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今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜  作者: 束原ミヤコ
第一章 マユラは錬金術師になることにした

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解熱のポーション



 深い傷が綺麗に塞がり、痛みもすっきりなくなった。

 マユラは痛みがひいた腕をぶんぶん振って「治りましたよ、師匠!」と嬉しそうに笑った。


『確かに私は魔法とは想像であると伝えたが』

「すごいな、マユラ。はじめてで成功するとは。俺には魔法のことはよくわからないが、見習い兵士が初任務を無事に終えて帰還したようなものなのだろうね」

「ふふ、そうなんでしょうか。さぁ、解熱のポーションを作って、ニーナちゃんに届けましょう」


 治療のポーションと、解熱のポーションの違いは、氷結袋が入っているか否かだ。

 さきほどと同じ要領で、マユラは錬金釜に素材を入れていく。


 ひんやり冷たい、雪の結晶をまとったこぶし大の丸くてぷにぷにしたものを錬金釜に入れて、最後に黄金キノコを入れると撹拌棒で混ぜる。


 魔力を注ぐと、素材が溶け合い、中で混ざり合っていくのがさきほどよりもよく分かる。

 虹色の水面からぷかりと浮かび上がったのは、今度は猫ちゃんではなくて小さなうさぎの形をしたラムネ菓子に似た赤い薬だった。


「解熱のポーション、完成です! 一つだと心許ないですから、いくつか作って届けましょう」

『……菓子にしか見えないがな。マユラ、量を増やしたければ単純に、素材を多く入れればいい。試してみろ』

「はい!」


 今度は五個分の素材を入れて、錬金釜の中でかき混ぜる。

 ぷかぷかと浮かんできた五個の錠剤を取り上げて、マユラは小さな袋の中にそれを入れた。


 最初にできた一粒を試しに口に入れてみる。

 カリッとして、しゅわっととけるのは同じだが、氷結袋が入っているせいか、後味が少しひんやりした。


「美味しい。熱がないのでわかりませんが、体が少しすっきりした気がしますね」

『薬が菓子のように旨くてもな……まぁ、成功したことについては褒めてやろう』

「きっと君には才能があるんだな、マユラ」

『初歩のポーションで才能云々はわからんが、適性は高いのだろうな』


 マユラは師匠とレオナードを連れて、家を出た。

 ついでにニーナに心配をかけるといけないので、ワーウルフによって無残に腕の部分が引き裂かれてしまった服も着替えた。


 わだつみの祝福亭に向かうと、ニーナがすぐに気づいて駆け寄ってきてくれる。

 今日はまだ店を開いていないのか、客の姿はない。

 ニーナは誰もいない食堂の中を、一人で掃除をしているようだった。


「お姉さん、こんにちは! ぬいぐるみさんも! レオナお兄さんもこんにちは!」

「ニーナちゃん、こんにちは」

「ニーナ、久しぶりだな」

『ぬいぐるみさんではない、アルゼイラ様だ』


 マユラたちが挨拶すると、ニーナは「お姉さん、腹話術が上手なのね」と笑った。

 腹話術ではないことを説明すると、ニーナは疑問符をいっぱい浮かべた表情で目をぱちぱちさせていた。

 ぬいぐるみの中に師匠の魂が入っているのだと言われても、ニーナにはよくわからないだろう。


「ぬいぐるみさんは、ぬいぐるみさんじゃないってことなのね。お姉さんはしゃべるぬいぐるみが作れるのね、すごい!」

「ええと……そういうことにしておきますね。アルゼイラ師匠といいます。師匠と呼んでくださいね」

「ししょー」

『まぁ、いい。それで、熱を出している男はどこだ』

「お父さんは二階で寝ているわ。あんまり、具合がよくないみたい。今日はお店をお休みにして、お母さんが傍にいるの」


 マユラはレオナードと顔をそっと目配せした。

 店を休むほどに、グウェルの状態はよくないのだろう。

 

「案内してくれますか、ニーナちゃん」

「もちろん!」


 わだつみの祝福亭の二階は、ニーナたち家族の居住空間になっている。

 階段をあがり、二階の一室にニーナは案内してくれた。

 扉を開くと、夫婦の部屋なのだろう、ベッドが二つ置いてある。

 その一つに男が眠っている。

 体格のいい、顔の周囲にぐるりと髭のはえた男である。

 熱が高いのだろう、ぐったりと目を閉じて、荒い呼吸を繰り返していた。


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