ヴァルキリー装備
「アルス殿、何をしているのでござるか?」
「んー、いや、そろそろヴァルキリー用の装備も整えていかないとなって思ってな」
「ヴァルキリーの装備でござるか。使役獣に鎧でも作ろうというのでござるか?」
「いや、鎧は金が掛かりそうだしな。とりあえず、他に必要なものがあるから、そっちを作ろうと思う」
「ふむ。して、ヴァルキリーに必要なものとはなんでござるかな」
「そりゃ決まってるだろ。鞍と鐙さ」
紙作りを終えた俺が次に着手したのはヴァルキリーに取り付ける鞍と鐙だった。
このあたりでは多種多様な使役獣が存在しており、いろんな姿をしている使役獣に騎乗している。
そのため、その使役獣に合わせて鞍などを作るのが一般的だった。
以前作ろうかと考えたこともあったが、そのときは断念した経験がある。
街にいるような専門の職人がそれぞれの使役獣にあわせて作る必要があり、その職人のあてがなかったからだ。
だが、今は違う。
目の前にいるグランは割とオールラウンダーにものづくりをこなせるし、完成度はどれも高い。
俺が欲しいものをこいつに伝えて作ってもらおうと、新しく作った紙に図面を書き込んでいたのだった。
「しかし、アルス殿はそんなものなくともヴァルキリーに騎乗できるでござろう。はたして必要があるのでござるのか、拙者にはちとわからないでござるよ」
「そうだな、俺も騎乗できるようになったからいらないかと思ってたんだけどな。やっぱ、戦場ではほしいものだってことに気がついたんだよ」
俺はヴァルキリーに乗れるように何度も訓練していたおかげで鞍や鐙などなくとも問題なく騎乗することはできる。
だが、それでも必要だと痛感したのがフォンターナ軍でレイモンドと戦ったときのことだった。
氷精剣を振り下ろすレイモンドの攻撃を受けて、俺は力負けして体勢を崩し、ヴァルキリーの背中から地面へと叩き落とされてしまった。
だが、あのとき鐙があればそれも違う結果になったのではないかとも思うのだ。
俺が両足で挟み込むようにして体勢を維持している騎乗姿勢よりも、きちんとした鞍にしっかりとした鐙があれば、もっと足を踏ん張るようにして力が発揮できたのではないかと思う。
騎乗状態で武器を振るうときこそ、鐙があれば下半身の力も武器へと伝えることができる。
そのことをあの戦闘で俺は痛感したのだった。
「それに、俺やバイト兄以外も騎乗できるやつを増やしたい。鞍や鐙があったほうが乗りやすくなるのは間違いないだろう」
「なるほど、騎乗部隊を作ろうというわけでござるな」
そのとおりだ。
俺は自分だけが騎乗できるという状況に不便を感じている。
戦いはスピードが大切というのはどこかで聞いたことがあるが、騎乗できる部隊があればそれはかなりの戦力アップとなること間違いなしのはずだ。
角ありヴァルキリーであれば人が乗らずとも戦力となり得るのだが、あれは言ってみれば奥の手のようなものだ。
総数で言えば角切りのほうが多いため、そちらに人を乗せて戦力として使いたい。
だからこそ、俺は鞍と鐙を作ることに決めたのだった。
「一応、図面はこんな感じで。ただ、なるべく乗る人間にも乗られるヴァルキリーにも負担がかかりにくいように作ってくれないか、グラン」
「心得た。任せておくでござるよ、アルス殿」
こうして、ざっくりした図面を描き終え、俺はグランへと鞍と鐙の制作を依頼したのだった。
※ ※ ※
「さてと、必要なのはもうひとつあるな」
俺はグランへと製作依頼を出したあともヴァルキリーへと向き合っていた。
それはもうひとつ、作りたい物があったからだ。
蹄鉄。
たしか、前世では馬の足にある蹄に鉄の部品を取り付けていたように思う。
馬の足にある蹄は移動するたびに削れてしまう。
野生で育っているだけであれば多少削れても自然に伸びてくる分で釣り合いが取れており、別に問題はないはずだ。
だが、人や荷物を乗せての移動が多くなってきたりすると自然に伸びるスピードを上回る速度で蹄が削れてしまうため、蹄鉄という馬用の靴というべきものを取り付ける必要があるというのだ。
今までは孵化したヴァルキリーを販売して終了だったため、あまり気にしていなかった。
だが、これからは少し状況が違ってくる。
いつ、ヴァルキリーを戦力として導入し、人や荷物を運ぶための足となってもらうかわからないのだ。
どれほどの負担がヴァルキリーの足にかかってくるのか、予想もつかない。
だから、今のうちにその備えをしておこうと考えたのだ。
俺はヴァルキリーのうちの一頭にじっとしていてもらいながら、足を観察する。
どうも、前から薄々そうではないかと思っていたが、ヴァルキリーにはとある特徴があることを確信した。
それは、どの個体も体の大きさが同じだということだ。
最初に俺が自分の魔力で孵化させた個体と、ヴァルキリー自身が使役獣の卵を孵化させて生まれた個体には体の大きさに違いがあった。
だから、今まで気づかなかった。
だが、現在、ほとんどの個体は俺ではなく角ありヴァルキリーが【魔力注入】を行って孵化させている。
そうして、生まれてきた個体の体の大きさはどれも一定だったのである。
で、あれば話は早い。
俺は蹄鉄を硬化レンガで作ることにしたのだった。
どの個体もサイズが一緒である、というのであれば、硬化レンガでピッタリの蹄鉄を作りあげて、それを呪文化すればいい。
そうすれば、今後は呪文を唱えるだけで、ヴァルキリーの足にピッタリの蹄鉄を俺以外のものでも作ることができるのだから。
そう判断した俺は、ひたすらヴァルキリーの足にあう硬化レンガの靴をつくり続けた。
野生の馬などとは違ってヴァルキリーは俺の言うことを理解することができる。
ちょっとでも違和感があるようならすぐに首を振って抗議してくるので、ひたすら試行錯誤し続けて、ヴァルキリー自身が納得する靴を作り上げたのだった。
土の上、道路の上、川そばや川底などさまざまな場所を問題なく走破することのできるヴァルキリー専用の靴に人を乗せるための鞍と鐙が完成した。
こうして、少しずつヴァルキリーの装備が整えられていったのだった。
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