血の対処法
「え、できないの?」
「無理だな。その二人の血の入れ替えはやめておいたほうがいい」
新バルカ街についた。
ゼンたちを受け入れる準備を進めつつ、ユーリの問題についてどうしようかと考えていた時、ノルンから言われた言葉に俺は驚いてしまった。
ノルンが言うにはユーリとラーミアは血の入れ替えができないらしい。
なんでだ?
「前に言っただろう。血の入れ替えは血の型が合うかどうかが問題になる。あの二人の血を飲んだが、あれは無理だ。血が混ざり合えば固まるぞ」
そうか。
そういえば、そんなことを言っていたような気がする。
ハンナとミーティアは確か、血の型が同じだったんだったっけ?
だから、ノルンは血を入れ替えてミーティアを延命させることができた。
だけど、それは必ずしも使えるとは限らないということか。
ユーリたちはできないということらしい。
「そうか。だけど、考えてみればこれから獣人の血を引く者を集めた場合、似たような問題は必ず出てくるよな。というか、絶対に兄弟がいるなんてこともないんだし」
新バルカ街に着いたらすぐに血の入れ替えを試してみようと思っていたけど、方針転換しないといけないだろうか。
が、これはこれでよかったと思おう。
ローラに頼んでほかに獣人の血を引く者がいないかどうかを探してもらって集める予定なんだ。
そのときに、誰にでも使える血の対処法があったほうがいい。
ユーリはミーティアのときほどに体調が悪いわけでもないので、焦る必要なくいろいろ試せるかもしれないしな。
「ん? あれ。ちょっと待てよ、ノルン」
「なんだ? どうかしたのか?」
「いや、気になったんだけどさ。血の型が合わないと血液が固まるんだろ? でも、俺やお前の血は大丈夫なんじゃないのか?」
しかし、ノルンと話していて、ふと気が付いた。
そういえば、血の入れ替えではないけれど、この街では普段から他人の体に血を送り込んでいるはずだ。
血の楔。
教会にて儀式と称して血を送り込み、この街に住む条件を守らせているあれだ。
あれは、ブリリア魔導国で手に入れた魔石を利用しているが、あくまでも人の体の中に入るのは俺の血であり、ノルンそのものでもあった。
だけど、それを始めてからすでに多くの人にやっているにもかかわらず、血が固まったという話は聞いていない。
思い返してみると、確か俺の血は他人の血と混ざっても固まりにくいとかなんとか言っていたような気がする。
「ユーリの血を俺の血と入れ替えてみるってのはどうだろう?」
「それは駄目だな。俺はお前と血の契約を交わして混じった状態だ。そのすべてが一時的にとはいえ他人の体に移ることには抵抗がある」
「それは、魔剣としてできないってことか?」
「わからん。今まで俺と血の契約をしてそんなことをした奴は誰もいないからな。ただ、どうなるかわからない危険を冒してまでやるつもりはない」
「うーん、そうか。なら、輸血するだけにしようか」
「輸血? 一方的に血を送り込むということか?」
「そうだ。それなら、別に問題ないんじゃないの?」
「大丈夫だが、血を抜きすぎると力が弱まる可能性もあるぞ」
「問題ないさ。無くなった血を補充する当てはあるから」
今まではハンナとミーティアという血のつながりのある姉妹で血を入れ替えてきた。
だが、それはユーリたちにはできないので、妥協案として俺の血をユーリに送ることにする。
獣人の血の影響が残るユーリの血を抜くことで、体調を安定させることが目的だ。
その抜いた血の分を俺の血で補い、いずれまたユーリ自身の血が増えてきたら定期的に抜き取っては輸血するを繰り返す。
だが、そうすると俺の血が抜きすぎになる可能性があるとノルンは心配する。
これは多分、俺が今後獣人の血を引く者をさらに増やす考えをもっていることも関係しているんだろう。
輸血する対象が増えれば増えるほど、俺の血を使うことになる。
少数ならなんとかなっても、増えると大変なことになるだろうしな。
ただ、これは多分どうにかなる。
前までは使えなかったが、今はエルビスが【回復】という魔法を使えるようになっているからだ。
一瞬にして体を治す効果のある【回復】という魔法。
これは使いこなせれば失われた腕でも取り戻すことができる。
が、エルビスはそこまではできない。
あくまでも、【回復】を使えば傷が治るだけだ。
しかし、それでも【回復】の効果はすさまじい。
なぜなら、傷を治すついでに血も元に戻るからだ。
無くなった腕は元通りにはならなくとも、大量出血した血はきちんと元の量に戻るというのは、前にあった軍事演習での治療で【回復】を使ったことで確認している。
俺の血を抜いてから【回復】すれば、多分血の量も増えるだろう。
それに、俺の血を使っての輸血は一時しのぎの対処療法だ。
獣人の血を引く者の体を本当に助けるためには、別の方法がいる。
それができるかもしれないのはハンナだ。
ミーティアと血を入れ替えたハンナはその後、炎を使う魔術を手に入れた。
だが、それは攻撃魔法にはならなかった。
そのかわりに、ミーティアの体を癒すために【慈愛の炎】という魔術を完成させつつある。
傭兵団を受け入れるときに儀式で使った炎の魔術だ。
炎なのに暖かく心地がいいその魔術は、体を癒し、力を高めてくれる効果がある。
ミーティアを助けたいと願ったハンナだからこそできた魔術だ。
あれをさらに改良して、血の入れ替えや輸血をしなくても獣人の血を引く者を長生きさせられるようにハンナには頑張ってもらおう。
それが完成するまでは、ひとまず俺の血を輸血することで延命できればそれでいいか。
そう結論付けて、とりあえず一度ユーリに対して輸血をしてみることにした。
結果、ユーリの体調はかなり落ち着いたみたいだ。
その後、ハンナに事情を話すと向こうも【慈愛の炎】の改良にはやる気を出してくれた。
どうやら、ミーティアと同じような子がいて、それを助けられる可能性があるというのがやる気につながったみたいだ。
こうして、新バルカ街では獣人の血を引く者に対する対処法を少しずつ蓄積していったのだった。
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