炎上
「……オリエント国から帰ってきたら家が燃えてるんだけど。なにこれ?」
「ご、ごめんなさい、アルフォンス様。私が燃やしちゃって」
俺が茫然とつぶやくと、近くにいたハンナがばっと頭を下げて謝ってくる。
どうしてこうなったのだろうか。
俺がオリエント国にいるバナージに会いに行っている間に、我が家が燃やされてしまったようだ。
バルカ村の中央にあった、もともとの村長の家からモクモクと煙が出続けている。
「なんでこんなことを? 家を放火するくらい気にくわないことでもあったのか?」
「違います。そんなわけありません。アルフォンス様には感謝しています。不満なんてないです」
「じゃあなんでさ。最近、ミーの調子が悪かったのと関係があったりするの?」
「えっと、そうなんです。実はこんなことができるようになって。ほら、見てください、アルフォンス様。私、炎が出せるようになったんですよ」
え?
ハンナがそう言いながら、手のひらを上にして魔力を集めた。
そして、次の瞬間、その手のひらから空に向かって炎が出た。
真っ赤な炎が出ている。
「すごいな。どうしたの、それ? もしかして、魔術が使えるようになったのか?」
「はい、そうなんです。えっとですね。ノルン様に私とミーの血を入れ替えてもらって、そしたら体中が熱くなって。で、なんとかその熱いのを体から追い出そうとしたら炎が出たんです」
「……??? わけわかんない。何がどうなってそんなことになるの?」
ていうか、ノルンのやつなにやってんだ?
ハンナとミーティアの血を入れ替えた?
確かにそんなことができるのは、この場にはノルンしかいないだろう。
バルカ村から離れる際の念のための留守番要員として鮮血兵を残していったのが、なんかよくわからんことをしてたのか。
「ふーん。ミーが猫になるのが体の負担になってたのか。で、それをハンナの血と入れ替えて、ハンナはその血の暴走を抑えるために炎の魔術を使えるようになった、と。そんなこともあるんだな」
その後、何度か質問も繰り返してようやく事態の把握ができた。
ハンナはどうやら魔力を使って炎を出せるようになったことで、体のしんどさはなくなったみたいだ。
元気いっぱいのように見える。
ミーティアのほうは血を入れ替えてから猫化できなくなっているみたいだ。
だけど、これで全部問題なしというわけにはいかない。
なぜなら、いくら血を入れ替えてもそれは一時しのぎだからだ。
いずれ、ミーティアの体は新しい本来の自分の血を作りだすことになる。
そうなったら、また肉体変化ができるようになる。
その時に体に悪影響が出るかもしれない。
それを防ぐためには、これからも定期的にハンナの血と交換しないといけないだろう。
「ま、それなら次は俺がいるときに血の入れ替えをしてよ。というか、ノルンの奴は自分が血を拝借して飲みたかっただけじゃないのか。なんにしても、ミーもハンナも無事でよかったよ。火事も家は燃えてるけど、誰も怪我していないみたいだし」
「ありがとうございます。アイ先生が火事に気が付いて、すぐに対処してくれたんです。火は止められなかったので、家の中にあるものをみんなで持ち出しておきました」
「うん。物もそうだけど、みんなが無事でよかったよ。けど、これじゃあ、これ以上ここには住めないな。新しく家でも建てようか」
やっぱり木造の家って火事があったとき大変だな。
燃え続ける旧村長の家を見ながら、そんなことを考えてしまう。
縁側とかがある家は庭で訓練した後すぐに家に上がるのは便利だけれど、次の家はレンガ造りにしようかな。
硬化レンガなら耐火性能が高いはずだし。
そうだな。
せっかくだし、アイに設計図でもお願いしてバルカニアとかに多い建築方法で家でも建ててみようか。
「アル様、ミーね、元気になったよ」
「ん? ああ、そうみたいだな。よかったな、ミー。最近元気ないときがあったけど、ハンナのおかげでそれも治りそうじゃないか。もう大丈夫なんだな?」
「うん、へいきー」
「ほんとに? 体はしんどくないのか?」
「うん。おねえちゃんのおかげで元気になったんだよ。だから大丈夫なの」
「うーん、まあミーがそういうならいいか。けど、もしまたしんどい時があったらちゃんと俺かハンナに言うんだよ。無理だけはするなよ」
燃える家を見ていたら、ミーティアが話しかけてきた。
本当に大丈夫なんだろうか。
しばらくは俺も様子を見るようにしとこう。
それはそれとして、猫化ができなくなったのはちょっと残念でもある。
ミーティアがもう少し成長して体が大きくなって丈夫になってからなら、肉体変化をしても平気にならないだろうか。
魔法になったら面白いだろうというのもあるけれど、単純に猫になったミーティアの頭をなでると気持ちよさそうにするから、俺も好きだし。
けど、この二人はすごいな。
まさか、孤児を教育すると決めた時に、こんな変わった力を持つことになるとは思いもしなかった。
もしかして、意外と孤児を集めて育てれば、こんなふうに魔術師が誕生するんだろうか。
もう少しここで教育する孤児の数でも増やしてみてもいいかもしれない。
そんなことを思いながら、俺は最後の柱まで燃え尽きて崩壊する村長の家を見続けたのだった。
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