人材確保
「は? 一級市民の権利を持つ娼婦を身請けですか? それはかまいませんが、この人数は間違っていないでしょうか。百名とありますが」
「あってるよ」
「……失礼ですが、アルフォンス殿はまだ幼い。娼婦に関心を持つのはどうかと思うのですが」
「うん? ああ、違うよ、オリバ。俺が身請けする代金を払うことになるけど、別に結婚したいとかそういうのじゃないから。傭兵たちの結婚相手としてってことだよ」
クリスティナとの話し合いで、傭兵たちの結婚相手は娼婦を身請けすることでなんとかしようということになった。
で、こういう場合、本来ならば直接オリエント国にある娼館に向かって、その娼館の支配人あたりに話を通すのが普通なのかもしれない。
ただ、今回は数も多くなりそうだったのでオリバに話を通すことにした。
オリバから議員であるバナージなどにも話を通してもらって、娼館との交渉にも掛け合ってもらえたらという思いからだ。
そのオリバが俺の切り出した話を聞いてあぜんとしている。
まあ、それはそうだろう。
まさかそんな話を俺からされるとは考えもしていなかっただろうし。
「傭兵たちのですか。本気なのですか? 身請けの相場は往々にして高いものです。それを百名もだなんて、とんでもない金額になりますよ」
「一応、払えるはずだよ。今までバルカ村として稼いできたお金がほとんど吹っ飛ぶけど。まあ、命を懸けて頑張って働いて、戦ってくれる傭兵たちのために使うならいいかと思ってね」
「そうですか。払えるのであれば私がとやかく言うことではないのですが……。ですが、別に一級市民の権利を持つ者ではなくともよいのではないですか? 身請けできる娼婦はいろんな人がいます。それこそ、二級市民や自由市民であれば、支払額は大きく下がるかと思いますが」
「いいんだよ。人材確保も兼ねているし」
「人材確保ですか?」
「そうそう。なんか聞いたところによると、一級市民の権利を持つ女性が娼婦をやっているって場合は高級娼婦が多いんでしょ? で、そういう人って格式の高い店で身分の高い人を相手に接客する必要があるから、いろんなことを学んでいるって聞いたんだ。そういう教養のある人がバルカ村にも欲しかったから」
「なるほど。確かに教養人という面で見れば高級娼婦はそこらの一般人よりも優れているかもしれませんか。ですが、そういう高級娼婦はオリエント国でも人数が限られているかと思います。一度に百名も集めるとなると、娼館のひとつふたつでは賄いきれません。それこそ、すべての娼館に話を通して、各店から分散して身請けする必要があるかと思います」
「うん。だから、オリバに話を持ってきたんだ。そういう調整をお願いしたい。駄目かな?」
「……わかりました。交渉や調整に時間が多少かかるかもしれませんが、なんとかしてみましょう」
「ありがとう。頼りにしてるよ、オリバ」
さすがオリバだ。
クリスティナ曰く、こういう話をまとめるのは意外と大変らしい。
どのくらい娼館の数があるかはわからないけれど、どの店から何人ずつ身請けするかを調整するだけでも手間がかかると聞いた。
一級市民の権利を持つ娼婦は基本的に教養があり、高額だ。
娼館も人気の娼婦やお偉いさんを接客できる人材を簡単に手放したいと思うかは微妙なこともあるらしい。
ただ、人は必ず歳をとる。
で、一定の年齢を越えてくると娼館としては早めに身請け話が決まってほしいという場合もあるようだ。
同じ人数で商売をするならば、若い人が多いほうがいいということらしい。
つまり、どれほど教養のある高級娼婦であっても、どの娼館にも一定数出ていってほしい人が存在するのだとか。
そのへんの細かな調整に手を取られるのは面倒なので、オリバに一括して担当してもらうことにした。
で、身請けした人はバルカ村に来てもらって、まずは普通に生活してもらうことにする。
仕事は主に孤児たちの教育だ。
今はアイが孤児たちを教育していて、それはある程度うまくいっていると思う。
けれど、アイが教えているのは基本的には学問が主だった。
知識を教え込み、それを学んでもらっている。
そこに、高級娼婦という経験を持つ人から教養を加えることはできないかと思ったのだ。
一応、礼儀作法なんかをアイは教えてはいるが、それはフォンターナ連合王国式だったり、ブリリア魔導国式だったりで、小国家群とは違う。
このあたりのお偉いさんと会うときには、やっぱりこの辺の風習を知っていたほうがいいしね。
で、孤児の教育をしつつ村で生活してもらいながら、傭兵たちには自分で結婚相手を探してもらおう。
誰が誰とくっつこうと自由だ。
頑張っていいところを見せる努力でもしてもらうとしよう。
「いやー、さすがはアルス様と血がつながっているだけありますね、アルフォンス様。お金の使い方がすごいです。いつも金欠だと言いながら大金を使いまくっていたアルス様の姿と重なりますよ」
「あはは。アルス兄さんってそんな感じだったんだ?」
「ええ。まだバルカ騎士領の領主だったころから、よく財務担当だったトリオン殿と言い争っていましたよ。お金を使いすぎだとね」
「まあ、いいんじゃないの? 人材確保できるんだし、お金は使うために稼いでたんだしね」
「なんにせよ、傭兵たちは喜ぶでしょう。高級娼婦に認められる奴が何人くらいいるかは疑問ですが」
オリバとの話が終わった後、エルビスが声をかけてくる。
たしかにちょっとお金を使いすぎかもしれない。
けど、別にいいだろう。
また稼げばいいんだし、払えるしね。
こうして、オリバの働きもあり、しばらくしてから大人数の女性がバルカ村へと移り住んでくることになったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





