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今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜  作者: 束原ミヤコ
第二章 マユラ錬金術店、開店します

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男たちの扱い方



 マユラは兄が届けてくれた素材を確認した。

 近隣のシダールラムを狩りつくしたのではないかというぐらいの多量の氷結袋。

 そして、まるで葡萄のように連なるおいしそうな生命の雫。

 黄金キノコも多量にある。


「お兄様は……ポーションの素材について調べて、素材を集めてくれたのかしら」


 錬金術師など、ペテン師のようなものだと言って憚らなかった兄だというのに。

 これはきっとマユラに対する謝罪なのだろう。今までごめんなさいという、兄にしては最大限の謝罪だ。


 マユラはその謝罪をありがたく使用することにした。


「ルブルランの葉は庭にはえていますから、とりに行きましょう」

「マユラちゃん、そんなことなら私がやってあげるわよ。ルブルランの葉って、どれのこと?」

「これです。この、緑と黄緑のまだら模様のハート型の葉っぱですね」


 マユラはアンナに葉を見せる。アンナはマユラの隣でふわふわと浮かんでいる。

 ルージュを肩に乗せたレオナードが、「何か手伝うことはあるか?」と錬成部屋から出てきた。


「レオナードさんは、探索の時にお手伝いをしてくださればいいので、ゆっくりしていてください」

「そういうわけにはいかないわ、マユラちゃん。私、気づいたの」

「気づいたって、何にですか?」


 アンナはレオナードを見て、それからすぐに顔を背けた。「男だし、呪われているわ。怖いのよ、苦手だわ」と言いながら。

 幽霊が呪いを怖がるというのも妙なものだ。


「私、今まで夫を甘やかしていたのね。部屋は清潔にしていたし、お料理も頑張ったわ。あなたは外で働いているのだから、何もしなくていいのだと、いつもにこにこ、にこにこしていたの……!」

「それはいい奥さんですね」

「そうでしょう!? でもね、それってつまり、男を調子づかせて、堕落させる行動なのよ!!!!」


 ものすごく力強く、アンナが言う。

 マユラは「わぁ」と驚き、レオナードは苦笑した。師匠は『うるさい』と、不愉快そうにしている。


「だからね、マユラちゃん。一緒に住む以上は、レオナード君にも働いてもらわないといけないわ」

「俺は構わないけれど。今も一人暮らしだし、料理や洗濯や掃除などは自分でしているよ」

「……ふーん。そうなの。少しは見どころがありそうね。少なくともマユラちゃんの結婚相手としては、ぬいぐるみの猫や、変質者気味なお兄さんよりはいいわ。呪われているけれど」

「アンナさん、レオナードさんとはそういった関係ではありませんよ」


 オルソンとの結婚生活のせいで、恋愛はこりごりだ──と思っているわけでもないのだが。

 なんせ、マユラは恋愛のれの字も経験していない。

 いずれそういう相手が出てくるか来ないかはわからないが、積極的に恋愛したいわけでもなければ、したくないというわけでもない。

 だが今は、まずは錬金術店を開くこと。ルメルシエの依頼を達成すること。それから、レオナードの呪いをとくこと。やることが多すぎる。


「そんなこと、言わないで、マユラちゃん。私、私はね、子育てができなかったの。だからね、マユラちゃんの子を育てたいのよ!」

「あ、アンナさん、気持ちは嬉しいですが、落ち着いて」

『子供を欲しがる新手の魔物のようだな』

「師匠、静かに……! アンナさんは傷ついているんですから!」

「マユラちゃん、子供を、うんでね……」


 情緒不安定な幽霊の、触れることのできない背中をぽんぽんと叩きながら(手はアンナの体を貫通するので、叩いているふりである)マユラはアンナを励ました。


「ともかく、ええと、レオナードさんにも手伝ってもらったほうがいいということですね」

「そうなの。マユラちゃん、ルブルランの葉は私に任せて。レオナード君と師匠は、ニワール鳥を捕まえてちょうだい。それから、ニワール鳥を閉じ込める、よい鳥小屋を作ってちょうだい」

「わかった。鳥小屋を作って、鳥を捕まえればいいんだな」


 レオナードが、ニワール鳥を『鳥』と呼んでいる。

 マユラは若干不安になる。レオナードにとっては、極楽鳥のルージュも、ニワール鳥も同じく『鳥』である。

 まぁ、さすがに、一般的に流通しているニワール鳥を間違えることはないだろう。

 それに、裏庭に、他の鳥がうろうろしているとは思えない。大丈夫なはずだ。


『何故私がそんなことをしなくてはならん』


 マユラの手から逃れて、ソファの上に寝転がろうとする怠惰な師匠の体を、マユラはぎゅっと掴んだ。


「それは、家族だからですよね。ね、アンナさん」

「そうなのよ」


 マユラが言うと、アンナは嬉しそうににっこり微笑んだ。


 裏庭に出ると、草の生い茂っていたその場所は、アンナの手によってすっかり綺麗になっていた。

 井戸があり、畑がある。柵はあった形跡があるのだが、こちらはぼろぼろだった。


 広い空間の奥には小道があり、林が広がっている。林を抜けると、海を見下ろす崖があり、行き止まりになっている。


「ルブルランの葉ね、一気に集めちゃうわ」


 アンナが両手を広げると、庭のそこここに生えているルブルランの葉が、ずぶりと根っこから抜けて浮かび上がった。

 生命力が強くどこにでもはえている葉ではあるのだが、浮かび上がってどさどさとマユラの前に落ちてくる。


 両手いっぱいの葉を前にして、マユラは驚いて目を見開いた。


「わぁ、すごいですね、アンナさん!」

「ふふ……でしょう? 死んでから、大魔法使いになった気分だわ」

『お前程度が、烏滸がましい』

「師匠は今はただの猫ちゃんじゃない。マユラちゃんの役に、私のほうが立っているのよ」


 ふふんと得意気にするアンナに、師匠は苛々と腕を組んだ。


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― 新着の感想 ―
アンナの物言いがどストレートで的確で最高です。 毎回、楽しいお話をありがとうございます(^^)
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