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さらなる加熱

「占いの結果が出ました。現在の魔道具取引価格はいずれ暴落するでしょう」


「ま、そうだろうね。シオンの言うとおりだと思うよ。っていうか、そんなことよりなんでこの街にトラキア一族の長であるシオンがいるのかってことのほうが重要だと思うけど」


「問題ありません。兄から許可を得ています。我らトラキア一族は森に生まれ森で生きる一族ですが、外で見聞を広げることも大切だからです。私は今まで森からあまり出たことがなかったので、こうして外に出ることになったのです」


「いや、だからって俺についてこなくてもいいんじゃないか? まあ、いてくれてもいいんだけど」


 オリエント国にある俺の家。

 そこにはなぜか影の者と呼ばれる刺客の一族の長の片割れがいる。

 シオンだ。

 彼女と彼女に付き従う何人かの者たちがこの屋敷で生活している。


 この屋敷は新しく購入し、俺の家として使っているが、いつの間にやらここがトラキア一族の拠点みたいにもなってしまっている。

 この街で活動していた影の者が身を休める場所の一つとして使われているのだ。

 まさか、工房に来ている職人たちもここに刺客が詰めているとは思いもしていないのではないだろうか。

 シオンいわく、今までもオリエント国には活動拠点はあったが、ここのように都市中心部に位置するこの地区ではなかったので助かるとのこと。

 まあ、影の者たちが他の者の手に渡るよりは俺のそばにいてくれたほうが助かるのは間違いないだろう。

 なので、ここに住むこと自体はそこまで気にしていないし、出ていけともいう気はない。


 そんなこの家に住むシオンは占いをしていたようだ。

 どう使うのかはよく分からないが、長い棒をいくつも持っていてじゃらじゃらとしてから机の上に散らばせて未来を占っている。

 それを見ていても、俺にはなにがなんだかさっぱりだが、シオンには未来が読み取れるのだそうだ。

 そして、占いを終えたシオンが言った。

 魔道具価格が暴落する、と。


 俺もそんな気はする。

 この熱狂状態に夢中になっている奴らは、まだまだこれからもこの事態が続くはずだと感じているのかもしれない。

 が、いくらなんでも金額が上がりすぎているだろう。

 今はもうすぐ冬も終わり、春がやってこようかという時期だろうか。

 アイが工房で魔法陣について教え始めてからそれなりの期間が経過したが、その間、ずっと値上がりし続けている。


 年明けごろには金貨十枚以上でやり取りされ始めていたが、現在では初売り品はそのとき以上の金額で買い取られているのだそうだ。

 そして、それが更に他の者へと高く売られ、そこからまた別の者の手に渡ることとなる。

 最終的には金貨千枚を越える値が付いたものもあるという噂すら流れている。


 ちょっと意味不明だろう。

 普通の人間にとって金貨一枚だって十分大金なのだ。

 この国で高い技術を持つ職人や大店の商人などなら、十枚や二十枚を支払うことも可能かもしれないが、それでも千枚になると多すぎる。

 一個の魔道具、しかも下手をしたら動きもしない物にそれだけの大金が動くのは明らかに異常事態だろう。


 だが、それでもなぜそんなことが実際に行われ、そしてまだ続いているのかについては理由がある。

 それは前年にあった大嵐が関係しているのだ。

 これまでの嵐よりも更に強い大嵐で各地で被害が出た。

 俺はと言えば先物取引でそれなりにいい儲けが出たが、ほかの多くの者たちにとっては違う。

 かなり損害を出した者がいる。

 それは職人であっても商人であっても、村民であってもそうだ。


 その時の損はそれまでの生活をぶち壊すに足るほどの威力だったのだろう。

 なんとか、その損害を耐え抜き、ギリギリで生きていた連中。

 そいつらの前に、急に新たな儲け話が舞い込んできたのが、今回の魔道具流行だ。

 自分たちの周りでも上手くもうけを出して大金を手に入れた者が現れ始めたことで、前年に損を出していた連中は一発逆転の可能性に飛びついた。

 そして、いまのところそれはうまくいっている。

 というか、魔道具相場に手を出した連中のほとんどが資産を増やすことに成功しているのだ

 だって、魔道具の値段は上がり続けているのだから。


 たとえ借金してでも魔道具を買えば、時間が経つほどにその評価は高まり続けていく。

 持っているだけで、値段が上がっていくのだ。

 買わなければ損というのはここからきている。


 それに、取引の仕方もさらに改良されていることが加熱の原因になっていそうだ。

 借金以外でも、魔道具の購入に際して購入金額の十分の一以下の担保金さえ用意できればあとは証文さえあればいいという方法が出たかと思えば、さらにそこから発展しているようだ。

 どうやら所有権分割購入という方法もあるようだ。

 一つひとつの魔道具の価格が高騰しすぎてしまったがゆえに、ひとりで買うのではなく何人かで分割して買うという方法だ。

 ただ、この分割購入はなかなかの曲者で、知り合い同士で出資して買うというわけではない。

 見知らぬ人と分割して購入するということになっているそうで、その魔道具の所有権の一部を持つことになるだけで、手元に実物の魔道具がわたってこないのだそうだ。


 さすがに、そんなものは職人たちは研究材料にもならないので買わないが、金儲けだけが目的の人間にとってみれば実物はもはやいらないのだろう。

 限定された所有権だけでも、それに価格がついて取引できればいいということらしい。

 そんな分割購入以外にも、俺にはよく理解できない購入方法が最近は導入されているそうだ。

 儲けるためならいろんなことを考えるやつがいるものだと感心してしまう。


「暴落はいつだと思う、シオン?」


「今すぐに、というわけではないかと思います。もうしばらくはこの熱狂が続く未来が見えました」


「やっぱりか。いろんなかわった購入方法が開発されてからは、オリエント国以外のお金も流れ込んできているみたいだからな。シオンの言うとおり、もうしばらく続くのかもしれないね。まあ、いずれこれも終わるだろうけど」


「この異常な熱狂が終われば、どうなると思いますか?」


「……さあ、ね。占いのとおりに暴落するんなら、金貨千枚以上の品物がある時突然に銅貨一枚以下になるかもしれないってことだもんね。大混乱が起こるんじゃないかな?」


 まあ、とはいえまだ大丈夫だろう。

 ほかの小国からもこの儲け話に飛びつく奴らが出てきている。

 あとから参入してくる者がいるならば、もうしばらくはこの流行も続くんじゃないかと思う。

 ただ、そんな新参者がいなくなった時にどうなるのかは分からない。

 まあ、俺自身はそんな馬鹿げた金額で魔道具を買ってないから大損害が出ることはないだろう。

 ときどきシオンにこのことを占ってもらいながら、しばらくは経過観察することにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 17世紀のオランダで起きたチューリップバブルを彷彿とさせますね。市場崩壊待ったなしです。
[良い点] (リアル)人類の歴史って凄いですよね 後知恵ながらなんでこんな危険な真似できるんだろうって事を思い付いて実行できてるわけですし……
[一言] シオンちゃんとアルフォンス君が同棲…もとい同居!? お兄ちゃんの心境はいかに
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