交通網
「カイル、どうしたんだ」
「アルス兄さん、見て。雪が降ってきたよ」
「お、ホントだな。もう冬になるしな」
カイルと一緒に窓の外を見ながら雪が降り続けているのを見ている。
こうして、ゆっくりと過ごせることになるとは思わなかった。
なんといっても、今年はフォンターナ軍とドンパチやりあったのだ。
最初に兵士に手を出したときには、もうこの村にはいられないかと思ったものだ。
それがこうして土地を治める騎士にまでなるとは考えもしていなかった。
結局、今年はカルロスからの無茶振りはなかった。
いや、何度か招集がかかったことはあるのだ。
フォンターナ領にいる勢力のなかで当主であるカルロスに反抗的な態度をとったものがいたからだ。
カルロスは各地に人を出していて、反抗勢力が怪しげな素振りを見せたら即座に招集をかけてそこを叩きに行ったのだ。
当然、俺にも声がかかり、あちこちに出かけていった。
だが、ほとんどの場合は直接的な戦闘行為には至らなかった。
というのも、俺達バルカ勢がかなり働いたからだ。
レイモンド一派をはじめとする反抗勢力のいる土地へと急行し、そこに至るまでの道を作り上げる。
さらに、相手の治める土地への要衝となる場所を陣取って僅かな時間で高さ10mの壁で囲まれた陣地を形成するのだ。
続々と集まってくる兵と、日毎に大きくなる陣地。
そんなものを見せられてなお反抗しようとするほど愚かなやつはあまりいなかった。
まあ、中には例外もいたのだが。
だが、それはカルロスが陣頭にたって蹴散らしていた。
なにかあるたびに呼び出されてしまうのは考えものだが、悪い点ばかりではない。
というのも、こうしてフォンターナ領内に出かけていって道路を作ったおかげでかなりものの流れが良くなったからだ。
というか、今までが悪すぎた。
ろくすっぽ整備されていない道ばかりなのだ。
よほど大きな街と街をつなぐ道路以外は非常に移動しにくい道路ばかりだった。
それが改善したおかげでフォンターナ領内の流通スピードが上がったのだ。
結局、最終的には窓ガラス作りも呪文化した俺は、領内でレンガやガラス、魔力茸や紙などを販売して儲けを出している。
だが、あくまでも一番北の果てに存在するバルカ騎士領に商人は集まりにくかった。
いくら自由市を開いても最初におっさんが言っていたように移動時間と関所の通行料で大きな利益が得にくかったからだ。
しかし、反抗勢力がいた土地ではカルロスに従う条件として通行料を免除することを約束させた。
というか、俺がそうなるようにカルロスに頼んだのだ。
各地の道路の集合する場所はフォンターナの街になるので、カルロスの根拠地も絶対に儲かる、だからこの条件を守らせてくれと言って。
本当に効果が出るか疑わしそうにしていたカルロスだが、結果的に現在ではフォンターナの街は以前よりも活気に満ちている。
と、まあこんなふうに駆り出されるといっても道路工事くらいなもので、俺たちには被害というものが出ずにすんでいるのだった。
それもこの冬の間はなくなるだろう。
このあたりは冬になると雪が積もるし、食べ物も取れない。
冬を越すためにあらかじめ備蓄しておいた食べ物を使って、冬眠するかのように過ごすのが一般的なのだ。
軍事行動などもっての外である。
「あー、でもこういう気温になると風呂に入りたくなるよな。温泉でゆっくりしたい」
「風呂? 温泉? アルス兄さん、それってなに?」
「ああ、カイルは知らないのか。【洗浄】を使えば風呂に入る必要もないもんな。温かいお湯に体を入れて温もりたいんだよ」
「ふーん、変わったことがしたいんだね」
ほっとけ。
前世の記憶があるからか、たまに無性に風呂に入りたくなるのだ。
といっても、この世界は生活魔法の【洗浄】があるためかそういう風習がないらしい。
まあ、必要ないし、俺もこれまで生きていくのに必死で風呂に入ろうなどとは思いもしなかった。
だが、こうして領地経営を始めることになっていろいろと気疲れも出てくるのだ。
ここらでひとつ、心の洗濯ともいわれるお風呂に入りたいのだ。
「キュー」
「ん? どうした、ヴァルキリー」
「キュー、キュー!!」
と、そこでヴァルキリーがいきなり変な行動に出た。
俺とカイルが話している間に割り込んできたかと思うと、いきなりキュウキュウ鳴きながらその口で俺の服を引っ張るのだ。
なんなんだ、いったい。
「どうした? なにかあるのか?」
「キュ〜」
俺がヴァルキリーに尋ねると嬉しそうに首を縦に振り、足を曲げて姿勢を下げてきた。
もしかして、乗れってことだろうか。
そう思った俺はヴァルキリーの体をなでながら、さっとその背に乗り、またがる。
「うーん、この寒いのに走りに行きたかったのか、ヴァルキリー」
「キュキュー」
俺が背に乗ったことを確認するとヴァルキリーが嬉しそうにしながら起き上がり、移動を始める。
いったい、どこに行こうというのだろうか。
俺は雪が降るなか、ヴァルキリーに連れられて走り始めることになったのだった。
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