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魔導システム

「え? パウロ神父が呼んでる?」


 俺が道路整備などを終えて、城に戻って何日か経過したときのこと。

 バルカ村から来た人に村の教会にいるパウロ神父が俺を呼んでいると聞いた。

 実はパウロ神父はしばらく村を留守にしていたようで、全然会っていなかったのだ。


 もしかして、というか、もしかしなくとも、命名の魔法陣のことを言われるのではないだろうか。

 俺が多くの人に魔法を授けたということはみんな知っている。

 そのときに、俺がみんなにバルカという姓をつけていっていることもだ。

 だが、それはもともとパウロ神父が洗礼式のときに命名の儀で使った魔法陣を見て覚えたものだった。

 あのとき、パウロ神父は名付けは神の加護だと言っていた。

 それを俺が勝手に使っていると知ったらどう言うだろうか。


 行きたくないな。

 そう思いながらも、しぶしぶ村の教会へと行くことにしたのだった。




 ※ ※ ※




「お久しぶりですね、アルス。私が少し留守にしている間に、いろいろとやっていたようですね」


「あー、神父様もお元気そうで何よりですね。しばらくいませんでしたけど、どこか行っていたんですか?」


「私のことはおいておきましょう。今回、あなたを呼んだ理由はわかりますね」


「……さあ、ボク子どもなんでよくわかりません」


「怒りますよ」


「すいません。名付けのことですよね?」


「そのとおりです。あなたは教会に無断で人々に名付けを行い、あまつさえ魔法を授けた。これがどういうことを意味するのか、分かっているのですか?」


「いや、仕方なかったんですよ。カイルが怪我したと思ったら、兵士が剣を向けてきたんです。それを正当防衛したら死んじゃったんで、しょうがなく身を護るためにですね」


「……はあ。あなたを見ると、ものを知らないということがいかに怖いことかというのを感じさせられますね。言い訳は結構です。今度という今度はあなたに言っておかなければならないことがあります」


「あの、こう見えて結構忙しかったりするんで、お説教なら結構です……」


「いいから聞きなさい。あなたは魔法と名付けについてを知っておかなければなりません」


 俺はパウロ神父と話す前から話している間も、ずっと怒られるものだとばかり思っていた。

 だが、パウロ神父の目的は少し違ったようだ。

 どうやら、俺が知らない魔法と名付けのことについてを説明したいらしい。

 俺が教会の一室でおとなしく聞く姿勢に入ったのをみて、パウロ神父はゆっくりと話し始めたのだった。




 ※ ※ ※




 この世界には魔力が存在しており、その魔力を利用して魔法を使うことができる。

 教会で授かる生活魔法を始め、フォンターナ家が使っていた氷の魔法や俺のオリジナル魔法などがそうだ。

 だが、俺は全てをひっくるめて魔法と呼んでいたのだが、実は段階に応じていろいろと呼び方があるのだそうだ。


 ざっくり言ってしまうと、呪文を唱えて発動するものを魔法という。

 生活魔法の【照明】などや俺の【整地】などは魔法に位置づけられる。

 だが、魔力を利用して現象を起こす際に、呪文を使わずに発動することもある。

 これは、魔術と呼ぶのだそうだ。


 この世界では大なり小なり、すべての人が魔力を持つ。

 そして、その中には自分の魔力を使って、普通の人ができないことをできる人が存在する。

 俺のように呪文を使わずとも魔力を使って畑を耕したり、バイト兄やバルガスのように魔力で自分の体を強化する事ができる人もいる。

 これは魔力を使った技、すなわち魔術の使い手ということになる。


 魔術の基本は自身の肉体を強化することだが、稀に土や氷などを操るものもいる。

 そういう魔術師たちだが、その中でも長い年月をかけて研鑽を積んだものの中には言葉を発しただけで魔術を発動させるに至る人がいる。

 この呪文を使っての魔術のことを魔法、そして魔法を使う人のことを魔法使いと呼ぶのだ。


 魔術師の中でも魔法使いは希少だ。

 それも当然だろう。

 呪文を唱えた際に全く同一の効果を発揮するというのは、言葉でいうほど簡単ではない。

 言ってしまえば、感謝の正拳突きを毎日繰り返して、達人を超える領域に入ったものと同じなのだ。

 魔法を作り出す、というのは途方も無いことだと考えられている。


 さて、ではこの達人中の達人が使える魔法をなんとかして他の人にも使用可能とならないものか。

 そう考えたものがいるのは不思議ではないだろう。

 そうして、長い年月のなかでそれを実践してみせたものが現れた。

 魔導師の出現だ。


 かつて存在した魔導師によって、魔法を使えるものが名前を付けるという行為をトリガーにして魔法の伝導を実現するに至った。

 その魔導師はこの技法に気がついたのは自分だけの功績ではなく、神によって与えられたものだと言っていたそうだ。

 これがパウロ神父も所属する聖光教会の起源である。


 魔導師は独自の魔法陣を用いて、他者へと魔法を伝導する。

 これはそれまで一部の人にしか使えなかった魔法を広げることに役立った。

 特に一番教会の普及に役立ったのが、生活魔法だ。

 すべての人に必要であり、毎日使うもので、いくら広がっても問題にならないもの。

 そうだ。

 攻撃力のある魔法をやたらと広げるよりも安全に、警戒されることなく魔法を広げていったのだった。


「ですが、その魔導師の目的は別にありました。実は彼の目的は他にあったのです」


 ここまで説明してきたパウロ神父がそう切り出す。

 話を聞いているとこの内容は教会の起源であり、闇の部分にまで踏み込みかねないものではないだろうか。

 こんな話をしてもいいのだろうか。

 いや、俺はすでに魔法陣を覚えて他者に名付けまでしている。

 そんな状況だからこそ、言っておくべきことがあるのだろう。


「アルス、いいですか。名前をつけるというのは、わかりやすく言えば親と子の関係です。明確に上下関係が生まれるのですよ」


 だが、その内容にはさすがに俺も驚かされた。


 魔法陣を発動させた状態で名付けを行うと、名前を授けた側の魔法を名付けられた側が使うことができるようになる。

 が、実はこれは一方通行の関係ではなかったのだ。

 名付け親は名付けられた子に当たる関係の人と魔力的なパスがつながる。

 つまり、名付け親は子側から常に一定割合の魔力を吸収し続けるのだという。


 もしかして、最近俺の魔力量が上がってきているのもこれが原因なのだろうか。

 多くの人に名付け、魔法を使えるようにしたが、実はその人たちから魔力を吸収し続けている、ということになる。


「あ、これってもしかして、俺は教会の中で完全に踏み込んだら駄目な領域に無断で踏み込んでいることになるのか」


「よくわかりましたね。教会の中でも私のような神父、つまり司祭以上の地位にいるものしか使えない秘法であり、神聖な行いにあなたは入り込みすぎました。これがいかに危ないことなのか、賢いあなたならば理解できることでしょう」


 ……まずい。

 土地を治める貴族と喧嘩するだけにとどまらず、教会なんかともめたら俺の人生は本当におしまいだ。

 どこに逃げても逃げられなくなるのではないだろうか。

 パウロ神父から告げられた内容を理解した俺は、目の前が真っ暗になったのだった。

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[良い点] ヒャッハー!宗教勢力との戦いだー!
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