結婚の決め手
「……なんか、あれだな。思ったとおりにいかないもんだね」
「ふふふ。残念だったわね。でも、いいじゃない。病院も託児所も学校も、みんなに好評みたいよ、アルフォンス君」
「そうだろうね。全部無料だし。けど、それとは関係なく結婚話がこんなに加速するとは思わなかったな」
夏が来た。
なんか、最近はいろんなことをしているからか時間が過ぎるのがはやいように感じる。
その間に、バルカ村には変化が表れていた。
このバルカ村に傭兵たちが望んだことで女性陣が移り住むことになった。
その女性たちと傭兵たちがなるべく結婚しやすいようにと思って俺はいろいろと村の設備を整えてきた。
これから生まれてくるであろう子どもたちにとって必ず助けになるということで病院も作った。
子どもを産んでも育児を助けられるように託児所も作った。
大人も子どもも通える学校も作った。
そして、それらはすべてバルカ村の財政支出で賄うことで、お金の不安も減らした。
だが、結果的にそれらは結婚する者たちに対して直接効果を発揮することはなく終わりそうだ。
というのも、ある時を境に一気に結婚話が加速したからだ。
今ではこの村にいる多くの女性が相手を決めて結婚してしまっている。
そして、それは俺が作った病院やら託児所やらはほとんど関係ないことがきっかけだった。
元高級娼婦という、バリアント出身のド田舎の男連中にとって恐ろしく高嶺の花の存在。
そんな女性陣があれよあれよという間に結婚相手を決定した決め手とはなんだったのか。
それは、魔法の存在だ。
最近、小国家群で広がり始めている魔法。
名付けができる【命名】という魔法が使える者によって、各地で増えている魔法の使い手だが、偶然なのかそれとも娼館という閉鎖された空間にいたからか、娼婦をしていた女性たちは誰も魔法が使えなかった。
そんな女性たちは魔法に飛びついたのだ。
考えてみれば当たり前だったかもしれない。
とくに女性陣に喜ばれたのは【洗浄】という魔法だった。
どんなに汚れていても一瞬できれいに汚れを落とすことができる魔法。
それはものに限らず、人も対象になる。
自分の体をいつでも何度でも、完全にきれいな状態にできる魔法だ。
人一倍、見た目に気を遣う仕事をしていたからか、女性陣にとってこの【洗浄】はまさに奇跡の魔法とでもいうべきものだった。
もちろん、【洗浄】以外の魔法も魅力的だったと思う。
特に、生活魔法は誰が使っても生活の質を大きく向上できるものばかりだ。
自分も魔法を使いたい。
そう思わないほうがおかしいだろう。
だが、バルカ村にやってきてしばらくしても女性たちに魔法が授けられることはなかった。
一応、この村に来たばかりの人間に対して勝手に【命名】をしたりするなと禁じていたからだ。
男性も、孤児たちも、だれもがその注意を守ってくれていたおかげで、魔法が使える女性はこれまで現れなかった。
が、そこに変化が現れた。
ついに、魔法を使える女性が出てきたのだ。
それは傭兵と結婚した女性たちだ。
武術会や品評会で結婚話がまとまった八組の男女。
病院や学校などが完成した後に、俺はついでに教会を建てた。
そして、その教会でそいつらの結婚式をしたのだ。
このオリエント国での風習でも結婚式というのがあるが、俺の地元のフォンターナ連合王国では少し変わった結婚式が行われる。
いや、それは正確ではないかもしれない。
少し変わった結婚式は一般人ではなく、騎士以上の身分にある者だけの話なのだから。
騎士は女性と結婚するとき、教会で結婚式を挙げる。
そして、その際に教会では継承の儀というのを行うのだ。
これは結婚した男女の間に子どもができた際に、その二人から生まれた男児に対して継承権が与えられるというものだ。
この継承権があると、父親が亡くなったとき、その継承権を持つ子へと力が受け継がれる。
が、この継承の儀をこのオリエント国で行うことはできない。
なぜならば、教会関係者がいないからだ。
あれは、教会にいる神父でなければできない仕組みになっているらしい。
まあ、できないならばできないで仕方がない。
仕方がないが、どうせならちょっと変わった結婚式にしようと思って、夫婦の契りを結ぶ際に【命名】を使わせたのだ。
結婚する者たちの間で、男性が【命名】を使って伴侶となる女性に対して名付けを行う。
このときに、特別に苗字を名乗らせることを許した。
普通の平民は姓を持たないから、お前たちは特別だぞという意味を込めたつもりだった。
というか、実際に一級市民の権利を持つ女性と婚姻することで、相手の男も一級市民の権利を持てるので、それを明確化する意味もあった。
そうして、この村では結婚した者は姓を持つに至り、そして、姓を持つ女性は魔法が使えるようになった。
【洗浄】や【飲水】、【着火】などの生活魔法とともに、【瞑想】や【土壌改良】などの魔法も使える。
ぶっちゃけて言えば、これらの魔法さえ使えれば生きていく分だけの糧を得ることはできるくらいだ。
こうして、バルカ村の中では魔法を使える女性と使えない女性に分けられた。
そうなったら、どうなるか。
結婚をためらっていた女性陣も、我も我もと生涯の伴侶を決めてしまったのだ。
そこには、将来への不安がどうとか、病院がどうとかはあまり関係なかっただろう。
とにかく便利すぎる魔法を自分も手に入れたいという思いが大きく関与したのは間違いない。
結果的にみると、もっと早く結婚式を挙げさせて【命名】を使わせていればよかったのにという思いだけが残ることになった。
まあいいか。
いろいろ狙ってやったことがきっかけではなかったとはいえ、この村に来てもらった女性たちの多くが結婚してくれたのだ。
一応だが、バリアント出身の傭兵たちを認めてくれたということ自体は間違いない。
それに、なんだかんだで結婚を決めた男連中は女性側から見ても選ばれるなにかを持っていたということでもある。
今回結婚できなかった男連中には頑張って自分磨きをこれからもしてもらおう。
こうして、バルカ村の嫁取り騒動はいろいろとありつつも、ひとまずうまくいったのだった。
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