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追跡

「悪いね、村長さん。これ、お詫びの品ってことで」


「え、いいのですか? このように貴重な品をいただいても」


「いいよいいよ。迷惑かけたからね。ただ、できればこの村の人たちには今回のことはしばらく他言無用に言い含めておいてもらえると助かるかな」


「分かりました。それくらいお安い御用です。私が責任をもって言って聞かせておきましょう」


 村で起こった刺客襲撃事件。

 それは、刺客の死という形で幕を閉じた。

 結局、ほかに刺客らしき者は傭兵の中にはいなかった。

 村人は分からない。

 ここはもともとバルカ教会とかなかったしな。

 俺が血の楔を行えば、裁判という形で刺客を見つけ出せるかもとは思ったが、そこまではしなかった。

 村と言ってもそれなりに人数がいるから、いちいちそんなことしていられないし、それこそ刺客を近づけさせることにもなってしまう。


 なので、さっさと食事を済ませて村を出ることにしたというわけだ。

 びびりまくっている村の連中を無視して食事を平らげて出発だ。

 その最後のあいさつで、俺は村長に鍋型魔道具を渡したのだった。


 刺客がこの村に現れたことを誰にも言うな。

 村長にはそう言って、村人たちにもそれを守ってもらえるようにということでの贈り物だ。

 実際は、人の口に戸は立てられぬと言うし、不可能だろう。

 ただ、無意味ではないと思いたい。


 もし、本当にここに現れた刺客がさっきの二人だけなのだとしたら、刺客が失敗したことは誰にも知られていないということになるわけだ。

 これはまたとない機会だろう。

 手掛かりのなかった刺客がようやく姿を現してくれたのだ。

 今までみたいにこっちが襲われるのを待つのはもう終わりだ。

 今度はこっちから攻めていける。


(あいつらの血は吸わなくていいのか、アルフォンス?)


(とりあえず保留、かな。あいつが使ったのが魔法か魔術かが分からないからやめとこう)


 村長へのあいさつが終わり、村を出た際にノルンが思念を送ってきた。

 あいつらの血、というのは刺客の血のことだろう。

 ノルンはゼンやウォルターに化けてでた刺客の血を吸おうとしたのだ。

 だが、俺はそれをとめた。


 理由は影の者が使った擬態にある。

 あれが【流星】や【黒死蝶】のような魔術ならば別にいい。

 ノルンが血を吸ったことで俺がその魔術を使えるようになるからだ。

 得することはあれど損することは基本的にはないと思う。


 だが、魔術ではなく魔法だった場合がちょっと気にかかるのだ。

 というのも、ノルンが流星の血を吸った際に俺は【流星】が使えるようになり、そしてアルス兄さんの魔法の【整地】や【土壌改良】、【壁建築】なども魔法を覚えた。

 そして、それらの魔法は俺がほかの人に名付けをするとそいつらも使えるようになることはこれまでの経験でわかっている。


 つまり、ここで影の者の血を吸い【擬態(仮)】という魔法を手に入れた場合、俺が名付けをした元孤児たちや傭兵たちも【擬態(仮)】を使えるようになってしまうことになる。

 これはさすがにまずいだろう。

 いくらなんでも、新バルカ街などが大混乱になってしまう。

 というわけで、刺客が使った謎の技はそれがどういうものかが判明しない限り、血を吸いにくいという問題があったのだ。


 なので、ひとまず遺体だけは回収し判断を保留することにした。

 もっとも、時間が経過するほどに血の味が悪くなるとかでノルンが吸うことはないかもしれないが。

 ま、とりあえず今は現れた刺客の痕跡をたどることとしよう。


「隊を分けるぞ。柔魔木を新バルカ街に持って帰る隊と、刺客の本拠地を狙う隊に分けて行動する」


「追尾鳥を使うのですね?」


「キクの言うとおりだ。こいつらはもう息絶えているのにもかかわらず、姿がもとには戻っていない。魔法か魔術かは、それとももっとほかのなにかの技か道具かは分からないけど、これはすごいぞ。普通だったら、他人に化けたこの遺体からは身元を特定できないだろうからな。だけど、俺たちは違う。追尾鳥が臭いをたどっていける」


「そうみたいですね。じゃあ、刺客への攻撃はキク分隊が同行を」


「ちょっと待ってくれ、キク。俺に、俺たちにやらせてくれ。団長に恥ずかしいところを観られたんだ。汚名返上したい」


「ウォルターの言うとおりだ。あれだけ刺客が来るかもって言われていたのに、見事にやられた。眠らされた挙句に俺たちの偽物がアルフォンス団長に近づいていったんだ。このまま引き下がれないよ」


 これから行うのは影の者たちの痕跡を追うことだ。

 追尾鳥を使って臭いをたどることができる。

 だが、そこで問題となるのが柔魔木だった。

 グルーガリアの材木所で手に入れたこれらの木材は置いていくわけにはいかない。

 強力な武器の材料にもなるし、なによりも高価だ。


 というわけで、ここにいる隊を分けて、一つの分隊にはこのまま新バルカ街に帰ってもらうことにした。

 そこでキクの発言を遮ってまで手を挙げてきたのがゼンとウォルターだ。

 どうやら、眠らされてしまったことを反省しているようだ。

 このまま木材を運ぶだけでは終われないと息まいている。


 ま、そりゃそうだろうな。

 ぐっすりと眠っていた感じからしておそらくは睡眠薬を使われたのだと思う。

 だけど、これは防げたはずだ。

 睡眠薬を飲んだのか、吸い込んだのかは知らないが、【毒無効化】という呪文もある。

 この魔法は魔力を使って体にとっての毒となるものを無効化するアルス兄さんの魔法であり、実績もある。

 今回使われた薬も気を付けていれば大丈夫だった可能性が高い。

 だというのに、薬を盛られたということは警戒が足りなかったことの証拠でもあった。


「よし、ならキクは材木の運搬を頼む。これも重要な仕事だからな。しっかりと新バルカ街まで運んでくれよ」


「分かりました。それでは、柔魔木はキク分隊で運びます」


「ゼンとウォルターは分隊を率いて俺と来い。いい働きを期待しているからな」


「了解です、団長。任せてください」


「ありがとうございます、アルフォンス団長。俺の活躍、ちゃんと見ていてくださいよ」


 失態を取り返したいという二人の気持ちはよくわかる。

 なので、そのやる気をかってキクには運搬の仕事を引き受けてもらった。

 キクも戦場で活躍したいと思っているはずだが、そんなことは微塵も外見にあらわさずに了承してくれる。


「それじゃあ、行きますか。追尾鳥、この二人のにおいをたどれ」


 そして、すぐに動き出す。

 刺客二人の遺体は外見的特徴が同じでありゼンやウォルターとは見分けがつかないが、臭いは違った。

 血のにおいだけではなく体臭も違ったようで、追尾鳥はその臭いを追いかけて飛び始める。

 どこに行くんだろうか?

 オリエント国方面だけど、都市国家があるところとは微妙に向かっている方向が違う気がする。

 もしかして、影の者というのは都市には住んでいなかったのかもしれない。


 飛び続ける追尾鳥を追いかけて、俺たちは影の者の本拠地を探し、攻撃するために足を動かし続けたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 相手の規模がわからないから難しいですけど、 擬態の条件が不明な現状、 影の者の拠点襲撃の一番有効な人数は1人でしょうか。 自分以外全員敵
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