住居
「うーん、石畳じゃなくなっちゃったな……」
俺は新たに【硬化レンガ生成】という呪文を作り上げることに成功した。
その呪文によって生み出されるレンガは今までよりも遥かに硬いものだ。
しかも、材料として使った大猪の牙やヴァルキリーの角といったものがなくても、魔法を発動させるだけで土から作り出せる。
改めて魔法の便利さはすごいものだと実感してしまう。
その硬化レンガを使って他のものにも応用できないかと検討していた。
まずは、まだ呪文化が完全に終わっていなかった【道路敷設】という呪文に硬化レンガを使ってみることにしたのだ。
以前いろいろと試した中で、今後道路を作っていく際に古代ローマ式の石畳の道でも作ってみようかなと思っていたのだ。
排水を良くするために地面を掘り、大小の石と粘土、砂利などを敷き詰めた上から重さのある石をゆるいアーチ状に作ることで、長い期間使用可能な道路ができる。
この上部に置く石を硬化レンガにしてみようかなと考えたのだ。
道路の幅は6mほどとして、その両サイドに少し段差をつけて高さを上げた歩道を設置する。
こうすることで真ん中の道路をヴァルキリーがひく荷車などが通り、歩行者は安全に歩道を歩けるようにと思ってのことだった。
だが、魔法で作ってみるとどうにも俺のイメージする石畳の道路ではないものが出来上がった。
理由は単純だ。
一番上に敷き詰めているのが硬化レンガだったからだ。
大理石のようにきれいな硬化レンガ。
それがすべて同じ大きさできっちりと敷き詰められているのだ。
まるで一枚岩のような道路がずっと続いている。
石畳だともっとデコボコしているものだと思うのだが、そんな凹凸は一つもない。
これなら馬車なんかに乗っていても振動が少なくすむに違いない。
「イメージと違うけど、まあいいか。デコボコしているよりも遥かにマシだろうし」
ちょっと印象が違うものの、まあ、古代ローマの街道を参考にしただけで完全再現したかったわけでもない。
十分使い物になるだろうと思って、そのまま完成した道路を【記憶保存】の魔法でインプットしたあと、条件反射で作ることができるように呪文化させたのだった。
※ ※ ※
「アルス殿。ご依頼のあった新築が完成したのでござるよ。ご覧あれ」
俺が硬化レンガを作ったり、【道路敷設】の呪文化をして、壁の中の土地に道路を敷設し終わった頃だった。
グランがやって来て、依頼してあった建物が完成したことを告げてきた。
グランは俺が用意したレンガの総数を数え上げ、それをもとに何度も図面を引いて、いかに無駄なく大きな建物を作れるかを考えてくれたらしい。
「なるほど。窓を多くしたのは建材の節約のためか」
「そうでござるよ。以前倉庫でホコリを被っているガラスを見ていたでござる。カイル殿にお聞きしたところ、アルス殿が作ったものの売れずに放置されたものだと言うではありませんか。それを見て、ピンと来たのでござるよ」
グランの作った建物は以前街で見かけたようなあまり窓が存在しない建物とは一線を画していた。
ほぼすべての部屋に大きめの窓が設置され、俺が作ったまま置いてあった窓ガラスがはめ込まれていたのだ。
そういえば前世でも聞いたことがある。
石などで建築物を作る際にアーチ状にすることには建材を減らすメリットが存在するのだという。
アーチ状のものとしてよくあるのは川を渡るのに設置する橋だ。
まずは橋を設置する予定の場所に木組みで橋をかける。
その木組みをアーチ状にしておき、アーチに合わせて石を並べていく。
左右から石を並べ終えたら、最後にアーチの頂上部分に要石というのをはめ込むのだ。
この要石をはめ込むことで、もともとあった木組みの部分を撤去しても重力にも負けず、橋を通る人や物の重量にも負けない強い橋が完成するのだ。
つまりは木組み部分に本来必要だった建材を丸々省略できるうえに構造物の強度を上げる、というところにアーチ状建築のメリットが存在するというわけである。
このアーチの特性を用いた建材を減らし強度を上げるテクニックは何も橋だけに限られるわけではない。
グランがその特性を今回作った建物に数多く利用していたのだ。
俺の中では玄関や部屋の扉、窓といったものは長方形のような形をしているものだという認識がある。
だが、扉や窓の形を長方形ではなく、上部を半円形にするとどうなるだろうか。
半円形、つまりはアーチ形状になるのだ。
扉や窓をはめ込む壁の穴をすべてアーチ状に開けることで、建築資材を減らし建物の強度を上げることに成功していたのだ。
「すごいな。前の建物は宿屋だったけど、それと比べるとかなり広く感じる。それに窓が多くあるから開放感が全然違うぞ。これはすごくいい」
「どうやら気に入っていただけたようでござるな、アルス殿」
「最高だよ、ありがとうグラン。この報酬はいくらでも払うよ」
「それはありがたい。であれば拙者にも家を建てる権利をいただけないでござるか?」
「家? ここにか?」
「そうでござる。拙者旅の身なれど気兼ねなく暮らせる場所というのもほしいとは思っているのでござる。アルス殿の近くであればまた面白いものが見られるかもしれぬと思い、是非にお願いしたいのでござるよ」
どうしようか。
実は土地を壁で囲ってから、壁の中に住まわせてくれという人が少しずつ出てきているのだ。
だが、今のところは許可していない。
基本的にヴァルキリーたちの生活スペースであるという認識が俺の中にあるからだ。
しかし、グランが住みたいと言うのならば許可してもいいのかもしれない。
ここまでいろんなものを作れる人間というのはそうそう出会えないのだから。
こうして、俺の土地に家を持つ最初の人間としてグランが選ばれたのだった。
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