経済改革
「ひでえ……。最初にやることが俺から金を巻き上げることかよ。ひどすぎるぞ、坊主」
「もう坊主じゃねえよ、おっさん。その分、土地をあげたんだから土地代だと思っといて」
一応の組織を作り上げ、まず最初に俺がしたこと。
それは行商人のおっさんから資金を提供してもらうということだった。
魔法陣を使っての命名によって教会へと支払い義務が生じてしまった俺だが、一応その金額は払い終わっている。
へそくりのようにしてコツコツと貯めていたお金で払うことができたからだ。
だが、パウロ司教は俺が出したお金をみて大層驚いていた。
どうやらパウロ司教から見てもその金額は少なくないものだったのだろう。
それだけの金額を俺が払えたのはひとえに使役獣の販売などのおっさんとの取引にあったことになる。
つまり、俺がそれだけ貯め込むことができていたというのはおっさんも膨大な利益をあげているということを意味していた。
なんで今まで行商を続けていたのかと思うほど溜め込んでいたおっさん。
そのおっさんのお金から土地代としてそれなりの金額を払ってもらったということだ。
「まあ、バルカ騎士領の当主様に献金したってことにしといてやるよ。だけど、大丈夫なのか? いきなり貴族の立場に立つことになって組織を作ったみたいだけど、やりくりしていくのは大変だと思うぞ」
「そうだな。とりあえず、お金を稼ぐシステムを作らないといけないよな」
「いうのは簡単だができるのか? 言っとくが金を稼ぐっていうのはお前が思っているよりも大変だぞ」
そんなことを言われなくとも分かっている。
もしも、俺が普通の騎士領のトップだったらそこまで悩まなかったかもしれない。
だが、俺の立場は普通ではない。
もともとが農民であり、そこから力ずくで領地持ちの立場にまで上がったのだ。
寄り親であるフォンターナ家の当主であるカルロスとは一応利害関係もあるため、すぐにどうこうということはない、と思いたい。
しかし、カルロスの部下のほとんどは俺のことをよく思っていないだろう。
もしかしたら、動員されたときに激戦区に放り込まれたり、捨て駒にされたりするかもしれない。
あるいは、領地の統治がうまくいかないようであれば、それを理由に難癖をつけて俺から領地を取り上げるようにカルロスに進言するものも出てくるだろう。
なので、俺はこの領地を平凡に治めているだけでは駄目なのだ。
バルカ騎士領を強く育て上げていかなければならない。
あくまでもお金稼ぎはその第一歩ということになるだろう。
「まあ、そういうわけだから抜本的な改善が必要だろうな。具体的には物々交換から抜け出さないと……」
最初の問題はそこに尽きるだろう。
バルカ騎士領には【整地】や【土壌改良】という魔法を使える連中が300人近くいる。
なので、食料自給率は格段に向上することは間違いないと思う。
だが、だからといっていつまでも物々交換だけを続けられては困る。
それだと、いつまでたっても俺がやっている使役獣の販売と魔力茸の栽培以外の収益が入って来ないことになるからだ。
まずは、領民全員がものではなくお金を稼げるようにしていこう。
そのために必要なのは、やはりこの地にいない商人の存在である。
「ってことで、これから市場開放するぞ」
こうして、俺の経済改革が始まったのだった。
※ ※ ※
おっさんは行商人としてあちこちを回っていた。
そのときの話を聞いていたが、意外と商人も大変なのだ。
まず、今の世情では各地を移動するだけでも結構たいへんだったりするらしい。
各貴族が治める領地を通って別のところに行こうとすれば、素通りするように商品を運ぶなどということはできない。
各地に関所のようなものがあり、そこで通行料などを取られてしまう。
さらに問題なのが、各地で商人同士の集まりであるギルドが存在している。
ひとつの商人ギルドがひとまとめに各地の商人を取り仕切っている、というのであればもう少しわかりやすかったのだがそうではないらしい。
各地や各商品ごとにギルドが乱立しており、それらを無視して勝手に商売することはできないのだ。
もしやろうとすれば、人知れず消されてもおかしくない。
だが、俺にとってこの仕組みはあまりうれしくない。
ものの動きがいろんな事情によって抑えられてしまい、どうしても値段が上がってしまうからだ。
これでは俺の領民にまでお金が回らないかもしれない。
ある程度、庶民でも買えるように値段を抑えるためには、商人同士の価格競争も必要だろう。
そのために、自由市をつくろうと思う。
ギルドなどというものを介さず、俺が用意した土地に市を開き、俺が許可を出したものであれば自由に売り買いできる。
そんな場を用意すれば多少はお金の流れも良くなることだろう。
「いや、そんなうまくいかないだろう。誰がこんな北の僻地までやってくるんだよ。ここに来るまでにもよその領地で通行料とか取られるんだから、結局一緒だと思うぞ」
俺の考えをおっさんに話すと即座に反論が返ってきた。
やはり、この世界で商売をしてきた人物だけに難しいと考えざるを得ないのだろう。
だが、やり方次第だと思う。
商人たちが向こうから自主的に集まってくるようなシステム。
それを作り出せば自由市も賑わってくるようになるだろうと考えて、俺は市を開く準備を始めたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。





