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今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜  作者: 束原ミヤコ
第二章 マユラ錬金術店、開店します

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マユラ・グルクリム錬金術店の開店



 マユラは小箱を確認した。

 とても繊細なつくりになっており、指で蓋をスライドさせると中の薬が取り出せる仕組みだ。

 けれども頑丈で、どんなに振ってもひとりでに蓋がひらいたりはしない。


「絵付けをしたあとに、保護剤を塗ってあるわ。だから長く使えると思うわよ」

「ありがとうございます、ガレオさん。とても可愛いです、理想的な大きさですし、持ち運びにも便利ですね!」

「喜んでくれて嬉しい」

「ガレオさんとルメルシエさんに頼んでよかったです。レオナードさんも、お店を紹介してくださってありがとうございました」

「君が嬉しそうだと、俺も嬉しい」

「ふふ……さすがはレオナードさん、私もそういった言葉をさらりと口にできるように精進しなくては」

「マユラ、レオナードを見習うな。お前の魅力は私だけ理解していればいいのだ」


 自分の描いた絵が描かれている小箱を手にして眺めながら、ユリシーズが言う。


「お兄様も、ありがとうございます。おかげでとても可愛い商品ができあがりました」

「私とお前の共同作業だな、マユラ。つまりこの箱は、私とお前の赤子のようなもの。私がすべて買い取ろう」

「違います。困ります。これはポーションケースなので……ガレオさん、お約束の二万ベルクをお支払いしますね。お安い気がするのですが、いいのですか?」

「いいのよ。うちとしても久々に楽しい仕事だったわ。もちろん武器を鍛えるのも楽しいけれど、こういう可愛い小物、作りたかったのよね。マユラちゃんのお店、うちにくる騎士や傭兵たちにも教えておくわね」

「助かります」


 マユラは、マユラの代わりに金を払おうとする兄と若干の攻防を繰り広げながら、代金を支払った。

 アンナがポーションの入った瓶をふわふわ浮かせてやってくる。


「マユラちゃん、せっかく二種類あるのだから、質のいい高級ポーションがルージュで、普通のポーションが師匠にしたらどうかしら」

「いいですね」

『逆だろう? 順当に考えて逆だろう。私が高級だろう』

「……確かに、王冠を被っているから師匠が高級? でも、極楽鳥も縁起がいい鳥ですから、ルージュが高級でも」

『私が、高級だ』

「うーん……解熱のポーションとの差はどうしましょう」


 現状あるのは、解熱のポーション、普通の治療のポーション、それから高級治療のポーションである。


「解熱のポーションと治療のポーション、両方欲しい者もいるだろうし、ポーションと箱にそれぞれ値段をつけるのはどうだろう?」


 レオナードの提案に、マユラは頷く。


「確かにそうですね。ポーション自体に箱分の値段も加算して、ポーションを購入したら箱がつくという形にしましょうか。箱を購入後に持参をしたらもう少し安価にするという形に」

「うん、いいと思うわ。お客様には、店番のアンナさんが説明すればいいのね。嬉しいわ、私、可愛い雑貨屋さんをやってみたかったの!」


 アンナが空中で嬉しそうにくるくる回る。

 ガレオは「マユラちゃんのお店には幽霊までいるのね。多様性の時代ね」と感心したように言って「発注したいときはまた言ってね」と微笑む。

 

 マユラはガレオに、可愛い小箱を作ってもらった礼に高級治療のポーションと解熱のポーションを詰め込んだ師匠柄の薬箱を渡した。


「ありがとう、マユラちゃん。ありがたく使わせてもらうわね」

「はい。マユラ・グルクリム錬金術店を、どうぞよろしくお願いします。ルメルシエさんとガレオさんの注文も、作ることができるようになったらご報告しますね」

「炉の温度を安定させるものと、お腹いっぱいになる栄養剤と、質のいいハンマーと、しゃべる人形ね。楽しみにしているわ」


 マユラは瞳を輝かせながら頷いた。せっかく期待してもらっているのだから、期待には、応えたい。

 ガレオを見送ると、アンナがさっそく玄関を店頭に改造していた。

 元々広い家なので、玄関のエントランスだけでも十分な空間がある。そこに、テーブルを置いたり、ポーションの瓶や小箱を並べたりしている。


「まだ品物はこれだけだけれど、これから増えると思うと、もっと可愛くしたいわねぇ」

『錬金術店に可愛さなどは必要がない。そもそも、錬金魔導具は可愛いものではない』

「雑貨は可愛いほうがいいもの。ね、マユラちゃん」

「そうですね、アンナさん」

『錬金魔法具は雑貨ではない。危険なものも多いのだぞ。お前がこれからつくろうとしている、魅惑の糖蜜も、そうだ』


 店開きの支度をアンナに任せて、マユラは出かける準備をすることにした。

 傭兵団に届ける分のポーションをいくつかの薬箱にとりわけて、それを布袋に入れる。


「魅惑の糖蜜?」


 ユリシーズが首を傾げる。元々ユリシーズは錬金術師を嫌っている。そのため、あまり錬金魔法具については詳しくない。


『相手の心を恋愛的に支配する錬金魔導具……つまりはまぁ、媚薬だな』

「マユラ。……まさか、私のために」

「何故そこで自分のためだと思うのですか、お兄様。違います、本当に、まったく、全然違います。レオナードさんのために」

「死ぬか、レオナード」

「いや、その、なんというか……もうしわけない」


 兄がいるとややこしい。

 出かける準備ができたころには、アンナはすっかり開店の準備を整えていた。

 並んだテーブルに、集金用の金属皿。瓶詰のポーションに、籠の中に入っている薬箱。

 そして、店番の──ルージュ。

 ちょこんとテーブルの上にルージュが乗っている。


「ルージュ、働いてくれるのですか?」

「ぴ!」

「そうなの。私、ほら、家事もしなきゃでしょう? マユラちゃんが住みやすいお家にするために、まだまだ色々忙しいの。それで、お客様が来たらルージュに、ぴー! って、鳴いてもらおうと思って」


 アンナが両手を胸の前であわせて「いい考えでしょう?」と得意気に言った。


「ベルの代わりということだな」

「ベル―ジュ……」


 感心したようにレオナードが言う。

 マユラは笑いながら、ルージュの頭をよしよし撫でる。


「マユラ・グルクリム錬金術店、開店ですね!」


 ちょうどよく、昨日ニワール鳥の鳥小屋を作った時にあまっていた木板がある。

 マユラが文字を書き、兄に小さく師匠とルージュの絵を描いてもらう。

 簡易的なものにしては、なかなか可愛く、そしてこころが和むしあがりになった。


 看板をかけると、店、という感じがする。


「おめでとう、マユラ」

「マユラ、開店祝いに後日花を届けよう」

「ありがとうございます、レオナードさん、お兄様」

『……錬金術師としてはまだまだだが、この短期間でよくやっている』

「師匠のおかげです」

「マユラちゃん、可愛いお店にしましょうね!」

「はい、アンナさん、とても頼りにしています」


 思いがけず賑やかな店開きとなった。

 ──王都に来た時は、たった一人きりだったのが嘘のように。



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― 新着の感想 ―
師匠の言葉がちょっとほっこりしました
マユラ、開店おめでとう!
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