい。

 

「いなくなった錬金術師さんの家に、錬金釜が残っているといいのですけれど……」

「それなら、残っているんじゃないかな。そのうち帰ってくるつもりで出ていったようだし」

「使わせていただけるでしょうか」

「あんた、錬金術師なのかい?」

「はい。まだ駆け出しですけれど」

「それは助かるよ! いつまでも石像を置いておくわけにもいかないし、嘆願書は届かないしで、村の皆も困っているんだ」


 イネスは両手を打って喜んだ。

 クイーンビーの蜂蜜採取が目的だったが、軍隊蜂も討伐して、石化除去薬を作ることもマユラの目的に加わったのだった。

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