思わぬ人気
「……どうしてこうなった」
「このような展開になるのは当たり前かと。新しい依頼がきました。百三十八件追加です」
新しくバルカ教会の教えを広め、そしてその新宗教を活用して戦場に出る。
俺のその考えは、思わぬ方向に進んでいた。
いや、そうでもないのか。
俺が思い付きで先の展開を考えずに動いただけで、アイなどから言わせればこうなるのは当たり前だったのかもしれない。
新バルカ街にあるバルカ教会を中心として興したこの新興宗教だが、思った以上に受け入れられたようなのだ。
というか、受け入れられたというよりも、逆に利用されそうになっているとでも言えばいいのだろうか。
信者の助けを求める声を受けて人助けを行う、ということを大々的に掲げたところ、ならば助けてもらおうじゃないかと多くの人が声を上げたのだ。
仕事がない。
金がない。
近所の人間と揉めた。
ものを盗まれた。
土地の所有権で殺し合いに発展しそうだ。
恋人に逃げられた。
あるいは、暴力を振るう相手から離れたい。
いなくなった飼い猫を探してほしい、などなど。
そんなことをわざわざ依頼しに来るのか、と思う内容までもをたくさんの人から言ってこられたのだ。
あまりにもいい加減すぎたかもしれない。
どんな困りごとに対応するのかという基準なく、信者を助けると大口をたたいた結果がこれだ。
新バルカ街には話を聞きつけた人が次々とやってきていた。
「……一番多いのはお金の問題、かな? つってもな。そんなのにいちいち金を渡して対応していたらこっちの金がなくなるっつうの。あー、なんかめんどくさいな。ふざけたことを言ってきた奴らは追い返すか?」
「やめておいたほうがよろしいかと思います。そのような対応をしては人心が離れますので」
「そうかもしれないけどさ。ちょっとこれは無理だよ。今でもこの数なんだぞ、アイ。これ以上、困りごとを言われてももっと対応できなくなる」
すでにバルカ教会は対応困難になり始めている。
ハンナをはじめとした教会関係者は悲鳴を上げていた。
なので、本音をいえば集まってきた連中を追い返してしまいたい。
が、それをするのはまずいとアイは言う。
それは分かってはいる。
新しく名乗りを上げた新興宗教が、困っている人は助けるぞと言い始めてすぐにその言葉を取り下げたらどうなるだろうか。
誰だってそんなものを二度と信用しなくなるだろう。
そうなったら、いくら俺たちが聖典と呼ぶ本を配って布教しようがどうにもならない。
誰もそんなものに耳を傾けず心も預けないし、信者を理由に戦闘に介入することはできないだろう。
なので、どんなに無茶でも始めた限りはやらなければならないのだ。
だがしかしだ。
それは分かっちゃいるのだけれど、じゃあ、どうやって対応するんだよいう話になる。
どうも、いきなり話を広げすぎたというのもまずかったようだ。
多くは都市国家であるオリエント国からやってきているようだが、そのほかにもいくつかの村からも困りごとを言いに来ている連中もいる。
そいつらにまでできる限りの対応をしようとなると、バルカ傭兵団の手が足りなくなるのだ。
今でも傭兵団は全部で五百人くらいしかいない。
破綻することが目に見えている。
「この問題に対応する方法は二つ考えられます。お聞きになりますか、アルフォンス様?」
「お、なんだよ、アイ。なにか考えがあるんじゃないか。聞かせてくれ」
「では、まず一つ。依頼に対して金銭を要求することです」
「金を? 助けを求めてきた人にお金を求めるってことか」
「はい。もともと、この話はアルフォンス様が急に始めた行動です。そして、教会が困っている人を助けるという文言は私の確認した限り、聖典には記載がありませんでした。ですので、多少の条件の変更は問題ないかと思われます。バルカ教会に助けを求めるには相応の金銭が発生することとしましょう。そうすれば、少なくとも依頼件数は今よりも落ち着くかと思われます」
なるほど。
そりゃそうか。
無料だからこそ、気軽に言えるというのはあるだろう。
だけどお金がかかるとしたら話は違ってくる。
もともと、この街に住んでいない人間であれば、わざわざ歩いてここまで来てから依頼する必要があるのだ。
そのための出費に追加して、問題解決のために金銭が発生するとなれば、相談しにこないかもしれない。
「でも、金額とかはどうするんだ?」
「依頼内容に適した金額を設定しましょう。統計を取りながら、相場環境なども鑑みて適当な金額を設定いたします」
そして、その依頼料金はアイが決めてくれるようだ。
それは本当に助かる。
アイなら、そう変な金額にはならないだろうからな。
「で? さっき、考えは二つあるとか言っていなかったか? 依頼にお金を要求するってのと、もう一つはどんな考えがあるんだ?」
「教会で仕事を創出しましょう」
「……仕事を作る?」
「はい。アルス様が作った冒険者組合を参考にして、仕事を作ってはいかがでしょうか」
どういうことかと思って、アイに詳しく話を聞いてみる。
それは、アルス兄さんがかつて飛行船に乗って天空王国から更に西へと冒険した先に見つけた土地の話だ。
そこは、人類未踏の土地で、ジャングルとかいう大自然がある場所だった。
天を翔ける空竜との激闘の末にたどり着いたその地で、アルス兄さんは冒険者組合というのを作ったのだそうだ。
冒険者組合では冒険者と呼ばれる連中に仕事を与える。
ジャングルから手に入れることができる持ち帰れば高く売れる植物や動物、あるいは魔物の素材などを集めるような依頼があり、冒険者たちは各々が自分に合った仕事を選んでこなすのだそうだ。
そして、仕事が成功したら報酬を受け取る。
基本的には冒険者組合というのはそういう組織として運営されている。
「ああ、そうか。つまり、アイが言いたいのはこういうことか? 助けを求めてきた奴らから金を出させて依頼を受ける。で、バルカ傭兵団が組織としてやらないといけないような重大なこと以外の雑事は誰か別の暇そうな奴にやらせようってことだな?」
「そのようなものともいえるでしょう。いわゆる、仲介業、あるいは斡旋業とでも言えるでしょうか。これであれば、仕事がないと言ってきた人に対しての雇用創出ができるかもしれません」
アイが考えた二つ目の方法。
それはバルカ教会がお金を受け取って依頼を受諾するというものだった。
で、その依頼を仕事がないと言ってここまできた連中にもやらせてはどうか、というもののようだ。
もちろん、依頼内容に合わせて人を派遣する必要はあるだろう。
問題解決に武力が必要な事案をどこの馬の骨かわからない奴に任せることはできない。
だが、うまくいけば、バルカ教会は依頼された内容を誰かに代わりにやらせるだけで、手元にお金が入ってくる仕組みができるかもしれない。
そんなことが可能だろうか。
……無理、ではないかもしれない。
普通ならば大変だろうけれど、アイがいればそれも可能そうだ。
この面白そうなアイの発案を、更に積みあがっていく依頼書を見ながら、俺は実現できるかどうかを真剣に考え始めたのだった。
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