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軍事会議

「だからさ、そんなんじゃ駄目だって。もっと攻撃しにいかないと勝てないだろ」


「いつまでそんなことを言っているんだ、バイト。俺たちは城を作る力がある。もっと守りに力を入れるべきだ」


 城下町と外壁周りの工事を終えたあとのことだった。

 今度はグランの言う権威を示すことのできる城のことを考え、どうするかを悩んでいるときに騒々しい話し声が聞こえてきた。

 誰だと思ってみてみると、バイト兄とバルガスがかなり白熱した様子で話している姿があった。


「どうしたんだ、ふたりとも」


「あ、アルスか。聞いてくれよ。もし今度戦があったらどう戦うかってバルガスと話してんだけど、こいつ守りがどうたらとかばっかり言うんだよ」


「何いってんだ。大将からもバイトに言ってやってくれ。訓練してるときも突撃攻撃ばかりしようとして危なっかしいんだよ」


 どうやら、ふたりで戦術の話でもしているようだった。

 このふたりにはいざ戦いが始まったときに隊長格を務めてもらうつもりで、普段から農民たちを集めて訓練したりしてもらっている。

 だが、そのふたりの考えが真っ向からぶつかっているようだ。

 さすがにこれを放っておくわけにもいかないだろう。

 俺はバイト兄とバルガスと一緒にテーブルで飲み物を飲みながら、話を聞くことにしたのだった。




 ※ ※ ※




 それぞれの話を聞いてみたところ、どうもバイト兄は攻撃重視で、バルガスの方は守り重視という印象を受けた。

 だが、実戦を何度も経験しているバルガスはともかく、バイト兄は危なっかしい感じがする。

 というのも、この間のフォンターナ軍との戦いが関係しているらしかった。


 俺にとって初陣となったフォンターナ軍との野戦だが、それはバイト兄にとっても同じだった。

 はじめての戦場というのは異様な雰囲気に包まれていた。

 いつ誰が死ぬかが分からないという尋常ではない状況で、敵となった相手に武器を振るい切り捨てる。

 このとき、相手のことをかわいそうだなどと思っている余裕はない。

 おそらくそんなやつはあの戦いで死ぬか大怪我をしていただろう。

 俺もそうだ。

 最初の突進のときに異常なほどテンションが上ってしまった。

 だが、それがあったからこそ前世では経験したこともない戦場で臆することなく動けたのだと思う。


 それは俺以外も同じであり、当然バイト兄も同様だったのだろう。

 明らかに自分たちよりも実力も人数も多いという相手に対して、結果として勝利する事になった。

 バイト兄はこの勝利が成功体験として脳に刷り込まれてしまったのではないだろうか。

 あのとき、突撃攻撃をしたから勝てた。

 ならば、次も同じ攻撃をすれば勝てるはずだ。

 そう考えるのはごく普通のことだろう。

 なにせ、バイト兄も強いとはいえまだ子供なのだから。


 しかしだ。

 俺はそこまであのときのことを成功体験だとは思っていなかった。

 ぶっちゃけてしまえば、あのときのように人数差という不利を背負っての突撃攻撃なんて二度としたくない。

 あのとき突撃攻撃をしたのはあくまでもそれが必要だと考えたからだ。

 こちらが農民の集団でありながら全員魔法が使えるという条件と、ヴァルキリーという隠し玉があるという条件。

 その前提条件で一度の野戦で相手に大ダメージを与えるために、あえて危険な突撃を選んだだけだ。

 なんとしても相手の頭を確実に潰すためにとった行動、それが突撃攻撃だったというだけなのだ。


 結果論だけでいえば、この選択は成功だったと思う。

 無事に相手のトップであるフォンターナ家家宰のレイモンドを討ち取り、それが結果としてカルロスとの利害関係と一致して許されることになった。

 あのとき、川北の陣地で籠城戦をしていたりという待ちの戦術を選んでいたら、よくて相手の攻撃に耐えるだけで、カルロスとの交渉は実現しなかったか、実現してもまともに相手にされなかった可能性がある。

 和睦できたとしても今と同じ条件というのはあり得なかった。

 まあ、あとから考えたらあの突撃攻撃は間違った選択ではなかったということだろう。


 しかし、バルガスのいう守備重視も微妙な感じがする。

 というのは、バルガスは短期間での城造りが可能なバルカ軍として、戦場でも築城を行ってそれを防衛に利用する訓練を重視したほうがよいという意見だったからだ。

 だが、その選択はありえない。

 俺がおかれた状況ではその戦術は戦略的にアウトだからだ。


 カルロスとの直接交渉によって許され、あまつさえ配下としてバルカ騎士領を治める権利をもらったが、この立場は砂上の楼閣といってもいいだろう。

 基本的にはこれまでのフォンターナ家はレイモンド一派が勢力を占めており、カルロスの立場はまだまだ盤石ではない。

 一応まとまっているらしいが、フォンターナ家の家臣の中では俺はおそらく毛虫のように嫌われていることだろう。

 いきなり出てきたポッとでの農民出身の騎士が一足飛びに領地を任され、でかい顔をしていれば当然だと俺も思う。

 レイモンドと親密な関係があった奴らにしてみれば、憎き仇というべき存在でもあるわけだ。


 もしかりに、今フォンターナ家が他の貴族と戦闘状態に入った場合どうなるか。

 カルロスは即座に招集をかけて戦を行うだろう。

 そこには当然俺も参戦せねばならない。

 もし、招集を無視しようものならそれを理由に今度こそ罰せられるからだ。


 で、その戦場で築城を行って籠城しようとしたらどうなるだろうか。

 はたして俺以外のフォンターナ家の騎士たちは籠城している俺を助ける動きをしてくれるだろうか。

 正直なところ、そんな状況になれば見捨てられる未来しか見えない。

 バルカ軍が防衛しているスキをついて敵の背後をとろうとしていました、と言われてしまえばそれでおしまいだろう。


 防衛戦ができるに越したことはない。

 だが、防衛戦をメインに日々の訓練を行うのはナッシングだ。

 そんなことをしていたら、いつか戦場で捨て駒として命を落としてしまう。


 こう考えると、結構条件が厳しいな。

 バルカ騎士領を手に入れてから、必要に迫られて経済改革や街づくりをしていたが、もっと軍事方面にも目を向けておく必要があるだろう。

 俺は改めて、今後のバルカ軍についてどうするかをバイト兄とバルガスに状況説明しながら話し合ったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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